11月公開予定 発行:日本歯科医師会 協力:サンスター
顎が小さく生まれたおかげで、幼い頃は生えてきた歯の並びがガタガタ。食べ物を噛むのが苦手で、飴ばかり舐めていました。そのことに母が困って、小学生の時に歯の矯正を受けさせてくれたのです。そこから、少しずつ噛めるようになりました。
他のスポーツと異なり、マラソンは噛みしめる運動ではないので、現役時代に歯やお口の調子に悩まされることはありませんでした。ただ、リクルート時代に師事した小出義雄監督からは「しっかり食べて、しっかり走れ!」の指導が常にありました。アスリートは毎日の練習がハードなので、栄養摂取をつい飲み物などに頼りがちです。小出監督の「ゆっくりでいいから、しっかり食べろ」の教えを今でも実践しています。
現役時代の食べ物の基準は、好きか嫌いかではなく、自分の体に合うかどうかでした。もともと私は、胃腸が弱くて貧血気味。だから、食べた後の体の状態を自分でチェックし、この練習の後にはこのメニューを摂ると調子がいいという具合に自分で調整していったのです。そのやり方が今でも体に馴染んでいるので、食生活は全く崩れません。
アスリートはもちろん、一般の方にとっても、食事の際は「しっかり噛む」ことが大切です。噛むことで唾液が分泌され、食べ物が消化されやすくなり、内蔵への負担が減ります。同時に、すばやくエネルギーを体に行き渡らせることができます。友人のランナーには、一口ごとに100回噛む方がいたぐらい。それはさすがにやりすぎと思いましたが(笑)。
また、栄養を摂る以外に、食べることはメンタル面にも大きく影響します。しっかり噛むことで、脳が活性化され、記憶力が回復することも研究されています。よく噛んで食べることは、心身ともに元気になれる最初の一歩なのかもしれません。
日々のセルフケアでは、1日2回歯みがきをしています。特に夜はしっかりみがくように心がけていますね。その際、歯間ブラシやデンタルフロスも使用しています。アメリカで暮らしていた頃の経験ですが、向こうの方々は歯並びや歯の状態をとても気にします。そういった暮らしの中で、きちんとケアしておかなければいけないという意識が芽生えました。
口元の表情というのは、気持ちや思いの表れであり、人に何かを伝える大切なシグナルでもあります。例えば、講演会などで聴衆の方々がマスクをしていると、皆さんの反応が見えにくく、真っ暗な中一人で話している気持ちになります。相手の気持ちを汲み取る意味でも、口元は大切だと思いますね。
今回のシンポジウム※に参加して、お口と歯のケアが自分の健康や命に、密接に関わっていることを学びました。私の母は80歳を超えていますが、風邪を全くひかず、とっても元気。聞けば、近所の方々と毎日お口の体操をやっているとのこと。そんな母を見ていると、お口と歯のケアは、長寿のためにも大切だと感じます。
健康には、毎日の取り組みや習慣づけが必要です。マラソンと同じ。もし私がもう一度フルマラソンに挑戦するとしたら、やはり一段一段と階段を登るように、訓練していかなければならないでしょう。そうしてこそ、イメージどおりに走れるようになると思います。
何をやるにしても、継続していくことが最も大切。これからの生涯において、ずっと「歩ける」「動ける」「走れる」体であるためにも、全身の健康につながるお口と歯のケアをしっかりと続けていきたいですね。