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歯周病と肝疾患

3 歯周炎が NASH の発症と病態を促進するメカニズム

図4.歯周炎とNASHの関係
歯周ポケット内の細菌、細菌由来のLPSや酵素がポケット上皮の潰瘍部分から歯周組織に侵入し、歯周炎病巣内でサイトカインが産生される。歯周炎病巣から細菌、LPS、酵素やサイトカインが血管内に入り、血流を介して肝臓に到達して、肝臓の炎症や線維化を悪化させる。

図4を見てください。健康な歯と歯肉の境目には歯肉溝という浅い溝がありますが、歯周病になると歯周組織が壊されて、歯肉溝は歯周ポケットと呼ばれる深い溝になります。歯周ポケット内には歯垢や歯石が蓄積しています。歯周ポケット上皮は、歯垢の中の細菌により傷害されて、しばしば潰瘍が形成されています。 この潰瘍を通って、歯垢の中の細菌,細菌の産生する酵素やLPS(内毒素)が結合組織に入ってきます。歯周病組織では、炎症が起こっているので、これらの物質は簡単に血管内に侵入し、血流に乗って肝臓に運ばれ、炎症や線維化に悪影響を及ぼすのです。

我々の高脂肪食NASHマウスモデルを用いた実験でも、P.g.を歯性感染させると、口腔から感染させたP.g.が肝臓で検出され、肝臓における炎症反応が増強し、線維化の領域が出現することが明らかになりました。そのメカニズムとして、脂肪肝になるとTLR2という自然免疫に関わる受容体の発現が肝細胞で増加し、P.g.のLPSや細胞膜の成分に対する感受性が高まるため、過剰なサイトカインの産生が起こり、NASH の病態進行により大きな影響を及ぼすことがわかりました6)

また、P.g.の産生する gingipain という酵素が肝臓の細胞に作用して、TGF-βの産生を促進し、肝の線維化を悪化させることも明らかにしています7)。その他、歯周病原細菌が腸に到達し、腸内細菌叢の変化を誘導して、NASHの病態を悪化させるという報告もあります3)

細菌の感染や細菌の産生物がNASH関連肝癌の発生にも関わることがわかってきました。腸内細菌由来のLPSによる肝細胞の TLR4 経路の活性化や肥満により増加した腸内細菌の代謝産物であるデオキシコール酸による肝星細胞の老化と老化因子の産生が肝細胞癌の形成を促進することが報告されました3)。また、歯周病原細菌であるFusobacterium nucleatum が食道癌や大腸癌の発生や進展に関与することも明らかになってきました8)P.g.などの歯周病原細菌が NASH から肝癌が発生するメカニズムに関与する可能性も否定はできません。

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