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a.就学前児童のフッ化物洗口法についてのWHO見解

 WHO(世界保健機関)は1994年、テクニカルレポート(Series No. 846、Fluorides and Oral Health)において、6歳未満の就学前児童のフッ化物洗口法は推奨されないとの見解を示しました。標準的な洗口法ではフッ化物の口腔内残留量は少量であり、歯のフッ素症の原因にはならないが、他の経路から摂取されるフッ化物の総量によっては歯のフッ素症を増加させるかも知れない、との危惧から推奨できないとしたのです。

 上記WHOの見解の背景となった研究では、就学前児童は洗口液の全量を飲み込んでしまうことを考慮しなければならない。5歳児を想定した時、洗口液の全量を毎回飲み込むと仮定すると歯のフッ素症を誘発させる可能性があり、とくに他のフッ化物の複合応用があった場合には許容できない、としたのです。

  この報告によると、洗口液全量を飲み込む児童は3歳児で多く6.9%、4、5歳児ではそれぞれ2.8%と1.8%でしたが、以下、述べるようにように、わが国では3歳児の洗口は推奨していないし、また、4、5歳児でも洗口可能な児童のみに限って洗口をしています。この報告では洗口液全量を毎回飲み込むと仮定した時の歯のフッ素症の誘発可能性について論じたもので、この仮定そのものが非現実的であるばかりでなく、少なくともわが国の実状からはかけ離れた論議とみるべきでしょう。

  また、とくに他のフッ化物の複合応用があった場合には許容できない、としている点も注意を要するところです。この場合、他のフッ化物というのは日本以外の多くの国では水道水フロリデーション(後段で解説します)が行われており、子どもへのフッ化物錠剤や他のフッ化物サップリメントの処方があることをいうのです。しかし、こうした全身応用はいずれも現在のわが国では存在しないことを知らなければなりません。

  わが国の学校等におけるフッ化物洗口への参加者は、2006年3月末現在、38都道府県、5,131施設、491,300人余りに及び、そのうち施設数では3,313施設(64.6%)、洗口参加児童数では143,400人(29.2%)あまりが保育園、幼稚園等の就学前児童です。このような経緯から、このレポートはわが国における重要な検討課題となり、日本口腔衛生学会フッ化物応用研究委員会では、1996年に「就学前からのフッ化物洗口法に関する見解」を発表し、わが国の状況についての考察を通じて、わが国における就学前からのフッ化物洗口法推進の妥当性とその必要性を明らかにしました。

 このことに関連して、就学前児童の洗口によるフッ化物飲み込み量について、フッ化物洗口を実施している4、5歳児769名を対象とした、わが国における大規模な調査研究があります。対象の児童は水での洗口練習を経た後、標準法で洗口を行なった結果、洗口液を全量飲み込んだ児童は全くなく、表8にあるように、フッ化物の口腔内残留量は0.17〜0.19mg(10.7〜12.0%)でした。また、全体の99.2%は0.5mg以下の残留量であり、0.5mgを越えた児童が4名いましたが、追跡調査では、いずれも0.5mg以下の残留量になりました。

表8 年齢群、フッ化物洗口経験期間別の口腔内フッ素残留量
(0.05% NaF、7ml、1分間洗口)

年 齢

洗口経験

人 数

残留フッ化物量

残留フッ化物率

4歳10カ月

1-2カ月

260

0.19 mg

12.0%

5歳 4カ月

8カ月

509

0.17mg

10.7%

adapted and modified from S.mutans. Kobayashi, et. al. 、 AAPHD, 1996 8)

 米国立歯科衛生研究所(NIDR)は水道水フロリデーションをしていないオハイオ州スプリングフィールドにおいて、就学前児童の5歳児及び小学校の1年生から開始し8年間にわたる大規模なフッ化物洗口、フッ化物錠剤並びにこの両者の併用試験を行いました。

表9 各種フッ化物応用法と Deanの歯のフッ素症スコアーによる歯のフッ素症
出現頻度 (Very Mild〜Severe)と地域斑状歯指数(CFI)

 

 

正常*
疑問
斑状歯の程度*

地域斑状歯指数

 

人 数

0
0.5
1-4

CFI**

洗 口

159

93.1 (148)
3.8 (6)
3.1 (5)

0.07

錠 剤

145

91.7 (133)
2.8 (4)
5.5 (8)

0.15

複 合

144

91.0 (131)
4.2 (6)
4.9 (7)

0.10

全 体

448

92.0 (412)
3.6 (16)
4.5 (20)

0.11

( )内は人数、  *χ2=1.08, P =.59(有意差なし)  ** ANOVA, P =.31(有意差なし)
adapted and modified from Nowjack-Raymer et. al., J. Public Health Dent. 1995

 表9は、フッ化物応用を5〜7歳から9年間実施した後の歯のフッ素症の調査結果です。地域斑状歯指数(CFI)でみると、フッ化物錠剤にフッ化物洗口を重ねた複合応用群でCFIの上昇がみられないことから、フッ化物洗口では歯のフッ素症は生じないと結論されました。なお、この地域斑状歯指数(CFI)は0.4以下ではフッ化物過剰について公衆衛生的に問題がないとされ、いずれも問題とならないレベルであることが分かります。

 長年、フッ化物洗口法の研究に携わってきたニューヨーク州立大学のRipa教授の研究によれば、学校や幼稚園での週1回または2回のフッ化物洗口プログラムで、この年齢層でちょうどエナメル質の形成期にあたる臼歯部においても、エナメル質の障害を示唆するような所見は得られていません。また、国内外におけるフッ化物洗口の長年にわたる実施実績においても、フッ化物の過剰摂取による急性中毒の例も、歯のフッ素症が発現したとの報告もありません。このことは上記のWHO見解においても明確にされている事柄でもあります。

 最近、米国歯科医師会は、飲料水中のフッ素濃度が0.3ppm以下の通常の地域に住んでいる3〜6歳児に対して、自然の飲料水や食物からのフッ素量に加えて、1日0.5mgのフッ素をフッ化物錠剤などによって投与することを奨めています。上記の洗口によるフッ化物残留量が、平均値でこの推奨量の3分の1程度であり、いずれも推奨量の範囲内にあることは重要な所見です。


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