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(3)飲料水中のフッ化物摂取と骨折リスク

 図2は、最近、整形外科関連の学術雑誌に発表された注目すべき論文からのものです。「長期間にわたる飲料水中のフッ化物摂取と骨折リスク効果」と題する、米国国立衛生研究所(NIH (PHS1 RO1 AR-42838) )の研究費でなされた2001年の調査研究報告(Yiming Li et al. J. Bone and Mineral Research 16(5): 932-939, 2001)です。

  この研究は、中国の郡部の人々を対象に行われた、飲料水中のフッ化物濃度の異なる地域住民の骨折頻度の比較調査研究です。飲料水のフッ化物濃度の分布は0.25〜7.97ppmとかなり大きな濃度差のある6つの地域に住む住民を対象としのもので、調査結果から、飲料水のフッ化物濃度と骨折頻度との間にはU字型の関係が存在し、むし歯予防に最適であるとされる、フッ化物濃度1.00〜1.06ppm群で骨折の頻度が最も低かったのです。

図2 飲料水フッ化物濃度と全骨折頻度
Li et al. J Bone Mineral Res 16(5): 932-9, 2001
図1 飲料水フッ化物濃度と全骨折頻度

*:飲料水フッ化物濃度1.00-1.06ppm群との比較で、危険率5%で有意差あり

 調査対象者は合計8,266人、50歳以上で各該当地域に25年以上居住し、その飲料水を生涯飲用し続けてきた人々です。ほとんどの住民は生まれたところに居住し、とくに都会から地方への移住は存在しなので、調査対象者個人の飲水歴などの調査は容易であり、確実にできたとのことです。当該地域の住民では歯磨剤や洗口剤の使用は全くなく、13.5%の住民がお茶を飲用していたのですが、そのフッ化物濃度は飲料水のフッ化物濃度に依存するものでした。

  分析因子としてはフッ化物の暴露、骨折頻度、地域環境、既往歴、身体的活性度、喫煙および飲酒です。各変数についての二変数分析(Χ2検定とt-テスト)の結果、全骨折頻度と有意な関連を示した変数は、高年齢群 (p<0.01)、男性群 (p<0.01)、飲酒群(p<0.01)および重労働群(p<0.05)でそれぞれ有意に高い相関を示しました。また、飲料水中の微量元素としてカルシウム、アルミニウム、セレニウム、鉛、カドミウム、鉄、亜鉛、砒素が調べられましたが、カルシウムと鉄が骨折頻度と有意な関連にあることが分かりました。

  この研究で重要なことは、こうして得られた各個人の多数の変数である要因情報は、多変量ロジスティック解析という現在の最も進んだ統計手法によって、地域単位ばかりか個人単位でも調整されていることです。これによって、交絡因子による結果の歪みをほぼ完璧に消すことができているのです。

  骨折の調査では骨折したとき病院にかかっていれば、その医療機関のカルテやレントゲンフィルムの検分を行い、病院にかかっていなければ、あらためて申告した骨折箇所のレントゲン撮影を行なうなど、骨折の証拠を確実なものとして調査をしています。

 結果として、飲料水のフッ化物濃度と骨折頻度との間にはU字型の関係が存在し、フッ化物濃度1.00〜1.06ppm群で骨折頻度が最も低く、これに比較して高フッ化物濃度群(4.32〜7.97ppm)および低フッ化物濃度群(0.25〜0.34ppm)の骨折頻度は統計学的に有意の差(p<0・05)をもって骨折頻度が高かったことが明らかにされたのです。この所見で重要な点は、骨折頻度が最も低かったのはフッ化物濃度1.00〜1.06ppm群であり、このフッ化物濃度は国際的にむし歯予防に最適とされる水道水フロリデーションの至適濃度に一致していることです。歯の健康にとっての至適濃度であるフッ化物環境は骨の健康にとっても最適な環境であることを見事に示しているのです。

 この論文の考察では、米国では骨粗しょう症による骨折は年間約150万人,寛骨骨折は25万人を数えることをあげ、この高齢者の骨折問題は、今後、人口の高齢化が進んでいる、とくにアジアにおいて大きな保健システムの重荷になるとしています。そして、骨折リスクに関わるフッ化物レベルの潜在的作用を明らかにすることは、水道水フロリデーションにとって重要な事項であるとしました。

 今日、この種の調査ができるのはきわめて限られた地域です。フッ化物の摂取が飲料水と食物に限られ、フッ化物配合歯磨剤やフッ化物洗口、乳児に対するフッ化物投与の処方などはまったくない地域住民でなければならないからです。飲料水フッ化物濃度と骨折との関連の研究において、

 これまでのこの分野の研究結果があまり明瞭でなかったのは、偏に飲料水や食物以外にフッ化物暴露のない人口集団を得ることの難しさにあったと、この論文で考察されています。多くの国、地域では 1970年代以降、フッ化物配合歯磨剤やフッ化物洗口剤、フッ化物錠剤などが国際的に大規模に普及されてきたためです。

  一方、水道水フロリデーションレベルでの飲料水フッ化物濃度と骨密度および骨折頻度に関する研究については、異なる地域および異なる集団における多数の疫学的証拠が提示されていますが、水道水フロリデーションが骨に関する有利な影響を示唆していることが多く、少なくとも不利な影響を示す証拠はないのです。

 むし歯予防のため飲料水中のフッ化物濃度を至適濃度に調整した地域住民のフッ化物摂取レベルと、骨フッ素症を引き起こす高濃度フッ化物イオンレベルとでは大きな隔たりがあり、むし歯予防のためのフッ化物応用と骨フッ素症の問題とは、異なる範疇の問題であることに留意すべきでしょう。WHOは寛骨骨折および骨の健全性に関連して、現在のむし歯予防のための水道水フロリデーションという公衆衛生的施策に変更を要するような科学的に明瞭な事実は認められないと述べています。


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