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口腔の機能と習癖

口腔の機能は、日頃あまり気にしていない人が多いですが、生きるために大切なことを行っています。例えば、発音、嚥下、呼吸、咀嚼などは、健康な身体を維持するために必須のものであり(図1)、これらの機能を正しく営むためには口腔環境を整え、形態を正しくしておく必要があります。形態と機能とは密接な関係にあり、歯ならびが悪いと機能も悪くなることが多いのです(図2)。歯ならびが悪いので、気にして矯正歯科医のところに行くと、そこでは形態の検査をします。かみ合わせを調べるために口腔内模型の作製、口腔内写真、顔の写真、上顎と下顎の位置関係を調べるレントゲン写真(セファログラム)、等の検査をします。これらの検査により、標準値や正常値に対する患者の状態、異常な様子を詳しく調べ、治療の必要性を調べます。

歯ならびが悪いまま成長すると、噛むところがなくなり、食べ物をよく噛めなくなります。7歳の子供(図3)は、反対咬合であり(上顎の前歯よりも下顎の前歯が前に出ている)、乳歯がむし歯となり噛むところがなくなっています(図4)。そこで、まだ反対咬合のままですが、小児義歯を入れて横の方で噛めるようにしたところです(図5)。乳歯は食べ物を噛むためにも重要であり、口腔機能維持のためにも大切なものです。

口腔機能は、生まれつきもっているものもありますが、大部分は乳幼児期から周りを見て教わり、それを繰り返して習慣になって身に付くものです。それぞれの家庭環境や生活習慣の中で教わったりまねしたりしながら獲得されるのです。その中には口腔形態に悪い影響を与える癖があり、繰り返すことにより形態を悪くする口腔習癖があります。安静時に口唇を少しあけて口で呼吸をしていたり(図6,口呼吸)、発音時に口唇を前に突き出していたり、嚥下時に口唇を吸い込んでいたり(図7)、舌で口唇をなめて(図8)いると、口唇が突出して上下顎前突(図9)となります。また、上顎歯列に空隙が生じることもあります。

口腔周囲筋が機能活動をしていない時間、すなわち安静時となって休んでいるときにも口腔習癖はおこります。その代表的なものが舌前方突出癖(図10)であり、指しゃぶり(図11)であります。口腔周囲筋が安静状態にあるのに、口腔周囲筋のもつ習癖によってこのような癖が始まります。このような口腔機能時および安静時の異常は、口唇や口腔周囲筋に悪い影響を与え、不正咬合の成因となることもあります。

反対咬合の人に見られる習癖

反対咬合の人によく見られる習癖は、口唇の吸唇癖です(図12)。本を読んでいるときや何かに夢中になっているときによく見られます。このような安静時の習癖は、機能時にみられる習癖と同じように口腔形態に悪い影響があります。そこでやめるように注意するのですが、唇が乾くので、なめるのだといいます。なめればまた乾き、乾くからなめ、唇を吸い込むのだといいます(図13)。なめれば乾く(図13-3)、乾けばまたなめるという癖が繰り返されることになります。

図14の少女は、5歳でオトガイ部が突出し、検査では下顎前突と診断されました。発音時には舌が低位にあり(図15)、幼時型のペチャペチャしたしゃべり方であり、食物を嚥下するときには上唇を強く口腔内に吸い込む状態となっていました(図16)。また、話を聞いているときにも上下口唇を強く吸い込んでおり(図17)、安静時の習癖と関連していることもわかりました。この機能時の異常と安静時の習癖が長く続いていると、咬合状態も悪くなってきます。図18の患者は、食物を舌の上にのせて取り込み、咀嚼するときにも下唇に力を入れて前につきだし、嚥下するのです(図19)。しゃべるときには、舌が低位であり(図20-1)、時々上唇をなめる習癖があります(図20-2)。ここでみられている安静時のときに低位舌であり、下顎を前方に突出させ、食物を飲み込むときに口唇に力が入り過ぎ、反対咬合を悪くする要因(図21)となります。しゃべるときにも低位舌であるという習癖は、機能時にみられるものと同じように口腔形態に悪い影響があります。このように、形態を悪くするような安静時の習癖を含めて、口腔周囲筋の姿勢位の異常と考えています。

