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金属

金属の性質

奥歯でグッと上下の歯をかみ締めるとだいたいその人の体重程度の力が掛かるといわれています。したがって、残念ながらむし歯になってしまった、あるいは不測の事故で歯が欠けてしまったり抜いてしまったりした場合には、代わりの材料を使って歯の形態を修復あるいは補綴(冠をかぶせたり、入れ歯を入れたり)することが知られています、その際には材料を選択する必要があります。

セラミックス材料は歯のエナメル質という部分に相当する材料であり、素材として十分に硬いものですが、曲げることが容易にできません。またプラスティック材料は逆に曲げることは簡単なのですが、強度が不足しているために耐久性が悪く、しかも水を吸い込む性質があるので長期の使用では色が変わってくることもあります。

代表的な金属の性質を他の素材と比較すると以下のようになります。

表1 材料間の物性比較

導電性 金属 セラミックス プラスティック
熱伝導性 金属 セラミックス プラスティック
比重 金属 セラミックス プラスティック
熱膨張係数 プラスティック 金属 セラミックス
硬さ セラミックス 金属 プラスティック

図1 金属の弾性変形:力に応じて変形する。 (歯科技工 Vol.25(2),p144,1997より転用)

金属はちょうどこの2つの材料の中間の性質、といったところでしょうか。上の図に示すように、金属は弾性を備えているために力に沿って変形することができ、力を除くと元に戻る性質があります。もちろん力を掛けすぎると破壊に至るのですが、それでも強さもかなりあるので強靭な材料として重宝がられていました。ほかにも下図のような特異な性質を示す金属もあります。形状記憶合金などは医療用だけでなく衣類にも活用されているのでなじみ深いのではないでしょうか。

図2 金属の形状記憶、超弾性
歯科ではチタン・ニッケル合金が有名である。矯正治療などに使われる。 (歯科技工 Vol.25(3),p271,1997より転用)

金属の弱点

近年、口を開けたときに金属色が見えないようにしたい、といった審美的な冠やブリッジの処置・治療が望まれるようになり、金属を使わない治療 (メタルフリーと呼ばれています) が盛んに検討されています。審美的には金属は金や銅をのぞくとほぼ一律銀色を呈しているため、違いは歴然です。

図3 歯冠修復(冠やブリッジ等により人工の歯をつくっていれる事) (左:金属、右:セラミックス) 同じブリッジとして機能的な面はともかく、色調の差はいかんともし難い。違いは一目瞭然である。

高強度セラミックスといわれるアルミナ ( 酸化アルミニウム: Al 2 O 3 ) 、ジルコニア ( 酸化ジルコニウム: ZrO 2 ) は一昔前までは禁忌とされていたブリッジ修復材料にも応用できるようになりました。

図4 ブリッジ修復

右スライドのように矢印のところには歯があるが真ん中にはない。これを両サイドの歯を使い、あたかも中間欠損部にも歯があるかのように見せかけている。このような修復法は中央に力が加わるとたわむので弾性を有する金属が第一選択肢であった。しかし、近年、左スライドのように高強度セラミックスにその座を脅かされている ( 下: Cercon パンフレットより引用 ) 。

図5 プラスティックによるブリッジ
ファイバーを両側の歯に橋掛けをして補強する。

一方、プラスティックはどうかというと、セラミックスの極細粒(ミクロンオーダー:1mmの1/1000)と混ぜ合わせて使い、さらにはセラミックスの繊維 (ファイバー)を利用して強度を向上させて用いる方法が検討されています。

ところが、金属は電気化学的にイオンを溶出するという弱点があり、これにより強度の低下や、イオン自体がアレルギー誘発因子となる場合があります。とくに、複数の金属が混在する場合には下に示すような金属のイオン化傾向により、イオンになりやすい金属はどんどんと溶け出していきます。

K > Ca > Na > Mg > Al > Zn > Fe > Ni > Sn > Pb > H > Cu > Hg > Ag > Pt > Au

図6 表面を被覆する酸化被膜
Cr2O3やTiO 2 などがよく知られている。

ここで分かるように貴金属元素(金、白金、銀など)はイオンになりにくいのです。こんな理由で、これらをプレシャスメタルと呼ぶこともあります。では他の金属を生体に使えないかというと、そんなことはありません。非貴金属でも表面に酸化被膜を作り、イオンの溶出を抑えるように保護できるものは生体にも利用されています。代表的なものに、クロム、チタンなどがあります。

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