(4)フッ化物適正摂取量と摂取許容量
表5は、米国医学研究所から発表されたフッ化物適正摂取量と摂取許容量を表したものです。年齢別、性別で示されていますが、例えば4〜8歳では男女児とも1日あたり1.1mg、9〜13歳では2.0mg、がその適正摂取量です。この基本は、0.05mg/kg/day、すなわち、体重1kg当たり0.05mgのフッ化物を毎日摂取することを適正摂取としていることが分かります。
表5 年齢別、性別のフッ化物適正摂取量 AIと摂取許容量 UL | ||||||||||||
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Institute of Medicine : Dietary Reference Intakes for Calcium, Phosphorus, Magnesium, Vitamin D, and Fluoride, National academy press, Washington D.C., p.8, 18-20, 1997. |
一方、摂取許容量をみると4〜8歳では男女児とも2.2mg/day、9〜13歳では10.0mg/day、がその摂取許容量です。摂取許容量が示されているのは、フッ化物の過剰摂取では歯のエナメル質が白く濁る歯のフッ素症(斑状歯)がでるし、極端な過剰摂取では骨フッ素症という一種の骨硬化症が起こる可能性があるからです。この場合、4〜8歳までは0.1mg/kg/day、すなわち、適正摂取量の倍量である体重1kg当たり0.1mgを摂取許容量とし、それ以上のフッ化物を毎日摂取すると過剰であることを示しています。ところが、9〜13歳以上の年齢では、年齢も、性別も無関係に10.0mg/dayがその摂取許容量です。これはどうしたことでしょうか。
フッ化物の過剰摂取による歯のフッ素症(斑状歯)になる可能性があるのは、顎骨のなかで歯とくに歯のエナメル質が形成されているとき、すなわち、永久歯であれば誕生から8歳までの時期(第一大臼歯の歯冠の石灰化の開始から第二大臼歯の歯冠の完成まで)ですが、9歳以降はフッ化物の過剰摂取があっても歯のフッ素症(斑状歯)になることはないのです。すなわち、9歳以降の摂取許容量10.0mg/dayというのは骨フッ素症に対する摂取許容量ということになるのです。
(5)フッ化物推奨投与量
表6は、国際歯科連盟 (FDI、1993年) によるフッ化物推奨投与量です。小児の年齢群別に、飲料水のフッ化物濃度別のフッ化物推奨投与量が1日あたりのフッ化物量mg(mg/day)で示されています。例えば、飲料水フッ化物イオン濃度が0.3ppm以下の、いわゆる普通の地域での水道水フロリデーションを実施していない地域では、3〜5歳では1日0.5mgのフッ化物を摂取することを推奨しています。しかし、この0.5 mg/dayのフッ化物量は、先にあげた米国医学研究所によるフッ化物適正摂取量は4〜8歳児で1.1 mg/dayでした。ほぼ半量に相当する量です。これはまた、どうしてでしょうか。
表6 国際歯科連盟(FDI)のフッ化物推奨投与量(mg/day) | |||||||||||||
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FDI 1993年 |
米国医学研究所によるフッ化物適正摂取量は飲食物中のフッ化物を含めての適正摂取量であるのに対して、国際歯科連盟によるフッ化物推奨投与量は飲食物から自然に摂取されるフッ化物に加えて、フッ化物製剤(フッ化物錠剤)などによる推奨投与量を示しているというのが、その答えです。フッ化物は、あまねくすべての飲食物に自然に含まれているのですが、とくに食物中のフッ化物は水や製剤のフッ化物と同じ効果をもたらすものではないということもあって、それだけでは歯の健康を保つには十分ではない、ということを思い出していただけたことと思います。ただし、わが国では、こうした全身応用のためのフッ化物製剤、すなわち、フッ化物錠剤とか赤ちゃんのミルクに滴下するフッ化物ドロップなどの製剤はないし、また、フッ化物の処方もほとんどなされていないのが現状です。