2019年07月18日
世界口腔保健学術大会記念「第25回口腔保健シンポジウム」(主催:日本歯科医師会、共催:株式会社NHKエンタープライズ、協賛:サンスター株式会社)が7月6日(土)、「お口が大切!健康寿命~秘訣はオーラルフレイルの予防~」のテーマの下、458名の参加を得て都内のよみうり大手町ホールで開催されました。
シンポジウムの冒頭、日本歯科医師会の柳川忠廣副会長は人生100年時代と言われる今、口の健康を大事にし、オーラルフレイルを含むフレイル予防により、高齢でも健康な状態で生活ができることを学んでほしいと挨拶しました。
シンポジウムは2部構成で、第一部、第二部ともVTRを交えたパネルディスカッション形式で進行。元NHKアナウンサーの三宅民夫氏をコーディネーターに、講師には医師で東京大学高齢社会総合研究機構教授の飯島勝矢氏、歯科医師で東京都健康長寿医療センター歯科口腔外科部長の平野浩彦氏が、ゲストスピーカーとして女優の生稲晃子氏が、パネリストには歯科医師で歯っぴーかむカム代表の吉良直子氏らが登壇しました。
医科の立場から飯島氏は、筋力や心身の活力が低下し、生活する力が衰えていく「フレイル」は健康と要介護の中間にある状態で、社会的・身体的・心理的なフレイルが重なり合うと早く要介護になる危険性があると説明しました。
その上で、フレイルは適切な介入により改善ができるとし、その兆候に早く気づき改善に取り組むことが重要であるとしました。
「オーラルフレイル」については、フレイルの一部であり、口に関する些細な衰えが心身に影響を及ぼす状態と説明。その兆候として、滑舌が悪い、噛みにくい、食べこぼし、口が渇く、わずかなむせ等を挙げました。また「オーラルフレイル・セルフチェック」による口の状態の確認方法を示しました。
さらに、長期にわたり高齢者の心身の状態を調査した「柏スタディ」に基づくVTR①「オーラルフレイルとは~6年間の健康調査の結果から」を交えて、オーラルフレイルと心身の状態の深い関係性や、オーラルフレイル状態にある人の総死亡リスクが2.1倍と高いことなどを紹介しました。
続いて、歯科の立場から平野氏は、オーラルフレイル対策として、負のスパイラル(些細なことの重なりで口の状態が悪化し、噛むことの不自由さから軟らかいものばかり食べていると噛む機能が低下、さらに軟らかいものを食べるようになる)を断ち切り、好循環に導くかが鍵になると説きました。
また、VTR②「フレイルドミノを食い止めろ!~歯科医療の現場より~」の中で取り上げた、若年認知症の患者に寄り添い笑顔で食卓を囲む家族の取り組みに触れ、歯科が食べる、笑うなどの日常生活のパフォーマンスの向上に大きく関与できると述べた上で、何でも相談できる歯科医師を見つけ、その歯科医院に定期受診するよう呼び掛けました。
オーラルフレイルの予防や対策について、舌の機能に着目した取り組みを進める吉良氏が、熊本地震の際、避難所での口腔ケアと簡単にできる舌の活性「べろたっち」を実践した経験を披露。その効果について、VTR③「口腔ケアとカラダの身近な関係~被災地支援とリハビリの現場~」を交え、実際に口腔ケアで全身状態の改善が実感でき、また口は感覚野のため、筋力を鍛えるというよりも、刺激を与えることで活性化できると説明しました。
平野氏が口腔機能は唾液、噛む力、飲み込む力に加えて、多様性のある舌の機能などが噛み合ってこそ維持できると補足した後、会場の参加者を交えて「べろたっち」「あいうべ体操」を実践しました。
続いて、飯島氏が食・口腔機能など「栄養」と、散歩・筋トレなど「身体活動」とともに、地域活動など「社会参加」をフレイル予防の重要要素に挙げたところで、シニア食堂や高齢者の婚活支援活動を実践しているNPO法人東葛地区婚活支援ネットワーク副代表の松沢知沙氏がパネリストに加わりました。
同氏は、VTR④「食べられる喜びをともに!シニア食堂の取り組み」を紹介し、ただ話すだけでなく、皆で一緒につくり食べることで打ち解け、それが元気の源になり、全身の健康につながると説きました。
飯島氏からは、社会活動などで人とのつながりがある人とない人では、フレイルに対するリスクに大差が出るとのデータが示されました。最後に、生稲氏は「フレイル予防や対策は、家ですぐにできることばかりなのでぜひ実践したい。これからも家族や仲間とのつながりを大切にしたい」と述べました。
また、シンポジウムの開演前には、歯科医師による「歯科相談コーナー」や、デンタルリンス体験などの催しが行われました。
なお、本シンポジウムの模様は、9月上旬にNHK Eテレで全国放送する他、7月27日付読売新聞全国版朝刊、日本歯科医師会ホームページにも記事やVTR①~④等を掲載する予定です。