3)栄養・ミネラルとしてのフッ素
(1)フッ素は必須微量元素
必須元素とはそれが不足すると健康を保てなくなり、しいては生命の維持にも関係する元素をいいます。例えば、水素(H)と酸素(O)から水(H2O)がつくられるし、ナトリウム(Na)と塩素(Cl)から食塩(NaCl)がつくられますが、これら水や食塩がなければ生物は存在し得ないことは明白です。
また、身体を構成する元素の存在量により、主要元素と、微量元素に分類されます。H,C(炭素),N(窒素),O,Na,Mg(マグネシウム),P(燐),S(硫黄),Cl,K(カリウム),Ca(カルシウム)は主要元素であり、それ以外は微量元素です。この微量元素のうち、生命と健康の維持に欠かすことのできない元素を必須微量元素といいますが、F(フッ素),Si,V,Cr,Mn(マンガン),Fe(鉄),Co,Ni,Cu(銅),Zn(亜鉛),Se(セレン),Mo,Su,I(ヨウ素) などがこの部類にはいります。必須微量元素に分類されるFe(鉄)は酸素を運ぶために絶対に必要欠くことのできないヘモグロビンの中心的な存在ですし、I(ヨウ素)は甲状腺の機能にとって重要であり、欠乏症では甲状腺腫を起こすことで知られています。さらに、最近の栄養学では鉄、亜鉛、銅、セレン、マンガンなどが注目されています。これらは「日本人の栄養所要量(厚生労働省)」のなかで、食事摂取基準が策定されています。
この必須微量元素に分類される元素にF(フッ素)があることは、一般にはあまり知られていません。しかし、WHO(世界保健機関)とFAO(食糧農業機関)は、すでに1974年に「ヒトの栄養所要量の手引」を発行し、フッ化物を必須栄養素として位置づけています。必要とされるフッ化物は微量ですが、からだのとくに歯や骨をつくる石灰化には欠かせない物質であり、すでに欧米では長年にわたり必要な栄養素として、所要量が策定されているのです。
(2)食品中のフッ化物
以上述べたようにフッ化物は天然に比校的多く存在する元素であり、その分布は、あらゆる土壌、湖沼や川の水、海水、とすべての自然環境に存在しています。
空気中には海水の飛沫などをその源として、きわめてわずかですが存在し、沼や川の水には、そのまわりの地殻の性質を反映して、0.05から0.2ppm、井戸水では0.1から1.0ppmくらい含まれているのが普通です。もっとも、地域によっては、自然水で10ppmくらいのところもあるので一概にはいえないのですが。このppmという単位は、実感としてはなかなかピンとこないものですが、海水中のフッ化物濃度が1.3ppmであることから、この海の濃度を覚えておくと便利だと思います。
こうした空気や水に比べると地殻には平均300ppm、土壌には100ppm前後と桁違いにフッ化物が多いのです。アポロ宇宙船がもたらした月の石にも、フッ化物が180ppmくらい含まれているといいますから、こうした傾向は地球だけでなく、広く太陽系の星、さらにはこの宇宙全体についてもいえることなのでしょう。
さて、このように、われわれの環境にかなりのフッ化物がくまなく存在するとしたら、私たちの食物の中にも存在するはずです。なにしろ、私たちが口にする食物はすべて、この大地の恵みであり、海の幸、山の幸にほかならないからです。
(3)日本食品にはすべてフッ化物が含まれている。
表3は、日本の食品中のフッ化物量を表したものです。表中には、いろいろな食品中の、自然の状態でのフッ化物量が示されています。これをみると、私たちが知らずに日常口にしている食品中には、かなりのフッ化物を含んでおり、なかでも食塩やお茶、魚介類のフッ化物濃度は比較的高いことが分かります。
表3 日本食品中のフッ化物量(概要) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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飯塚喜一ほか:スタンダード口腔衛生(学建書院) |
緑茶の葉にはとくに例外的に多く、200〜400ppmもあって、抽出したいわゆる飲用のお茶にも、0.5〜2.0ppmくらいは浸出しているようです。普通の水道水や飲料水のフッ化物イオン濃度は0.1ppm程度ですが、私達が日常飲んでいるお茶はその5倍から20倍前後の濃度です。
このほか、酒類やビールにも0.2〜2.5ppm、酢、しょうゆ、ソースなどで約0.2〜1.3ppm、海水から得られた天然の食塩には比較的多く21〜46ppmというデータがあります。
このように、あらゆる食品、あらゆる飲料水にフッ化物は含まれており、フッ化物を全く含まないものは、この地球上には存在しないばかりか、海の“生理的フッ化物濃度1.3ppm”と比較しても、その量は決して痕跡的な微量ではないのです。