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:妊娠中の人がフッ化物を摂取しても胎児に悪影響はありませんか。また、授乳中の母親の母乳についてはどうですか。

:水道水フロリデーションによる胎児への悪影響はありません。
この60年以上にわたって、世界では水道水フロリデーションが実施されてきましたが、胎児への悪影響や母乳への移行による影響に関する報告はまったくありません。
過量のフッ化物についても、仮に母親が過量のフッ化物を一時的に摂取したとしても母親のフッ化物の血中濃度は上昇しますが、これに比較して胎児の血中濃度はほとんど上昇しないのです。母親と胎児は臍帯という細い血管で胎盤を通じて繋がっているだけだからです。この状態では、胎児のほうに母親からフッ化物が移行し始めても、まもなく母親の血中フッ化物濃度は下がってしまうからです。
また、母親が摂取するフッ化物はあまり母乳中に移行しません。母乳によって哺育される時期は、むしろ丈夫な歯をつくるためには、必要な量のフッ化物が不足しているといえるかもしれません。


:幼稚園でフッ化物洗口をしています。誤って洗口液を全部飲み込んでもだいじょうぶでしょうか。

A:幼稚園では、原則として4、5歳児を対象に週5回法(フッ化物濃度250ppmフッ化物溶液を使用)が行われています。フッ化物の急性毒性が発現する量は体重1kg当たり5mg、不快な症状が発現する量は2mgとされます。4歳児の平均体重を約16kgとしたとき、不快症状の発現するフッ化物の量は約32mgとなリます。一方、週5回法のフッ化物洗口溶液5m1中のフッ化物量は1.25mgですから、この量は不快症状の発現するフッ化物量32mgのおよそ26分の1であり、急性中毒発現量80mgの64分の1の量に相当します。したがって、幼稚園児など未就学児のフッ化物洗口の安全性がいかに高いかが分かります。しかも、日本ではフッ化物洗口の実施に先立ち、水を用いた練習をしてから実施するようにしています。


:フッ化物の急性中毒量について、体重kgあたりフッ化物2mgと5mgの根拠となるデータはどんなものですか。

一般に物質が発現する急性中毒量の決定は科学的に困難です。これは、中毒実験は人を対象にはできないし、初期中毒症状は動物実験では判定の仕様がないためです。現実にはたまたま人がある物質を事故等で多量に摂取して急性中毒が発現したときの調査結果から、その中毒量を推定するのです。また、どのような症状をもって中毒と判定するかが、まず問題であり、とくに軽度の症状は科学的に重要な再現性(何度やっても同じ結果がでるか)が得られず、その因果関係の判定は困難なことが多いのです。
 フッ化物の中毒量については、従来、1899年に報告されたBaldwinの最低中毒量2mg/kg(体重)の推定値が用いられてきました。フッ化物摂取による急性中毒症状としては、一般に流涎、悪心、嘔吐、腹痛、下痢、痙攣、昏睡などが上げられていますが、これらのほとんどの症状は他の一般にみられる中毒症状と変わりがなく、フッ化物中毒であるとする決め手に乏しいのです。とくに流涎、悪心のレベルでは判定が困難であり、科学的に再現性のある数値は得られません。
 そのため、現在では、1987年に報告された、Whitfordによる推定中毒量(PTD probably toxic dose)が採用されています。このPTDは、医療を必要とするはっきりした中毒症状を表す推定中毒量であり、5mg/kg(体重)以上とするもので、科学的に再現性のある数値として用いられ、米国疾病コントロールセンター(CDC center of diseases control)の支持も得ています。(5mg/kg以下でも軽度の症状は発現することがあり、牛乳の飲用を勧めることはあっても、医療の必要はない程度のもとされます。)


: フッ化物配合歯磨剤とフッ化物洗口の併用は問題ないのですか

: フッ化物配合歯磨剤は1,000 ppm以下であり、多くは900〜1,000ppmの間にあります。すなわち、通常の歯みがき1回の使用量1g中に1mgのフッ化物を含んでおり、通常の歯みがきでの飲み込み量は、その10%から20%とされ、飲み込み量は0.2mg以下です。一方、フッ化物洗口では、保育園や幼稚園での処方である週5回法では、フッ化物濃度225ppm、 洗口液量は5ml、1回の洗口で約1mgを使用します。通常の洗口での飲み込み量は、その10%から20%とされ、飲み込み量は0.2mg以下です。したがって、フッ化物洗口をする保育園や幼稚園児の場合、週5日間は毎日0.4mg以下を摂取することになります。
 下記の表14は、子供の年齢、飲料水フッ化物イオン濃度 (mg/L)別に見た、国際歯科連盟 (FDI) の推奨による一日あたりのフッ化物推奨投与量 (mg/ day)/を表したものです。

 
表14 国際歯科連盟(FDI)のフッ化物推奨投与量(mg/day)

 子供の年齢

飲料水フッ化物イオン濃度 (mg/L)
0.3以下
0.3〜0.7
0.7以上

 誕生〜3歳
 3歳〜5歳
 5歳〜13歳

0.25
0
0
0.50
0.25
0
1.00
0.50
0
FDI 1993年
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 日本における通常の飲料水中のフッ化物濃度は0.1ppm程度であり、上表のように飲料水のフッ化物濃度が0.3 ppm以下の地域の3〜5歳の児童では1日0.5mgが推奨量であることから考えて、フッ化物洗口とフッ化物配合歯磨剤との併用使用は妥当であるとされるのです。米国など水道水フッ化物濃度適正化が進んでいる地域での、幼児によるフッ化物配合歯磨剤の使用が問題となることがありますが、これは歯磨剤を食べてしまうという問題外の問題なのです。
小学校での週1回法ではフッ化物洗口のフッ化物濃度は900ppmであり、飲み込み量は0.9mg程度になりますが、洗口頻度が週1日ということからして、この場合もフッ化物の総摂取量が過剰になることはないのです。

 

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