口腔機能、口腔習癖と不正咬合との関連

口腔機能の異常、口腔習癖と不正咬合とは関連が深いので、ここで整理しましょう。舌前方突出や口呼吸があると口唇閉鎖が難しくなり、上顎前突(図22)や開咬(図23)となります。下唇の吸唇癖があると上顎前突になりやすく、上唇や上下唇の吸唇癖があると反対咬合(図12)になりやすくなります。指しゃぶりがあり、上下前歯の歯で指を噛んでいると開咬になりやすくなります(図24)。これらの習癖は、日常生活の中で習慣的に起こる姿勢(posture)の位置変化であり、口腔機能の活動とは別の要素であると考えられます。そこで、形態と機能に口腔周囲筋の姿勢位を加え、三者の関連図を考えました(図25)。この三者の間には、それぞれ密接な関連があり、口腔の維持を図るためにも大切であります。

その他の習癖

前歯が乳歯から永久歯に生え変わるとき、上下前歯の間に舌の先を挟む癖があります。舌を後ろに下げさせると上下顎の間に空隙(開咬)がみられ(図26)、舌がいつも見えている状態です。永久歯は今萌出している途中ですが、いつも舌があるので、上下の臼歯はあたるのですが前歯はあたることができません。舌が前に出ていなければ、歯はもっと萌出してくるでしょう。図27の患者は、前歯ではあたっているのですが、横の上下顎の歯の間に空隙があり、歯はあたっていません。患者の歯を見てみると、その空隙に舌を挟んで噛んでいます(図27-3)。その空隙に舌の先を挟み込んでいるのです。また、口唇を閉じさせると頬部を吸い込み、えくぼのようにへこんでいる人もいます。このようにいろいろな習癖によって歯ならびは変わり、悪くなることもあります。

では、かみ合わせの悪い人でそのような習癖がもしなくなったとすれば、歯ならびはよくなるのでしょうか?図28の患者は前歯部が開咬であり、検査の結果、舌前方突出癖(図28-2)がありました。患者に舌が前に出せない装置を入れ(図29、タングケージ)、口唇を閉じるようにし、しばらく様子を見ることにしました。その装置には歯を動かす矯正する力は全くありません。舌が前の方に出せないようにしただけです。装置は、家にいるとき、寝ているときに使えるようにしました。3ヶ月が経ち、前歯の方からあたるようになり、6か月経つと上顎前歯は下顎前歯より前に出て、普通の正しいかみ合わせとなってきました(図30)。この治療の経過を見てみると、舌を前に出すような口腔習癖がなくなると前歯は萌出しながら正しい位置に排列されたのです。癖がなくなると歯ならびはよくなるのです。これで、口腔習癖が歯ならびを悪くする原因となることがわかりました。

筋機能療法の必要性

安静時における口腔周囲筋は、リラックスした状態にあり、口唇を軽く閉じ、静かな優しい顔をしています。上下の歯は噛み合うことがなく、少し間を空け、活動していない状態です。しかし、この安静時のときにも舌前方突出癖や指しゃぶりはおこり、噛み締めていることもあります。本人はあまり気にしていないのですが、かなり長い間この習癖の状態を続けています。そこで治療に入る前に習慣化している口腔習癖の写真を撮り、本人および家族の方に行っている習癖について説明し、その影響を理解させる必要があります。 習慣化しているとすぐにやめることは難しいでしょうが、やめなくてはいけないことを自覚し、認識させます。本人が自覚し、習癖をやめようかなと思ったときからMFT(口腔筋機能療法)を始めると効果的です。

