2025年09月08日
8月29日に公表された令和8年度の厚生労働省全体での予算概算要求額は約34兆7929億円であった。そのうち、歯科保健医療関連の概算要求総額が令和7年度予算額の9.5%増の46億 6000 万円であることについて、日本歯科医師会は、歯科保健医療施策をより充実・強化するために必要な最低限の要求が行われていると考えている。今回、歯科関連において注目すべき点としては、「骨太の方針 2025」に記載されている「生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)に向けた具体的な取組の推進」と「歯科医師の不足する地域の分析等を含めた適切な配置の検討を含む歯科保健医療提供体制の構築と強化」に関連した「生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)パイロット事業」並びに「歯科医療提供体制構築推進・支援事業」が、これまでの事業成果や骨太の方針の提言を踏まえ、事業内容が拡充されており、この点は評価をしたい。
1)歯科健診等関連事業としては、継続事業の「生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)環境整備事業(全世代向けモデル歯科健康診査等実施事業)」に加え、新規で「生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)パイロット事業」及び「8020運動・口腔保健推進事業」の中の「生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)パイロット事業(自治体)」が要求されている。これらの事業内容は、従来の全世代を対象とした目的に応じたモデル歯科健診・啓発等の実施支援・検証事業や、従前に開発支援を実施した簡易な口腔スクリーニングツールを用いた歯科疾患のリスク評価及び有効性の検証を行う新たな事業、自治体を対象としたパイロット事業等となっている。これらの事業を通じたいわゆる国民皆歯科健診の実現に向けて集中的に環境整備への取り組みは、歯科健診の推進のための一助となることが期待され、本事業の結果の横展開は歯科健診の拡大への大きな一歩となると思われる。保険者・事業所等における効果的・効率的な歯科健診導入支援とともに、健康教育や受診勧奨を目的とした啓発等を実施し、歯科疾患の予防の推進が不可欠であると考える。
2)歯科保健医療提供体制の構築と強化では、従来の「歯科医療提供体制構築推進・支援事業」及び「地域拠点病院・地域拠点歯科診療所施設整備事業」については、予算規模等が拡充されている。具体的には、へき地や歯科医師等が減少している地域等における歯科医療提供体制の構築支援として、歯科医師等派遣・調整等、当該地域の拠点となる歯科診療所の設備整備、地域拠点歯科診療所や地域歯科医療拠点センターの設置・改修等の事業の拡充が示されている。これらは歯科医師等が減少している地域を含む各地域における歯科医療提供体制の課題を解決するための重要な予算であり、多くの地域に存在する課題を解決し、地域特性に応じた体制構築に向けて財源確保を期待したい。
3)「骨太の方針 2025」において、「歯科衛生士・歯科技工士の離職対策を含む人材確保」が記載され、「歯科技工所の質の担保」が初めて記載されたところである。「歯科衛生士の人材確保実証事業」及び「歯科技工士の人材確保実証事業」においては、歯科衛生士並びに歯科技工士の就労支援や離職防止の取り組みを支援する事業が拡充されている。さらに、潜在的な有資格者を含む歯科衛生士・歯科技工士の把握や求職・求人のマッチングを行うシステム構築に向けた調査・検討を行う事業が新たに創設されている。また、「歯科技工所情報提供システム(仮称)」が新たに要求され、全国の歯科医療機関等が歯科技工所の歯科技工の内容等の情報を把握できるシステム等の構築に向けた検討が行われることとなっている。地域における適切な歯科保健医療の提供に係る必要な歯科専門職を確保することは極めて重要であり、各職種における偏在対策や需給推計は喫緊の課題であり、可及的早急に検討を行い、加速度的に偏在対策を進めていただきたい。
その他、政府全体の医療DXの取組を踏まえた歯科医療分野におけるDXの推進として、歯科電子カルテの標準仕様策定のための調査を行う「歯科電子カルテの標準仕様策定のための調査事業」や、歯科医師臨床研修のための関係費用として、「共用試験(CBT)公的化に係る体制整備事業」、「歯科医療の専門性に関する構築支援事業」、歯科医療従事者等の資質向上として「歯科専門職の業務の普及啓発・人材確保推進事業」が提案されている。
なお、物価高対策を含む重要政策等、診療報酬改定・薬価改定への対応については、予算編成の過程において検討されることとされており、地域における歯科保健医療の現状を踏まえ日本歯科医師会としても状況を注視しつつ、必要な対応を行ってまいりたい。
最後に、我が国の歯・口腔の健康をさらに推進する上で、本概算要求のとおり財源を確保し、予算を確実に執行することが不可欠であり、日本歯科医師会としても協力を行っていきたい。