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日本歯科医師会 Japan Dental Association

 
制作:日本歯科医師会 
協力:パナソニック

口の乾きを感じたら、
ドライマウスかもしれません

今回のテーマ

『ドライマウス』

 「口が乾燥したな」と気付いたら、それはドライマウスと呼ばれる状態です。ただし、ドライマウスには、病気や身体の変化が要因となって起こる場合と、物理的な環境が引き金になる場合とがあります。口の乾燥自体は、病的な症状ではありませんが、乾いた状態が継続すれば健康に影響を及ぼす可能性もあります。いつまでも健康な口腔環境を保つために、ドライマウスとは何か、セルフケアなども合わせてお話を伺いました。

お答えいただくのはこの先生

歯学博士

片倉 朗 先生

KATAKURA AKIRA
東京歯科大学 副学長
千葉歯科医療センター センター長

QUESTION 01

最近、口の中が乾いている気がします。これって病気なんでしょうか。

「口が乾いている」という自覚症状があれば、それはドライマウスです。ドライマウスは、病気ではなく、乾燥している状態のことをさします。

継続的なドライマウスの要因は4つ考えられます。1つ目は、シェーグレン症候群。免疫のバランスが崩れ、口や目などの乾燥を引き起こします。2つ目は、高血圧・精神安定・花粉症などで服用している薬の副作用による乾燥。現在、一般内科で処方される薬の約800種類が、口の乾燥を引き起こす可能性があります。3つ目は加齢です。男女にかかわらず唾液を分泌する唾液腺は年齢と共に萎縮して分泌量が減少します。加齢の場合は、特に閉経後の女性にもっとも多くみられます。唾液の分泌に影響を及ぼすエストロゲンという女性ホルモンが減るため、乾燥がすすんでしまうのです。また4つ目の要因として、放射線治療によって唾液腺が萎縮するケースもあります。

これら以外に、室内の乾燥、口を開けたまま居眠り、口呼吸など物理的な要因でも乾燥します。この場合は加湿器を置く、マスクをするなど環境を整えたり、要因を取り除いたりすることで解消できます。また唾液は副交感神経優位のリラックスした状態で分泌されるので、緊張で起こることも。一時的ですが、これらもドライマウスと呼んでいます。

QUESTION 02

ドライマウスになると、どんな悪影響があるのでしょうか。

唾液のもつ重要な役割“口腔内の自浄作用や抗菌作用”が失われることで、さまざまな悪影響があります。

皆さんは毎食後、歯みがきをしていますか。忘れてしまう時や外出先でできない時もあるでしょう。その場合も実は、唾液が残った食べ物を流して口腔内をキレイに保ってくれています。唾液により口腔内がうるおっていることで、菌の繁殖や粘膜の病気を予防する効果もあります。唾液には抗菌作用もあるのです。

ドライマウスになると唾液の優れた作用が働かず、むし歯や歯周病の進行を進めます。高齢者の場合は、自浄作用の低下で口腔内に菌が増え、それを飲み込むことで誤嚥性肺炎を発症するケースもあります。唾液によって維持できていた“自分の身体を守る力”が損なわれてしまうのですね。

QUESTION 03

ドライマウスかどうか、自分でチェックはできますか。

まず乾燥が、一時的か継続的かを確認するには、口を開けて20秒ほどそのままで我慢してみてください。口の中は乾燥しますか、それとも唾液が出てきますか。

口腔内の粘膜には小さな穴がたくさんあり、乾燥を感じるとその穴から自然に唾液が分泌されます。そのため常に湿った状態を維持できます。ところが口を開けっぱなしにして乾燥しはじめても、唾液が出てこず、下唇の裏側あたりが、真夏のアスファルトに水をまいた時のようにサーッと乾いてパリパリになる場合は、ドライマウスの可能性があります。

歯科医院でも唾液の測定検査をしています。ガムなどを噛んだ後、10分間かけて唾液をコップに出す検査が一般的です。成人の場合、1分間の唾液の分泌量は平均1ミリリットルなので、10分間かけて10ミリリットルをかなり下回る場合は病的要因を疑います。薬を常用されている場合は一旦、服用を辞めて様子をみます。唾液の分泌が戻れば薬が原因なので、薬の種類を変えるなど、かかりつけ医と相談が必要です。

それでも乾くならシェーグレン症候群の可能性があるので、さらに検査が必要です。現在はシェーグレン症候群もしくは放射線治療による唾液腺の萎縮のどちらかに起因するドライマウスの場合のみ、唾液分泌を促す治療薬を保険診療で処方することができます。

QUESTION 04

やっぱり私もドライマウスのようです。改善するセルフケアはありますか。

唾液腺のマッサージが効果的です。ぜひ“入浴時などにリラックスしながらマッサージ”を習慣化してください。

唾液腺に刺激を与えるマッサージをおすすめします。耳下腺にある唾液腺がもっとも大きく、マッサージに適しています。耳の前から顎の角を通って頬のあたりまでが耳下腺。頬の中心に向かって、指先でグーッと圧をかけて押し流すように何度かマッサージします。方向が大事なので注意をしながら。

刺激によって腺組織が復活するので、継続すれば普段から唾液が分泌しやすくなる可能性も大いにあります。唾液の分泌は副交感神経優位の際に活発になりますから、マッサージのタイミングとしては入浴時がベスト。湯船につかってリラックスしながらやってみてください。

よく噛むことも大事です。咀嚼そしゃくによって耳下腺の上にある咬筋こうきんが収縮します。咬筋が収縮する度に耳下腺を刺激するため、マッサージと同様の効果が期待できます。さらに咀嚼運動が脳に伝わると、脳は「唾液を分泌しろ」と指令を出すので、いっそう分泌が促進されます。

QUESTION 05

ドライマウスだなと思ったら、普段の生活で気をつけることはありますか。

ドライマウスだと口腔内は不潔になりやすいです。歯科医院でのクリーニングを定期的に受けるなど、清潔に保つ心がけが大切です。

自浄作用が低下するため、歯周病やむし歯が進行しやすくなります。なので日常的な歯みがきと舌のセルフケア、うがいなどをしっかり実践しましょう。洗口液を使う場合は、アルコールフリーのものがおすすめです。アルコール分は水分を蒸散させてしまう可能性があり、乾燥を強めてしまいます。さらに歯科医院での定期的な口腔内のクリーニングもぜひ習慣化してください。

どうしても乾燥が気になる時は、口腔内を保湿する「口腔湿潤剤」を活用してもよいでしょう。歯科医院や介護用品を揃えている店舗で購入できます。

そして食事の際に、しっかり咀嚼することも忘れずに。しっかり噛んで唾液をたっぷり出して口腔の健康を保ちましょう。

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