2019年11月27日
歯科医療機関に占める個人立歯科診療所割合は78.2%(平成30年)であり、従来からこの個人立歯科診療所が地域における歯科医療提供の中心的役割を果たしている。その個人立歯科診療所における直近2事業年結果(平成29年、30年)では、医業・介護収益はわずか0.6%の増加にとどまっている(図1)。
平成30年度診療報酬改定において歯科診療報酬本体は+0.69%であったが、個人立歯科診療所における平成30年度の保険診療収益は平成29年度と比較して、0.16%増にとどまっており、また、法人歯科医療機関等と比較しても、伸び率は低くなっている。
平成20年以降における保険診療収益をみても、依然として低い水準である(図2)。概算医療費を用いて1歯科医療機関当たりの年間保険診療医療費額と個人立歯科診療所の保険診療収益の比較(図3)の結果より、法人歯科医療機関等と個人立歯科診療所の保険収益格差は年々増大していることが示唆された。また、1981年を100とした消費者物価指数は30%増であるのに対し、個人立歯科診療所の損益差額はマイナス37%となっており(図4)、長期に亘る経済的ダメージの蓄積も含め、地域歯科医療を担う個人立歯科診療所の経営状況は厳しい状況が続いている。
近年、医療技術や医療機器の進歩や安全対策、感染対策のニーズに伴い、小規模な歯科医療機関に求められる設備投資や研修の対応等の負担も増えてきている。平成30年度診療報酬改定において、院内感染防止対策が強化され、初再診料の評価を行ったところであるが、歯科診療材料費の増加が1.5%増と大きく、その他の医業費用を含め医療経費が増えている可能性が示唆された(図5)。個人立歯科診療所における経営状況は、これまで繰り返し指摘している通り、既に経営努力や経費削減努力が明らかに限界に達している。安全安心を前提とした歯科医療提供体制の根幹を揺るがしかねない状況であり、加えて求められている歯科医療、口腔健康管理の充実を図るために、速やかで大胆な対応が求められる。
図1.個人立歯科診療所の医業・介護収益・費用および損益差額
(H29,H30)(n=481)
図2.個人立歯科診療所の保険診療収益および損益差額の経年推移
図3.個人立歯科診療所の保険診療収益と概算医療費より算出した
1医療機関当たりの入院外歯科医療費*の経年推移
*概算医療費の1か月歯科診療所医療費を施設数で除した値
図4.個人立歯科診療所損益差額と消費者物価指数の推移
*1981年を100とした場合の割合
図5.個人立歯科診療所における医業・介護費用の内訳(H29 ,H30)