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口腔・顎顔面の痛みと異常感覚、麻痺

口腔・顎顔面の知覚(痛覚、温度感覚、触覚、圧覚など)は主として三叉神経という脳神経が司っています。この三叉神経は脳から三つの枝(眼神経、上顎神経、下顎神経)に分かれ、さらに頭蓋骨から口腔・顔面に出てその知覚を支配しています (図1)。この経路の中 で圧迫されたり損傷を受けたりすると、痛みや麻痺のような症状が発現します。

口腔・顎顔面の痛みと異常感覚にはどのようなものがありますか

口腔・顎顔面の痛みには、①歯と歯周組織の痛み②顎関節部の痛み③口腔粘膜の痛み及び④顎顔面の痛みがあります。
①歯と歯周組織の痛み及び②顎関節部の痛みに関しては、他のページ(むし歯歯周病顎関節症など)を参考にしてください。

1.侵害受容性疼痛

これは、炎症や腫瘍に伴う痛みであり、他のページ(口の中の腫瘍など)を参考にしてください。

2.神経障害性疼痛(ニューロパシックペイン)

体の感覚を司る神経系の病気または病気によって神経の性質が変化することによって生じる痛みです。すなわち、神経に障害があるため発症する痛みでニューロパシックペインとも呼ばれています1)。歯科口腔外科領域では、三叉神経痛、舌咽神経痛、帯状疱疹(後)神経痛や外傷後の神経障害に起因する神経痛(ニューロパチー)などがあります1)

(1)三叉神経痛

1)原因
多くの症例では、頭蓋内での三叉神経根に対する血管や腫瘍による圧迫が原因とされています。

2)症状
特徴は三叉神経の神経分布に沿って数秒から数十秒の電気が走ったような痛み(発作性電撃痛)が生じることです。触れると痛みが生じる部分(トリガーゾーン)があり、洗顔や会話、食事、歯みがきなどで痛みが誘発されます(表1)。くしゃみや咳、あくび、嚥下、味刺激などで痛みが発症することもあります2)。ただし、血管や腫瘍などの圧迫が画像診断で確認されても、発作性電撃痛のような典型的な症状がなく痛みが鈍いこともあります。また、画像診断で血管や腫瘍の圧迫が認められなくても、発作性電撃痛の症状があり、脳神経外科手術を行った時に三叉神経根への血管の圧迫が認められ、手術により圧迫を取り除いた結果、症状が消失した例もあります。

1. 発作性の電気が走ったような痛み(発作性電撃痛)
2. 痛みの持続時間は数秒から数十秒
3. 洗顔、会話、食事、歯みがき、くしゃみ、咳などで痛みが誘発される
4. 触れると痛みが誘発される部位がある
5. 通常、片側性の痛みである。
6.発症は50歳以上が多い。

表1 三叉神経痛の症状

3)治療法
①薬物療法

てんかんの治療薬であるカルバマゼピンが最も効果があります。副作用には、ねむけ、ふらつき、めまいなどの神経症状の他に肝機能障害、薬疹、造血障害(白血球減少、貧血など)があり、鎮痛効果と副作用の発現状況により投与量を決定します。副作用のため使用ができない症例には、ガパペンチンやプレガバリンなど他の薬物を用います。

②外科療法

三叉神経根を圧迫している原因血管を神経と引き離し、圧迫を取り除く脳神経外科領域の手術(神経血管減圧術)を行います。

③神経ブロック

罹患した三叉神経をアルコールや高濃度の局所麻酔薬、または高周波熱凝固を用いてブロックを行います。薬物効果が得られない場合や神経血管減圧術の適応でない症例、手術後の鎮痛効果が得られない場合に行います。

④放射線治療

高齢者を含め全身状態が悪く外科療法の適応でない場合に行われ、侵襲が少なく、罹患した三叉神経根に放射線(ガンマ線)を照射する治療法です。

4)その他
三叉神経痛はむし歯や歯周病による痛み、顎関節症、頭痛、眼科や耳鼻咽喉科領域の痛みと鑑別することが重要です (表2) 。歯の痛みと間違えて安易に抜歯を行っても痛みは消失しませんので、注意しなければなりません。

1. 歯や歯周病による痛み
2. 顎関節症
3. 頭痛(緊張性頭痛、片頭痛、群発頭痛、など)
4. 眼科や耳鼻咽喉科領域の疾患
5. 舌咽神経痛
6. その他(舌痛症、非定型顔面痛など)

