むし歯や歯を抜いた場合、歯に詰めものや被せものをする治療を行います。 ひと昔前は、金属の材料を用いた治療が一般的でしたが、最近では非金属の “白い”自然な歯を選ぶ方が多くなってきました。近年、歯科の研究開発が飛躍的に進化し、健康保険適用内の“白い”材料が増えてきたからです。そこで、今回のテーマは「詰めものや被せものの素材」。最新情報を岡山大学学術研究院 医歯薬学域 教授の窪木拓男先生にお話を伺いました。
「昔、金歯がステータスだった時代もありましたが、今は自然な美しさを重視する傾向が強く、奥歯であっても白くキラっとした歯にしたいという方が増えましたね」と窪木先生はいいます。
実際に、詰めものや被せものの治療で、非金属の白い材料を選ぶ方が増加。背景には、歯科材料や技術の進化の影響もあります。昔は奥歯の詰めものや被せものに用いる保険診療内の材料は金属のみだったので、ある一定の年齢以上の方は「非金属の白い歯は自費診療でぜいたく」というイメージがあるかもしれません。しかし現在、保険診療内でも白い歯を選べるようになったのです。
「保険診療内の白い歯は、強化プラスチックである“コンポジットレジン”という材料を使って、コンピュータで設計して削り出す“CAD/CAM冠”が主流です。コンポジットレジンは、長年の研究の成果もあって、自然な歯の色調に近い素材になっています。さらに、このコンピュータを使った技術は、実は日本独自のもので海外ではまだ導入されていない新しい技術なんですよ。8年程前に導入されました」
審美的に白い歯を選ぶ方だけでなく、非金属なので金属アレルギーがある方に、コンポジットレジンのCAD/CAM冠はおすすめだそうです。もちろん自費診療の非金属材料も進化しています。耐久性が高く、見た目も美しい“ジルコニア”です。
「ジルコニアもコンポジットレジンと同様にコンピュータでつくることができます。その分、一つ一つ歯科技工士が手作業でつくるより費用が抑えられます。だから自費診療の白い歯の中では、安価です。それも人気の理由ですね」
もうひとつ、大きな進化があると窪木先生。「1980年代に接着性レジンという非常に優れた接着剤が開発されました。詰めたり被せたりした場合、ご自身の歯と人工材料の間に必ず継ぎ目ができるのですが、接着性レジンを使うと継ぎ目が以前の接着剤よりも強く接着し、その結果、むし歯になりにくく、より持ちが長くなりました」
素材、製法、接着剤の3つの進化もあって、白い歯という選択肢を増やしたのです。では、それ以外の素材についても、さらに詳しくお聞きしましょう。
現在、歯の治療に使われている素材は、金属3種類と非金属のものが4種類で、合計7種類です。それぞれの特徴を紹介します。
健康保険適用外 | 健康保険適用 | 健康保険適用 |
金額は高いが、柔らかい性質があり、歯に優しい。 | 金合金に近い材質だが、金合金よりも硬い、銀色の金属。 人によっては金属アレルギーを引き起こす場合もある。 |
軽くて強い、銀色の金属。 金属アレルギーを引き起こすことが少ない。 |
コンポジット レジン |
ピーク樹脂 | 陶材、二ケイ酸リチウムガラスセラミック | ジルコニア |
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健康保険適用 | 健康保険適用外 | 健康保険適用外 | 健康保険適用外 |
日本人の歯の色にあう色調の種類が豊富。 | 強固で壊れにくいが、自分にあった色調の調整が若干難しい。 | 自然な歯の色調では、もっとも美しいといわれているが、金属に比べると壊れやすい。 | 強度と耐久性に優れている。 最近では、マルチレイヤーという美しさを兼ね備えたものもある。 |
白色の素材は3種類ありますが、窪木先生が「美しさでは、最高峰」というのが、陶材です。
「もろさという特性上、強度の高い金属に焼き付ける形で使われるケースが多かったのですが、最近では性能も進化し、二ケイ酸リチウムガラスセラミックやジルコニアという素材が開発され、この素材のみでオールセラミックとして被せることができるようになりました。日本人にとって自然な歯の色の研究は非常に長い歴史があるだけあって、陶材は他の素材に比べて本当に自然で美しいです。歯ぎしりなどの習慣があれば強固な金属の材料をおすすめすることもありますが、そうでなければ、審美的にはオールセラミック(陶材やガラスセラミック、ジルコニア)がいちばんですね」
窪木先生曰く、表面が白くても土台に金属を使うと、光が当たった際の透過性が低く、どうしても金属の色が反射して口腔内の印象が暗くなってしまうそうです。陶材の美しさを活かしながら強度も高めるのであれば、ジルコニアの表面に陶材を焼き付ける方法があり、この方法が現在もっとも高級なオールセラミックとなっています。ジルコニアと陶材はアレルギーを引き起こす可能性も低く、その点でも安心だそうです。
口腔内に詰めものや被せものがある人は、全くない人に比べて、「セルフケアは2倍の努力が必要」と、窪木先生は警鐘を鳴らします。
なぜなら、詰めものや被せものの継ぎ目から、むし歯になるリスクが高くなるからです。
「金属、非金属に関係なく、人工材料と歯の継ぎ目がやっかいなんです。歯ブラシの毛先は継ぎ目の奥までは届きません。ケアを怠ると届かない部分がむし歯になる可能性が高まります。
予防のために、フッ化化合物(フッ素)の入ったハミガキ剤や洗口液でのうがいを毎日のセルフケアに取り入れるとよいでしょう。歯ブラシの毛先は届きませんが、ハミガキ剤や洗口液は奥まで届いてくれます。さらに定期的に歯科医院でクリーニングしてもらうこともおすすめです」
歯科医院には、空気と水と洗浄力を高める薬剤を吹き付けてプラークをとる専用機器があるそうです。セルフケアで取り切れなかったプラークはプロの手でキレイにしてもらい、さらに継ぎ目からむし歯になっていないかチェックしてもらうこともできます。
「早期に発見できれば、治療も大げさにならずに済みます。被せものの内側で、むし歯が進行してしまうと、もう一度、治療をやり直すしかありません。“一旦、治療したから、一生、大丈夫”ではないんですね。治療したからこそ、より丹念にケアすることを意識してください」
被せものの裏側にむし歯ができて、ばい菌が存在していると、口臭がしたり、食べ物の味が変わってしまったりすることもあるそうです。気になる方は、すぐに歯科医院でチェックをおすすめします。
窪木拓男 先生
TAKUO KUBOKI