広場へ > お口の病気と治療 > 診断・治療に使われるX線

歯科診療の検査にエックス線を使う意義

 エックス線は歯科診療に大いに使われています。その理由は色々あります。

まず、簡単に作れて取り扱いが容易かつ安全なことが挙げられます。装置の構成は複雑ですが、装置のプラグを家庭用の100ボルト電源コンセントにつなぎ、電源スイッチ(メインスイッチ)を入れ、一定の方向に出力装置を向けて、タイマー時間を設定し、タイマースイッチを押し続ける…、これで、予測できる一定量のエックス線が放出されます。放出中のエックス線を止めたい場合にはタイマースイッチから指を離せばその時点で放出が止まります。故障で止まらないときには、電源スイッチ(メインスイッチ)を落とす、または電源プラグを引っこ抜く、それが不可能なときには給電ボックスのブレーカーを落とす…、色々な安全機構が予め充分に備わっているわけです。

  放射の方向は一定で、円錐形(この範囲を一次円錐と言います)の形で放出されます。法律では許されていませんが、放出の方向の斜め後ろにいるとほとんど被ばくしません。また、鉛に代表される金属などの物質により、比較的簡単に遮蔽することができます。0.5mm程度の厚みがある鉛の板またはその量が入った物質(鉛入りガラスなど)があれば、その陰に隠れていることにより被ばくはしないで済みます。つまり、鉛で遮蔽したエックス線室で使う限りは、室外のヒトは安全ということになります。

  何故、エックス線は必要なのでしょうか? それは、骨の中の構造変化を知るための道具で、現在最も有効に用いることができるものがエックス線だからです。骨は、エックス線にとってはガラスのようなものです。重要文化財などの外形をガラスの内部に曇りを入れて、三次元的に浮かび上がらせたお土産が現在入手可能となっています。エックス線を使うとちょうどこのように、骨の中で通常とは構造の違った部分が透視できるわけです。このようなやり方を非破壊検査と言います。非破壊検査によりどのような変化がどの位置で起こっているかを予め検討(診断)しておき、どのようにその異常を治すか(治療計画の立案)を検討する材料にしているわけです。「病気がありそうだからメスで開いてから考えてみましょう」というような、行き当たりばったりの診療は現在、許されるはずもありません。近代的な歯科治療は、診断に引き続いて歯科医が治療計画を立案し、それを患者さんに対して提示し、同意(インフォームドコンセント)を得てから初めて治療に取り掛かるという手順が必要です。このように、具体的治療の始まる前の段階において、エックス線検査は重要な土台となります。

表1:エックス線が具備する作用とその応用

作用の名称

説明

利用法

物質透過作用

骨の中を透過する作用

エックス線写真

電離作用

伝播する際に空気を電離する作用

測定器具

化学(写真)作用

化合物のイオン価を変える作用

エックス線写真

蛍光作用

蛍光物質に蛍光発色させる作用

増感紙

生物学的作用

生体の組織に影響を及ぼす作用

放射線治療(積極的には)
副作用(消極的には)

  放射線の一種であるエックス線がどのような作用を持っているかを考えてみましょう。表1のように、エックス線は5つの作用を持っています。「物質透過作用」については非破壊検査という側面から理解いただけたと思います。「電離作用」は空気の分子をプラスイオン(+イオン)とマイナスイオン(−イオン)に分ける作用であり、これが一定の大きさの箱中でどのくらい生じるかが、放射線の量や強さを示す因子であることが分かると思います。この電離作用によって生じたイオンを+と−の電極で引くと、小さな電流が流れます。具体的にはこの電流を計測してやることで、その場所の放射線量を知ることができますので、環境の計測、個人被ばく量の計測などに用いられています。エックス線写真は白黒写真の一種です。白黒写真は、露光により生じた「潜像」を可視化したものです。この潜像形成に「化学(写真)作用」が利用されています。「蛍光作用」は、蛍光物質を励起する作用です。この作用の応用には、増感紙が挙げられます。蛍光物質を多く含んだ増感紙にエックス線が当たると、50倍、100倍の蛍光が放出され、この蛍光がフイルムに潜像を形成することから、患者さんに照射する放射線の量を減らすのに役立ちます。歯科で用いられる取枠(カセッテ)の中に増感紙が貼り付けてある写真を図1として示します。最後に示した「生物学的作用」は、放射線が様々な形で人体に影響することを指します。唯一の被ばく国である日本の国民として、放射線一般のネガティブな作用を知らない国民はいないと思いますが、生体の必要な部分にはできるだけ当てないように工夫し、悪性腫瘍細胞には必要充分な量が当たるように工夫した放射線治療のように、ポジティブなエックス線の生物学的作用上の利用もあることを認識すべきでしょう。なお、最近では歯科撮影システムのデジタル化に伴い、フイルムや増感紙の使用頻度が減少していますが、画像形成の原理は同じものです。

図1:歯科で使われている取枠(カセッテ)と増感紙の例。患者さんの被ばくの軽減に寄与している。
 
   

 ここで、エックス線の発生の方法について簡単に話しておきます。エックス線の発生は4条件が必要と言われており、これは過去に歯科医師国家試験に繰り返し出題されています。エックス線の発生原理は一言で言うと電気エネルギーからのエネルギー変換です。真空管の中で、陰極から電子を放出(熱電子放出)させ、高電圧で陽極に誘導し、タングステンまたはモリブデンでできているターゲットに当て、運動エネルギーをエックス線へと、強制的にエネルギー変換をさせるという手法による発生です。つまり4条件とは、@自由電子の存在A真空の環境B高電圧の印加C阻止物質の存在となります。効率は非常に低く、エックス線の発生効率は1%以下です。残りのエネルギーはほとんどが熱に変化し、装置全体が熱を持ってしまうため、熱処理ができる構造が必要とされています。熱の処理法としては油浸して放熱するものが最多ですが、癌の放射線治療に用いるLINEAC(ライナックまたはリニアック:直線加速装置)など大量の熱が発生するものでは、水冷式のものもあります。

|| 前のページへ || 次のページへ ||

ページトップへ