2024年06月21日
本日閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024(骨太の方針2024)」について、以下の通り日本歯科医師会として見解を示す。
本会は、新型コロナウイルス感染症の対策にも寄与する感染の防止対策としての口腔健康管理の推進や、口腔の健康を推進し、全身の健康や健康寿命の延伸につなげ、国民一人ひとりの健康に寄与するため、生涯を通じた歯科健診法制化を含むさまざまな提言等を行ってきた。また、年始の能登半島地震における日本災害歯科支援チームの派遣などにより地域の歯科医療の支援も実施してきたところである。
本会が提言・実行してきた内容は、今回の「骨太の方針2024」と密接に関わるものが多く、それらを中心に今後とも具体的な提言をして参りたい。
「骨太の方針2024」では、歯科に関連が深いものとして、
▶防災・減災及び国土強靱化
災害時における事業継続性確保を始めとした官民連携強化のため、サプライチェーンの強靱化、土地利用と一体となった減災対策、船舶活用医療、医療コンテナ活用、歯科巡回診療や被災地の災害医療システム活用等の推進による医療の継続性確保、家計向け地震保険への加入促進等に取り組む。
▶全世代型社会保障の構築
全身の健康と口腔の健康に関する科学的根拠の活用と国民への適切な情報提供、生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)に向けた具体的な取組の推進、オーラルフレイル対策・疾病の重症化予防につながる歯科専門職による口腔健康管理の充実、歯科医療機関・医歯薬連携を始めとする多職種間の連携、歯科衛生士・歯科技工士等の人材確保の必要性を踏まえた対応、歯科領域におけるICTの活用の推進、各分野等における歯科医師の適切な配置の推進により、歯科保健医療提供体制の構築と強化に取り組むとともに、有効性・安全性が認められた新技術・新材料の保険導入を推進する。
▶公教育の再生・研究活動の推進
非認知能力の育成に向けた幼児期及び幼保小接続期の教育・保育の質的向上や豊かな感性や創造性を育むための自然等の体験活動・読書活動、キャリア教育・職業教育等を推進するとともに、歯科保健教育や栄養教諭を中核とした食育を推進する。
としてまとめられ、前年の「骨太の方針 2023」を踏襲しつつ、さらに内容が拡充され、本会が提言してきた内容が反映された。
歯科に関わる具体的対応について、
・「歯科巡回診療や被災地の災害医療システム活用等の推進による医療の継続性確保」については、今回の「骨太の方針2024」で初めて記載されたが、災害時の歯科医療については、本会としても専門的な支援を行っているところであるが、国としても歯科巡回診療を始め、災害時の歯科医療の継続性を確保されることに期待したい。避難所での誤嚥性肺炎等による災害関連死防止のための口腔健康管理や医療連携のあり方についても引き続き議論を深めつつ、災害派遣等に即応できる体制の充実が不可欠である。
・「全身の健康と口腔の健康に関する科学的根拠の活用と国民への適切な情報提供」については、引き続き、最近のビッグデータの分析調査を行い、口腔の健康と全身の健康の関連についてのエビデンス、口腔健康管理が感染予防につながるエビデンス等もさらに収集、整理しており、これらを活用し、国民に対して発信していくことが必要である。
・「生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)」では、「具体的な取組の推進」となっていることから、今後は、妊産婦、大学生、労働者、成人期、高齢期等における歯科健診の制度化および更なる拡充を引き続き強く働きかけ、歯科保健医療対策の推進を図っていく。
・「オーラルフレイル対策・疾病の重症化予防につながる歯科専門職による口腔健康管理の充実」は、「2040年を見据えた歯科ビジョン」で「その認知度を50%にする」との目標値を示しており、健康寿命延伸の柱の一つとして、疾病の重症化予防とともにその考え方の普及に努め、歯科界が一丸となって展開し、国民と共に推進していく。
・「歯科医療機関・医歯薬連携を始めとする多職種間の連携」については、歯科医療機関の機能分化や連携、地域完結型の歯科医療の構築といった地域の状況に応じた歯科医療提供体制を構築する上でも重要であり、日本医師会や日本薬剤師会とも連携しつつ対応を推進していく。
・「歯科衛生士・歯科技工士等の人材確保の必要性を踏まえた対応」は、歯科医療提供において、歯科衛生士や歯科技工士の果たすべき役割が重要であることは明らかであるが、いずれも養成校への受験者の減少や、早期離職者も増加してきており、歯科医療現場での人材不足が生じている。今後の生産年齢人口の減少の加速を踏まえれば、両職種の必要数(需給)の把握など、これまで以上に実効性のある対策を強力に推進する必要がある。
・「歯科領域におけるICTの活用の推進」について、「歯科におけるオンライン診療の適切な実施に関する指針」も本年3月に策定されたところであり、オンライン歯科診療等の推進も速やかに対応を進めるべきと考える。なお、ICT利活用におけるデータセキュリティの問題等について、これまで慎重な議論を重ねてきた部分を拙速に推進することなく、国民の一層の理解を得ることが極めて重要である。そのような前提で、歯科においても、PHRなどの健康情報や医療情報の利活用についてさらに議論を深め、例えば歯科健診内容等を統一してデータ活用することにより歯科口腔保健の推進に資することを期待する。
・「各分野等における歯科医師の適切な配置の推進により、歯科保健医療提供体制の構築と強化に取り組む」については、歯科医師の活躍の場は、歯科医療機関における歯科保健医療のみならず、非常に多岐にわたると考えている。例えば、病院や介護、障害福祉等における口腔健康管理の推進、行政分野における他分野と歯科保健医療の連携の推進等があり、それぞれの分野における歯科医師の配置は限定的であることから、適切な配置を推進し、必要な歯科保健医療の提供体制構築が必要である。
・「有効性・安全性が認められた新技術・新材料の保険導入を推進」については、歯科用貴金属の素材価格の変動が歯科医療機関に与える影響を緩和するため、素材価格に応じて随時改定を行うなどの見直しが行われてきたが、これにも限界がある。これまでも産官学の協力により非金属の歯科用材料の導入を図ってきたが、歯科医療機器の新規開発に向けた環境整備など、抜本的な対応も国に求めたい。
・「歯科保健教育や栄養教諭を中核とした食育を推進する」については、これまでも食育の推進は、日本栄養士会等とも連携しつつ推進を行ってきたところであるが、公教育における更なる推進を行うため、日本学校歯科医会等とも連携しながら充実を図っていきたい。
最後に、国民に不可欠な医療を確保することは極めて重要であり、国民の健やかな生活を支える立場から、歯科保健医療の提供、口腔健康管理の維持・推進により、貢献していきたい。