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8)フッ化物応用に対するわが国の見解

 フッ化物応用に対するわが国の見解として、過去にいくつかの専門機関によって公表されてきました。その主なものとしては、日本歯科医師会「弗化物に対する基本的な見解(1972年)」、日本口腔衛生学会「水道水フッ化物添加法の推進表明(1972年)」および「むし歯予防プログラムのためのフッ化物応用に対する見解(1982年)」、厚生省「幼児期における歯科保健指導の手引き(1989年)」そして日本学校歯科医会「学校歯科保健とフッ素(1989年)」などがあります。また、最近のものとして日本歯科医学会による「フッ化物応用についての総合的な見解(1999年)」、日本口腔衛生学会による「今後のわが国における望ましいフッ化物応用への学術支援(2002年)」、厚生労働省医政局長および厚生労働省健康局長連名による通知「フッ化物洗口ガイドライン(2003年)」について、そのあらましを以下に記します。

(1)日本歯科医学会「フッ化物応用についての総合的な見解」

 日本歯科医学会医療問題検討委貝会フッ化物検討部会は日本歯科医学会の要請を受け、「フッ化物応用についての総合的な見解」をまとめました。その結果、むし歯予防を目的としたフッ化物の応用は、わが国における地域口腔保健向上へのきわめて重要な課題であることをあらためて確認し、1999年11月1日、以下の2点の推奨を結論とする最終答申を提出しました。すなわち、@国民の口腔保健向上のためフッ化物の応用を推奨すること、Aわが国におけるフッ化物の適正摂取量:AI (AdequateIntake)を確定するための研究の推進を奨励すること、でした。

 なお、当フッ化物検討部会は今後の重要な課題として、EBM(Evidence Based Medicine:証拠に基づいた医療)およびEBOHC(Evidence Based Oral Hea1th Care:証拠に基づいた口腔保健)を基としたフッ化物応用の推進を提言し、当該の答申がこうした問題提起の第一歩となり、口腔保健医療専門職のフッ化物応用の推進に対する合意の形成と確立を図り、フッ化物応用による口腔保健の達成を現実のものとし、ひろく国民の健康の保持増進に貢献できることを期待する、としたのです。当答申は1999年12月17日、日本歯科医学会によって承認されました。

(2) 日本口腔衛生学会「今後のわが国における望ましいフッ化物応用への学術支援」

 わが国における当該問題に関する専門学会である日本口腔衛生学会は、2002年、「今後のわが国における望ましいフッ化物応用への学術支援」において、21世紀のわが国における国民の口腔保健の向上を図るため、専門学術団体として、フッ化物局所応用ならびに水道水フロリデーションを推奨するとともに、それらへの学術的支援を行うことを表明しました。

 同表明は、水道水フロリデーションが生命科学の基盤に即したフッ化物応用法の基礎をなす方法であり、生涯を通した歯質の強化と健康な歯列の保持、増進を目的に地域保健施策として、世界の多数の国々で永年の疫学的検証に基づいて実施されてきていること、また、最近ではわが国でも、日本歯科医学会が「フッ化物応用についての総合的な見解(1999年)」において、水道水フロリデーションが優れた地域保健施策として位置づけられていること、2000年11月には、厚生省(現厚生労働省)が水道水フロリデーションについて「市町村からの要請があった場合、技術支援をする」ことを表明したこと、また、それに引き続き、日本歯科医師会が「水道水フロリデーションの効果、安全性を認め、厚生労働省の見解を支持し、地域歯科医師会、関連専門団体や地域住民の合意の基に実施すべきである」との見解を示したこと、等を掲げ、こうした一連の状況に鑑みて、日本口腔衛生学会は、「フッ化物局所応用ならびに水道水フロリデーションを推奨するとともに、それらへの学術的支援を行うこと」を表明したのです。

(3)厚生労働省「フッ化物洗口ガイドライン」

厚生労働省は2003年1月14日、厚生労働省医政局長および厚生労働省健康局長連名により全国各都道府県知事にあてて「フッ化物洗口ガイドライン」(医政発第0114002号、健発第0114006号)を通知しました。

