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金属の構造

金属は図7に示すように金属結合で原子同士が強固に結合をして、結晶となっています。その結晶の代表的なものが図8に示してあります。

図7 金属結合の模式図 (歯科技工 Vol.25(10),p1190,1997より転用)

図8 代表的な結晶格子
貴金属はすべて面心立方格子である。(歯科技工 Vol.25(10),p1191,1997より転用)

これらはいずれも単体ですが、歯科では金属は合金として複数の金属が共存するものを利用します。なぜかというと図9の上に示すように純金属は原子の大きさが決まっているために外力が加えられると簡単に滑り、変形を起こします。それに対して図9の下に表したように合金では原子の大きさが異なるため、同じように力を加えられても容易には滑りません。図10は簡単な合金の結晶を記しました。異なる原子で結晶を構成していることが確認できます。

純金属の結晶

合金の結晶

図9 純金属と合金
(上:純金属では力により簡単に変形するが、下:合金では変形に抵抗する)

図10 合金の結晶状態
異なる原子で結晶を構築できるのが特徴。あまりにも結晶の大きさが異なる場合には不可能である。

歯科で使われる金属

大きく貴金属合金と非貴金属合金に分けることができます。貴金属合金では金をベースにした金合金と銀をベースにした銀合金ですが、保険適用となっているのは銀合金だけです。

口腔内で使用するものは貴金属合金が多いのですが、生体に埋め込むときにはほとんど使われません。銀合金も品質の良いものと少し劣るものがあります。品質の良いものは金を最低でも12%含有することが義務付けられていて、これは金銀パラジウム合金と呼ばれるもっともポピュラーな保険適用合金です。これに対して金をまったく含まない銀合金もあり、これはあまり表面に出ないところの補強や乳歯の修復用に使われています。

表2 代表的な貴金属元素の性質


一方、非貴金属元素は一般に貴金属元素と比べると、

・比重が軽い

・融点が高い

・色調は金属色

・耐食性が悪い

という性質です。

代表的なものがニッケルクロム合金、コバルトクロム合金、チタンであり、この中ではニッケルクロム合金が保険適用となっていますが、ニッケルの生体為害作用が問題視され最近では使用が控えられている傾向が見受けられます。

コバルトクロム合金は歯科用金属の中では硬さが大きく変形しにくい材料であり、鋳造義歯床の材料として使われています。他の用途としては矯正用ワイヤーや義歯の補強材などがあります。

チタンは生体親和性がよい材料として有名で、人工歯根 (図11参照:インプラント)材料としてポピュラーな材料です。生体埋入用材料として金属は腐食を起こすために好ましくはないのですが、それでも複雑なメカニズムの咀嚼・咬合をカバーするためには金属のような耐久性が要求されるのです。ただし、チタンは融点が約1,680℃と高いので技工作業が難しいという欠点があり、歯冠修復や前装冠など多目的には使われていません。それでも逆風が強い金属材料では、今後、最も期待できるものです。

図11 インプラントの模式図
このケースでは左側の下顎臼歯部が欠損しているので人工的に金属を植えて咬合機能の回復を図っている。

図12 各種生体埋入処置
図中の骨補填用材料はセラミックス材料ですが、ほかのケースではコバルトクロム合金、ステンレス合金、チタン (合金)など、非貴金属合金が使用されます。(歯科技工 Vol.27(8),p985,1999より転用)


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