1)口唇をなめる癖の予防

唇をなめる癖には、唇をなめないように注意します。本人は唇が乾いているのでなめるというでしょう。なめればまた唇は濡れて、また乾いてきます。なめればぬれる、ぬれれば乾く、乾けばまたなめたくなるのでしょう。これを繰り返すことになり、いつまでたっても唇をなめる癖は治らないのです。これをやめるには、唇をなめないことです。リップクリームを塗って、なめないようにするのも一案です。

2)口唇閉鎖

安静時に口唇を軽く閉じることは、鼻呼吸を行う上で必要であり、安静時における口唇の大切な姿勢位です。鼻の状態が悪く、鼻呼吸ができない人には耳鼻科の診察を受けてもらい、鼻やのどの病気をみてもらうことを薦めます。何も問題がないのに、口をぽかんと開け、無力的に口唇を離開させている人がいます。口呼吸を教え、口唇力を強めるためにボタンプル(図31)やリップディスク(図32)で閉鎖力の強化をします。

3)舌の挙上

低位舌の人には、舌の挙上が必要です。舌を上にあげて舌の先をスポット(図33、大野より)におき、舌全体を口蓋に吸い上げ(図34)、口を開け閉めして舌の筋力を強めて動きをよくします。スポットの位置は、口蓋の前の方で少し盛り上がったところであり、発音や嚥下などの機能でも大切なところです。

4)嚥下のトレーニング

飲料水の嚥下を正しく行うには、口唇を軽く閉じ、舌の先をスポットにおき、食べ物を舌の中央に集めます。次に臼歯を軽く接触させ、舌を持ち上げて食べ物を後方へ送り、のどを使って飲み込むのです。そのためには、舌の上に食べ物を集める練習、飲み込むときに舌が前方に出ないようにする必要があります。

5)咀嚼トレーニング

食べ物を咀嚼するには、一回の食べ物の大きさを知り、左右側で均等に噛めるようにします。水気の多いものでも少ないものでも食べられるようにし、飲み込むときには食べ物を舌の上に集め、舌を使って後方へ送り、のどを使ってスムーズに飲み込むようにします。

6)発音のトレーニング

口を大きく開け、舌の先がよく動き、はっきりした発音ができるようにします。舌が前方に突出して口先でしゃべったり、低位舌のまましゃべったリ、口をあまり開けないでこもるようにしゃべったり、巻き舌にならないように練習します。

なお、このような練習をするときに、唇をなめる癖、唇を吸い込む癖、唇を開けて口で呼吸している癖、噛み締めている癖、などのいろいろな口腔習癖が一緒にみられます。そこで、これらの口腔機能のトレーニングのときにはその子の様子をチェックし、練習と習癖が連動しないように分離し、それぞれ分けて治さなければなりません。図35は、矯正治療後にあと戻りを防ぐ装置(リテーナー)をいれ、舌の動きをよくするトレーニングを行っているところです。

指しゃぶりをするときの力、口腔に関連する態癖時に加わる力

安静時によくみられる習癖には、舌前方突出癖や指しゃぶりがあります。本を読んでいるときや何かに夢中になっているときによく見られます。このような安静時の習癖は、機能時にみられる習癖と同じように口腔形態に悪い影響があります。

口腔習癖の影響を調べるため、親指しゃぶり(図11)を行っているときにどのくらいの圧力が口蓋に加わっているかを計測しました。被験者は8歳の女児であり、普段親指をつけ根まで深く吸い込み(図36)、下顎前歯で強く噛んでいました。親指の腹側にセンサーを入れて(図36-2)、普段通りに指しゃぶりをさせました。

