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新型コロナウイルスは手を通して口から感染します。
―正しい手洗いとは?―

1.新型コロナウイルス感染予防への日常的手洗いと衛生的手洗い

 小学生の頃、帰宅すると母にいつも「手を洗いなさい」と声をかけられました。この母の言葉は「ばい菌」が手指を介して「目・鼻・口」の粘膜から体内へ侵入することを予防するものです。つまり、接触感染予防です(図1)。

 最近の研究では、口腔(こうくう)や唾液が重要な感染経路のひとつだと明らかになってきました。新型コロナウイルスが口腔や舌の粘膜から生体に入ると考えられています(2)。

 さて母が言っていた手洗いは専門用語で「日常的手洗い」と言い、水道水と石けん(ハンドソープ)または水道水のみで行われることを指します。今、新型コロナウイルスに対して街中に「アルコール消毒液(エタノール)」が置かれています。このアルコールを用いた手洗いを「衛生的手洗い」と言います。実はこの「衛生的手洗い」は、歯科医師、歯科衛生士や医師などの医療従事者が医療行為の際に行う手洗いなのですが、新型コロナウイルスに感染し、重症化する可能性があることから、医療従事者以外でも「衛生的手洗い」が必要になってきました。「衛生的手洗い」とはアルコールでの手指消毒のことですが、手や指を見て明らかに汚れている時には、アルコールではなく「ハンドソープと水道水」が適しています。

2.実は手洗いは水道水と石けん(ハンドソープ)で十分

 新型コロナウイルス感染を背景に、厚生労働省は図2のような案内を公表しています。

 日常生活の中では「流水で15秒、ハンドソープで10秒もみ洗いし、流水15秒」で十分と考えます。

3.水道水や石けん(ハンドソープ)がない時はアルコール消毒液が適しています

 実際、日常生活の中で毎回水とハンドソープで手洗いをすることは困難です。その場合には「アルコール消毒液」が便利です。アルコールはウイルスの「膜(エンベロープ)」を壊すことで不活化させます。

 また、手や指など人体に用いる場合は、品質・有効性・安全性が確認された「医薬品・医薬部外品」(「医薬品」「医薬部外品」との表示のあるもの)を使用してください。60%台のエタノールによる消毒でも一定の有効性があると考えられる報告があり、70%以上のエタノールが入手困難な場合には、60%台のエタノールを使用した消毒液でも問題はありません。適切な濃度のアルコール消毒液を手指全体に15秒間以上擦り込みます(3)(図3)。

4.アルコール消毒液が不足した時は次亜塩素酸水やオゾン水も有効

 次亜塩素酸水やオゾン水は野菜などの食品を洗える食品添加物の殺菌料として使われています。手洗いには、手指消毒の医療機器認可のある次亜塩素酸水やオゾン水の生成装置が適しています。次亜塩素酸水やオゾン水は手指の汚れ(有機物)に弱く、最近の基礎研究、臨床研究から適した濃度での流水下で30秒間以上すすぐことでウイルスの不活化が報告されています(4)(図4)。

5.まとめ

  1. 新型コロナウイルスは飛沫感染と接触感染の2つの方法で感染が広がると報告されています。
  2. 物を触った手を通じて「目・鼻・口」の粘膜から体内へ侵入し感染が成立します。侵入を防ぐために、手洗いが大切です。
  3. 手洗いの基本は水道水と石けん(ハンドソープ)ですが、それらがない時には「アルコール消毒液」も有効です。
  4. アルコール消毒液が不足した時などは、手指消毒の医療機器認可のある生成装置で作られる流水下での「次亜塩素酸水」や「オゾン水」が「効果的手洗い」と言えます。

参考文献

(1) 松本 哲成、王 宝禮 他、歯科医院におけるCOVID-19感染にどう備えるべきか p24-44「薬 Year book21/22」クインテッセンス出版社,東京
(2) Sakaguchi W Tsukinoki K et al. Existence of SARS‐CoV‐2 entry molecules in the oral cavity. Int J Mol Sci. 2020;21(17),6000.
(3)厚生労働省.新型コロナウイルス感染症の発生に伴うエタノール製品の使用について(改定)令和2年4月10日
(4)Takeda Y, Oh Hourei et al. Inactivation Activities of Ozonated Water, Slightly Acidic Electrolyzed Water and Ethanol against SARS-CoV-2. Molecules 2021, 26(18),5465

王 宝禮氏(大阪歯科大学歯学部教授)

略歴

1986年北海道医療大学歯学部卒業。1990年北海道大学歯学部予防歯科学講座助手。1992年米国フロリダ大学歯学部口腔生物学講座研究員。1994年大阪歯科大学薬理学講座講師。2002年松本歯科大学歯科薬理学講座教授・同大学附属病院口腔内科(漢方外来)担当。2010年大阪歯科大学歯科医学教育開発室教授。2015年同大細菌学講座教授。2020年同大歯科医学教育開発センター教授。専門分野は予防医学、創薬学、ウイルス学。