  この通知において厚生労働省は、健康日本21における歯科保健目標を達成するために有効な手段として、フッ化物の応用は重要であること、厚生労働科学研究事業において「フッ化物洗口実施要領」を取りまとめたことを踏まえ、「フッ化物洗口ガイドライン」を定めたので、「貴職におかれては、本ガイドラインの趣旨を踏まえ、貴管下保健所設置市、特別区、関係団体等に対して周知方お願いいたしたい」、としたのです。このなかで、とくに、公衆衛生的なフッ化物応用として、学校等におけるフッ化物洗口法を推奨していることは、フッ化物応用法の優れた公衆衛生特性を認めたものとして注目に値するものです。

 このガイドラインの前文に相当する部分を下記に掲載します。

フッ化物洗口ガイドライン

医政発第0114002号
健発第0114006号

平成15年1月14日

各都道府県知事殿

厚生労働省医政局長
厚生労働省健康局長

フッ化物洗口ガイドラインについて
 健康日本21における歯科保健目標を達成するために有効な手段として、フッ化物の応用は重要である。わが国における有効かつ安全なフッ化物応用法を確立するために、平成12年から厚生労働科学研究事業として、フッ化物の効果的な応用法と安全性の確保についての検討が行われたところであるが、この度、本研究事業において「フッ化物洗口実施要領」を取りまとめたところである。

ついては、この研究事業の結果に基づき、8020運動の推進や国民に対する歯科保健情報の提供の観点から、従来のフッ化物歯面塗布法に加え、より効果的なフッ化物洗口法の普及を図るため、「フッ化物洗口ガイドライン」を別紙の通り定めたので、貴職におかれては、本ガイドラインの趣旨を踏まえ、貴管下保健所設置市、特別区、関係団体等に対して周知方お願いいたしたい。

 

1.はじめに

  フッ化物応用によるむし歯予防の有効性と安全性は、すでに国内外の多くの研究により示されており、口腔保健向上のためフッ化物の応用は、重要な役割を果たしている。わが国においては、世界保健機関(WHO)等の勧告に従って、歯科診療施設等で行うフッ化物歯面塗布法、学校等での公衆衛生的応用法や家庭で行う白己応用法であるフッ化物洗口法というフッ化物応用によるむし歯予防が行われてきた。特に、1970年代からフッ化物洗口を実施している学校施設での児童生徒のむし歯予防に顕著な効果の実績を示し、各自治体の歯科保健施策の一環として、その普及がなされてきた。

  そのメカニズムに関しても、近年、臨床的むし歯の前駆状態である歯の表面の脱灰に対して、フッ化物イオンが再石灰化を促進する有用な手段であることが明らかになっており、むし歯予防におけるフッ化物の役割が改めて注目されている。

  こうした中、平成11年に日本歯科医学会が「フッ化物応用についての総合的な見解」をまとめたことを受け、平成12年度から開始した厚生労働科学研究において、わが国におけるフッ化物の効果的な応用法と安全性の確保についての研究(「歯科疾患の予防技術・治療評価に関するフッ化物応用の総合的研究」)が行われている。

  さらに、第3次国民健康づくり運動である「21世紀における国民健康づくり運動」(健康日本21)においても歯科保健の「8020運動」がとりあげられ、2010年までの目標値が掲げられている。これらの目標値達成のための具体的方策として、フッ化物の利用が欠かせないことから、EBM(Evidence Based Medicine)の手法に基づいたフッ化物利用について、広く周知することは喫緊の課題となっている。

 このような現状に照らし、従来のフッ化物歯面塗布法に加え、より効果的なフッ化物洗口法の普及を図ることは、「8020」の達成の可能性を飛躍的に高め、国民の口腔保健の向上に大きく寄与できると考えられ、上記の厚生労働科学研究の結果を踏まえ、最新の研究成果を盛り込んだフッ化物洗口について、その具体的な方法を指針の形として定め、歯科臨床や公衆衛生、地域における歯科保健医療関係者に広く周知することとした。

 

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