表2 三叉神経痛との間違いやすい疾患

(2)舌咽神経痛

舌咽神経は、のど(咽頭)や舌の後ろ1/3の粘膜などの知覚や味覚を支配する神経です。舌咽神経痛は上記の支配領域に生じる発作性の疼痛ですが、頻度は三叉神経痛に比べ極めて少ないようです。

1)原因
三叉神経痛と同様に多くの場合、血管による神経根への圧迫や脳腫瘍などが原因として考えられます。

2)症状
唾液を飲み込んだ時(嚥下時)の激痛が特徴です。大きく口を開けた時や食事の時の味刺激でも痛みが誘発され、痛みの性状は電撃痛で鋭く激しい痛みです。痛みの持続時間は数秒から数分間、舌の後部、のど、耳の後部などから痛みが放散することもあります。

3)治療法
三叉神経痛の治療法に準じ、薬物療法(カルバマゼピンなど)、外科療法(神経血管減圧術)、神経ブロックなどがあります。

(3)帯状疱疹および帯状疱疹後神経痛

三叉神経の走行に沿って発現する帯状の水疱を特徴とするウイルス疾患で、全身にも発現します。

1)原因
水痘・帯状疱疹ウィルス(varicella zoster virus:VZV)の感染により神経細胞が傷害されるため発症します。

2)症状
口腔粘膜や顔面の皮膚などに水疱が発現し、焼けるような痛み、発作性の電撃痛が同部位に発症し、皮膚や口腔内に潰瘍が形成されることもあります。これらの症状が治癒した後の帯状疱疹後神経痛では、患部の持続的な焼けるような痛みに加え、接触痛が特徴です。痛みを生じることのないような軽い刺激で痛みが発現し(これをアロディニアといいます)、歯みがきや飲食、飲水などが苦痛になることもあります。

3)治療法

①薬物療法

帯状疱疹の発症初期には抗ウィルス薬を投与します。痛みには非ステロイド系消炎鎮痛薬やアセトアミノフェノンなどの鎮痛薬を使用します。治癒した後の帯状疱疹後神経痛では、プレガバリンや一部の抗うつ薬、抗てんかん薬(カルバマゼピンなど)並びに高濃度局所麻酔薬の塗布などの薬物療法が使用されています。

②神経ブロック

血液の流れに関係する交感神経を局所麻酔薬でブロックして血行を改善させる交感神経ブロックがよく用いられます。口腔・顎顔面領域では星状神経節ブロックが用いられます。

③理学療法

近赤外線やレーザーの照射、鍼治療などがあります。

(4)外傷や手術などの原因で神経が障害され発症する口腔や顎顔面の痛み

①原因

口腔や顔面の外傷や手術などで神経が傷害されたために発症する激しい痛みです。

②臨床症状

持続的で焼けるような痛みや発作性の電撃痛が特徴です。感覚の低下、痛覚過敏、アロディニア(既述)などを伴うこともあります。

③治療法

帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛の治療と同様、プレガバリン、高濃度局所麻酔薬の患部塗布、一部の抗うつ薬などの薬物療法、星状神経節ブロック、近赤外線やレーザーの照射、鍼治療などがあります。

3.心因性疼痛

(1)定義と原因
痛みが長く続く場合は精神的・心理社会的因子の関与が考えられるため、口腔や顎顔面の痛みを身体的な因子と精神的な因子に分けて評価する必要があることを米国口腔顔面痛学会では推奨しています。米国精神医学会の診断基準分類の中で痛みと関連が深い疼痛性障害は、1つ以上の体の部位に痛みがあり、その痛みは非常に苦痛を伴い、社会的、職業的に障害を引き起こし、心理的要因が痛みの発生や重症度、悪化、または持続に重要な役割を果たしているとされています3)。しかし、実際は単なる心理的要因に基づく心因性疼痛のみの症例は少なく、心理的要因に他の疼痛性疾患や精神疾患(うつ病、神経症など)が複雑に関与して痛みを生じている場合が多いようです4)

(2)臨床症状
口腔や顎顔面領域の痛みは持続的で一日の内でも症状の変化は一定しておらず、様々な言葉を用いてその痛みを表現します。さらに全身の様々な部位の痛みや異常感覚を同時に訴えることがあります。

