保険じゃない被せ物(クラウン)
一般に日本の保険診療制度では,治療に際して使える材料が非常に細かく指定されています。このうち,歯を削った後に被せる材料として,前歯では見た目を白くするためにプラスティック製の冠や,表面にプラスティックを貼り付けて白くした金属製の冠を使うことができます,奥歯では基本的に銀合金(実際には金銀パラジウム合金と呼ばれていますが,成分としては銀の方が多いわけです)の金属冠しか認められていません。
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右の方に見えるのが前装冠 | 奥歯に装着された金属のクラウン |
こうしたプラスティック製の冠は,被せた当初は白い歯に似せることも可能ですが,口の中で色々な食べ物や飲み物の影響を受けて徐々に変色してしまいます。これは,プラスティック製のコップを,コーヒーなど色の濃い飲み物用として使用していると,そのうち洗っても黄ばみが取れなくなるのと同じことです.また,強度の面でもプラスティックはかむ力に対してあまりにも弱く,また,磨り減り易いことが欠点と言えます。
こうした,強度の面で言えば金属製のクラウンであればなんら問題はないのですが,その反面,自然な歯の色調を再現することができなくなってしまいます。
そのため,歯の形や機能だけでなく色調をも回復できる材料として,保険診療には組み入れられていないセラミックス製の被せ物が用いられるようになってきました。
歯とセラミックス
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陶器(左)と磁器(右) |
歯は,ハイドロキシアパタイトと呼ばれるリンとカルシウムの結晶でできています。これに対して,歯科で使われるセラミックスの多くはケイ素を主体とする結晶の塊で,身近なところでは陶磁器のお皿などと基本的に同じものです。しかし,ひと口に陶磁器のお皿と言っても,実際には陶器のお皿と磁器のお皿と言うように 2 種類に分かれています。
陶器は瀬戸焼や備前焼と言った粘土を元に焼き固め,透光性がなくて吸水性のある土の感触が残ったものを指しており,磁器は有田焼や九谷焼と言った多少透光性があり吸水性のないガラス質ものを指します。これまで歯科で使われてきたセラミックスは,長石質の材料(ケイ酸塩ガラス)で作られた軟磁器という分類にあたり,ポーセレンと呼ばれています。
陶器は瀬戸焼や備前焼と言った粘土を元に焼き固め,透光性がなくて吸水性のある土の感触が残ったものを指しており,磁器は有田焼や九谷焼と言った多少透光性があり吸水性のないガラス質ものを指します.これまで歯科で使われてきたセラミックスは,長石質の材料(ケイ酸塩ガラス)で作られた軟磁器という分類にあたり,ポーセレンと呼ばれています。
歯科用ポーセレンの歴史
このポーセレンが歯科で使われるようになったのは,1700年代後半に入れ歯の材料として使われるようになったのが最初と言われていますが,クラウンに使われるポーセレンの歴史としては, 1903 年にアメリカの有名な飛行家であるリンドバーグ(Charles Lindbergh,1902-74)の祖父に当たるDr. Charles H Landが,個々の患者さんの歯の形に合わせて焼き固める技術を紹介したのが最初と言われています.しかし,このとき使われた手法ではポーセレンだけで作られたクラウンであったため強度的に問題がありました。
その後,20世紀も半ばになって,このポーセレンを強化するために,金属のクラウンに焼き付ける手法がとられるようになって来ました.これが,金属焼付ポーセレンと呼ばれる,現在最も用いられている保険ではないクラウンに使われている手法で,メタルセラミックスとも呼ばれています。
一方で,同じ頃にポーセレンそのものを強化すると言う意味で,ケイ酸塩ガラスの中に酸化アルミニウムを混ぜて強度を増した,アルミナスポーセレンと呼ばれるものも開発されました。しかし,この酸化アルミニウムを沢山入れると,ポーセレンそのものの光の透過性が失われてしまい,自然な歯を再現するのが難しくなってしまいます。そのため,金属焼付ポーセレンと同様に,アルミナスポーセレンで薄いクラウンを作り,その上に通常のポーセレンを盛上げる手法がとられました。こちらは,先のメタルセラミックスに対して,オールセラミックスと呼ばれていますが,やはり,金属の強度にはかなわず一部で使われるのみでした。
20世紀も後半になってくると,ポーセレンに変わり強度を増した様々な材料が登場して,オールセラミックスも次第にポピュラーな材料になってきました。
一般的なメタルセラミッククラウンの作り方
通常のポーセレンクラウンはどのようにして作られているのか,順を追って説明します.現在一般的に使われているメタルセラミックスを例にとると,削った歯にあわせて金属製のメタルフレームと呼ばれるものをロストワックス法で製作します.このメタルフレームには,後にポーセレンを盛り付ける分の空間が空けられており,この部分にポーセレンの粉末を水で溶いたものを盛り上げていきます。この作業を築盛と言います。
このときに複雑な歯の色調を再現するために,さまざまな色素を混ぜたポーセレンが使われます。
このポーセレンの築盛作業も,一度に全部盛り上げるわけではなく,少し築盛したら焼成(焼き固める)し,また築盛をするという工程を繰り返します。
これは,水を含んだポーセレンの粉末が加熱によって,乾燥,焼結という工程を経ることで収縮してしまうため,一度に大量のポーセレンを焼成するとひびが入ったり,割れてしまったりするからです。
こうした手間のかかる工程を経て,はじめて自然な歯の色を持つポーセレンクラウンが完成します。
○最近のオールセラミッククラウンの作り方
こうしたメタルセラミッククラウンの複雑な作り方は,手間がかかるため当然のことながらコストがかかってしまいます.また,製作者である技工士さんの技量によって完成したクラウンに差が出てしまいます.そこで,最近ではコンピュータ技術を駆使して,均質な製品をできるだけ低コストで製作するシステムが開発されるようになって来ました。
それが,歯科用CAD/CAMシステムである。
一般的な歯科用CAD/CAMシステムでは,通常の技工操作と同様に患者さんの口の中の情報を再現した模型を,三次元スキャナーで読み取り,立体形状のデータをコンピュータに入力します.このデータからコンピュータ・グラフィックスを駆使してクラウンの形状を設計し,工業的に固めたセラミックスのブロックを削ります。
削り出されたクラウンは,そのままでは個々の患者さんの歯の色と合わないため,ステインと呼ばれる色付けがされて,患者さんの元に送られます。
昭和大学歯学部歯科理工学教室 宮崎隆
玉置 幸道