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歯周病と肝疾患

1 非アルコール性脂肪性肝炎(Nonalcoholic steatohepatitis; NASH)ってどんな病気?

2016年に発表された世界200ヵ国を対象としたBMI調査によると、世界の肥満人口は6億4,100万人に増加し、2025年には約20%が肥満になると予測されています1)。本邦でもライフスタイルや食生活の欧米化により、肥満者数は40年間で、著しく増加しています。特に、内臓脂肪蓄積型肥満者では、脂質異常、高血圧に耐糖能異常が加わることで動脈硬化性疾患の発生率が相乗的に増加し、死の危険性や大きな後遺症が残る可能性が高くなるため、いわゆるメタボリックシンドロームとして重大な健康問題になっています。

図1.人間ドックにおける検査で、生活習慣病関連項目が異常値を示す頻度。
肥満者数が増加するにつれて、肝機能の異常を示す健診受診者の割合が高くなっている。

図1は人間ドックでの生活習慣病関連項目の異常頻度を示しています。赤い色で示す肥満者の数が増加するにつれて耐糖能の異常、高血圧、高コレステロール血症の異常を示す人たちが増加しています。黒い線を見てください。肝機能の異常を示す人たちの割合も増加し、2014年には人間ドック受診者の33.7%になっています。この肥満に伴う肝機能異常の増加に関わる主な肝疾患は、非アルコール性脂肪性肝疾患(Nonalcoholic fatty liver disease : NAFLD)と呼ばれています。肝疾患というとB型、C型のウイルス性肝炎やアルコール過剰摂取による脂肪性肝疾患などが一般的で、これらの肝疾患から肝硬変や肝癌などが起こることは皆さんもよくご存じですよね。1980年代になって、飲酒歴のない肥満者の脂肪肝(NAFLD)の中からも同じように肝硬変や肝がんが発生することがわかってきました。

図2.NASHの病態進行と原因となるメカニズム
NAFLは病態進行を示さない良性の脂肪肝。NASHは進行性の炎症と線維化を伴い、さらに肝硬変や肝癌へと移行する可能性がある脂肪肝です。NASHの病態進行には多数の原因因子が複雑に関与しています。

NAFLDは世界的に罹患率が高く、欧米諸国で20-40%、本邦でも10-30%といわれており、肥満者の増加に伴いさらに増加すると予測されています。80%は病態進行のない、予後の良好な非アルコール性脂肪肝(NAFL)ですが、炎症が起こり(脂肪性肝炎)、線維化が徐々に進行し(脂肪性線維症)、さらに進行して肝硬変や肝癌になる危険性がある非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が10-20%含まれています2)。したがって、NASHは原因を明らかにし、適切な予防や早期治療介入が必要な疾患として世界的に注目されています。

図2で示すように多くの因子が複雑に関与してNASHの病態は進行すると言われています。近年、肥満に伴う腸内細菌叢の異常によって小腸上皮の透過性が変化し、腸内細菌のLPSなどの構成成分が門脈を介して肝臓に到達して、LPS-TLR4経路を介した自然免疫機構を活性化することで、NASHの病態進行に関わることが報告されました3)。実際,NASHモデル動物やNASH患者において血清中のLPS濃度が上昇していることが報告されています。腸内細菌がNASHの病態を悪化させるのであれば、腸内細菌と同じようにLPSを有する歯周病原細菌も歯周炎病巣から血流を介して肝臓に到達して、NASHの病態を悪化させる可能性があるのです。

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