記録された圧の波形は、強く吸い込んでいるときに圧力ピークを有する山型であり(図37)、最大圧は87kPaでした。山型のピークは、およそ5秒ごとにあり、そのときには非常に大きな加重がかかっていました。このリズムをみると、5秒ごとに強い圧が加わり、その間は少し力を休めていることがわかります。また、チュチュと続けて吸う人もいました。このような波形の相違は、指のしゃぶり方、吸い方の違いなどであり、吸う強さにも違いがありました。吸っている間に歯で噛んでいる跡がついている人がいました。そこでは、指を吸いながら歯で噛んでいると考えられ、強い力が加わっていると思います。

このような強い力が、毎日多数回、毎回数十分、睡眠時には数時間連続して加わっていることになり、トータルではたいへん大きな力となるでしょう。その影響が歯列弓や顎骨に現れても不思議はないのです。実際に指しゃぶりをしていて、開咬になっている患者(図24)もいます。吸っている指にはタコができ(図38)、腫脹しています。そこで指しゃぶりができない習癖除去装置(図39)をいれ、半年ほどがんばってもらいました。3が月くらいで開咬が閉じてきて、上下前歯があたるようになり、半年でほぼ治りました(図40)。この症例のように、指しゃぶりをしていると開咬になってしまうというような密接な関連にあることがわかりました。

顎骨の形を変えさせる顎外力

顔に圧力を加える癖には、頬づえ、机上でのうつ伏せ寝、ベットでの睡眠態癖、などがあります。その中には力が横に加わり、下の顎やオトガイが横にずれ(図41)て、顔が非対称になってしまう人がいます(図42)。では、頬づえのときにどれくらいの力が加わっているのでしょうか? 頬づえをしている状態で圧力センサーを間に入れ、加重して圧力を測ったところ20N の力が加わっていました。机上でのうつ伏せ寝では(図43-1)、25Nが加わり、うつ伏せ寝では44N 、 枕の上に横向きうつ伏せ寝では15〜34N(図43-2)が加わっていました。このように毎日同じような習慣性姿勢を数回、数時間行っていたり、悪い睡眠姿勢を数時間とっていると、頭部の重みも加わってかなりの圧が顎顔面に作用することになります。これらが発育期の小児に加わっていると顔に側方圧として作用し、オトガイを側方へ偏位させ、顔を非対称にさせる原因となります。しかし、このような習慣性姿勢位には個人差があり、加重に対する反応も異なるでしょうから、必ずしも異常が表現されるとは限りません。しかし、顎に変形がおこってしまうと矯正治療で治すのも大変ですので、十分に注意していただきたいと思います。

口腔の形態を悪くするような顎外力を態癖と呼び、口腔の姿勢位を調べるときに注意して調査します。態癖も口腔機能の癖、口腔習癖と同じように毎日の行動や営みの中でみられるものであり、注意しないと本人が無意識のうちに行っていることもあります。この態癖を治すのも口腔機能を治すのと同じように本人の自覚が大切であり、態癖の状態を少しでも少なくし、できるだけその状態をなくすようにします。小児のときから口腔形態に悪い影響があると思われる習慣性姿勢位や態癖を治す必要がある場合、本人の自覚および家族の協力が必要であります。そして、成長発育期の生活環境を整え、口腔機能を正しくし、姿勢位の異常をなくしていけば、不正咬合や咬合異常を予防でき、正常な状態を長く維持できるものと考えています。

文献

1) 成瀬魅和子、土屋喜子、田中千元、他:習慣性姿勢により顎顔面に加わる側方加重の測定.東京矯歯誌,10;10〜15,2000.
2) 大野粛英、山口秀晴、嘉ノ海龍三、監修:指しゃぶり、基礎から指導の実際.わかば出版,2004.
3) 大野粛英、山口秀晴、嘉ノ海龍三、監修:MFT入門、初歩から学ぶ口腔筋機能療法、わかば出版,2007.
4) 山口秀晴、大野粛英、高橋 治、橋本律子、監修:MFT臨床,指導力アップ・アドバンス編、わかば出版,2012.

日本口腔筋機能療法(MFT)学会会長  山口秀晴

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