(3)治療法
一部の抗うつ薬や抗不安薬などの薬物療法、自律訓練法、音楽療法、鍼治療や漢方薬を用いた東洋医学的治療法などが行われています。

4.その他

(1)非歯原性歯痛
歯や歯周組織に基づかない原因によって歯の痛みを訴えるものを非歯原性歯痛と呼びます。痛みの原因と痛みを部位(歯)が離れていることから原因不明の歯痛として取り扱われ、誤って抜歯が行われることもあります。現在、非歯原性歯痛に対するガイドラインが作成されています5,6)。日本口腔顔面痛学会のガイドラインでは、非歯原性歯痛を8つに分類しています。

1)筋・筋膜性(筋性)歯痛
口を開けたり閉じたり、食事でかむ時に働く筋(咀嚼筋と呼びます)や頭部や頸部の筋肉に強い緊張が続くと関連して歯に痛みを訴えることがあります。
2)神経障害性歯痛
前述した三叉神経痛の前兆または痛みの症状として歯の痛みを訴えることがあります。また、帯状疱疹及び帯状疱疹後神経痛でも同様に歯の痛みを訴えることがあります。
3)神経血管性歯痛
頭痛の中には歯や顎関節部に痛みを感じることがあります。特に上顎大臼歯部に「ズキズキ」した痛みや焼けるような激痛を訴えることがあります。
4)上顎洞性歯痛
鼻の周辺には鼻腔につながっている空洞(副鼻腔)があり、その中で鼻の側方から奥の方に広がっているものを上顎洞と呼びます。上顎洞の炎症や腫瘍に関連して歯が痛むことがあります。
5)心臓性歯痛
狭心症や心筋梗塞時の痛みが歯や下顎の痛みとして波及する場合があります。
6)精神疾患または心理社会的要因による歯痛
不安やうつ状態、パーソナリティの障害により歯の痛みを訴えることがあります。精神的・心理社会的な要因が考えられ、次に述べる特発性歯痛との関連が考えられています。
7)特発性歯痛(非定型歯痛を含む)
これまで原因不明の歯に限局した持続的な鈍痛を「非定型歯痛」と呼ばれてきました。歯や歯周組織の病気に基づかない原因により歯の痛みを訴える場合、前述の原因が判明している歯痛に対して、原因不明の歯痛を日本口腔顔面痛学会では「非定型歯痛」も含めて「特発性歯痛」と分類しています。
8)その他の様々な疾患により生じる歯痛
糖尿病や白血病、側頭動脈炎などの全身疾患や薬剤との関連性が考えられています。

(2)非定型顔面痛

1)定義
統一した見解は得られていませんが、従来、原因不明の顎顔面の痛みを総称した疾患名として使用されてきました。いろいろな検査でも診断がつかず原因が解明できなかった難治性の痛みも含まれています。しかし、他の疼痛性疾患や心理的要因の関与も否定できません。
2)臨床症状
慢性痛で持続性の鈍痛が多いようです。重苦しい痛み、締め付けられる痛み、ズキズキした痛み、痛みとしびれ感、違和感が混在しているなど訴えは多彩で、痛みの程度は不定であることが多いです。
3)治療法
積極的な歯科治療では症状が改善しないことが多いため保存的な処置を優先します。近年、このような非定型顔面痛の症例に一部の抗うつ薬や抗不安薬などの薬物療法が効果的であるという報告もあります。鍼治療や漢方薬服用、レーザー照射、神経ブロック、心理学的療法なども行われています。

(3)舌痛症(Burning Mouth Syndrome )

1)定義
特に病気の原因となるような異常所見がないにもかかわらず、「ヒリヒリ」「ピリピリ」「焼けるような感じ」など多彩な症状として舌の痛みを訴えます。また、舌だけでなく口腔の他の粘膜において上記のような症状を訴えるものについてはBurning Mouth Syndrome(BMS)と呼んでいます。ストレスや不安、加齢や糖尿病などの全身疾患、薬剤服用による副作用、栄養障害、ホルモンの変化(更年期)などが考えられていますが原因は不明です。

2)臨床症状
焼けるような痛みだけでなく、口の渇き(口腔乾燥感)や味覚異常など多彩な症状を訴えることもあります。症状の変化としては、朝、起床時は痛みが少なく、夕方から夜にかけて症状が悪化することが多いようです。痛みの部位は舌の前方や上顎の粘膜、口唇が多く、口の中全体が焼けるように痛いと訴える場合もあります。さらに持続する苦味や金属のような味がするなど味覚異常を訴えることもあります。

3)治療法
非定型顔面痛と同様、近年、一部の抗うつ薬や抗不安薬などの薬物療法が効果的であるという報告があります。軟膏の塗布、漢方薬服用、レーザー照射、心理学的療法なども行われています。

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