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日本歯科医師会 Japan Dental Association8020 KEEP 20 TEETH TILL YOUR 80
8020 KEEP 20 TEETH TILL YOUR 80
知っ得!口腔ケア最新メソッド

舌があるから食べられる!
意外に知らない舌の役割

「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という8020運動。平成元年にはじまった頃、10%にも満たなかった8020の達成者が、現在では50%を超えています。しかし、一方で「歯があるのに噛めない、食べられない」という食べることにまつわる課題は依然、残ったまま。なぜなら、食べるという行為は、「歯」だけの問題ではなかったからです。咀嚼(そしゃく)をつかさどるもうひとつの重要な要素「舌」について、摂食嚥下(せっしょくえんげ)リハビリテーションと老年歯科学が専門の菊谷武先生にお話を伺いました。

毎日毎食、舌は想像以上に
はたらきもの

 歳をとっても健康な歯があれば、しっかり噛めるはず。そう思っている人は多いでしょう。でも噛むという行為、実は歯だけではできません。菊谷先生はいいます。

 「舌が食物を捉えて、口腔内で動かして歯の上に食物をのせて、はじめて噛むことができるんです。さらに何かを食べるには噛むだけでなく、飲み込む、つまり嚥下という動作も必要です。飲み込むときにも舌の働きは重要で、咀嚼も嚥下も舌があってはじめてちゃんと行えるんですね」

 たとえば、食物を口にいれてから、飲み込むまでのプロセスを整理すると次のとおり。

1食物の状態を判断する

  • 固いか?柔らかいか?味は?温度は?などを感知する
  • しっかり噛む必要があると判断したら“舌が”食物を奥歯にのせる

2噛み砕く

  • 舌や唇、頬、あごなどを総動員して、上下の奥歯で噛む
  • この時“舌”が食物を右へ左へと、
    左右の奥歯の上へもっていく動作を繰り返す
  • そして飲み込める大きさになるまで噛み砕く

3飲み込む

  • 噛み砕いた食物を舌の上にまとめて、
    “舌”を使ってのどに送り込んで飲む

 これが「食べる」ということ。毎日わたしたちは何気なく行っていますが、実はこんなにも複雑なプロセスを経ているのです。

 「わたしたちが思う以上に、舌は非常に巧みに、そしてダイナミックな動きをしています。“食べる”ことができるのは、この舌の動きがあるからこそ。また人間が動物と異なり、さまざまな言葉を発音できるのも、こうした舌の動きのおかげ。さらにいえば、成熟したコミュニケーションを手に入れられたのも舌の活躍があったからこそとも考えられます」

 ところで、歯と舌に支えられる咀嚼力が低下すると、人間はどうなるでしょうか。単純に考えると「食べられなくなり痩せてしまう」と思いますが、実は正反対の問題も起こりえます。菊谷先生曰く、「噛めなくなると食事内容は自然に、柔らかいもの、麺類や白米、パンなどの炭水化物に偏ってしまいがち。糖質の摂取量が増えて太ってしまうんですね」

 いつまでもしっかり噛んで食べることは、健康維持に重要であることに変わりはありません。そのためにも、何歳になっても力強く動くような舌の筋力を保つことは不可欠なのです。

5秒間に何回いえる?
舌の機能低下チェック法

 舌の筋力や機能が低下しているかどうかは、どうすればわかるのでしょうか。

 「老化とともに足腰の不具合を感じて衰えに気づく人は多いですが、舌の筋力が衰えたなと感じる人はいるでしょうか。舌の筋力も加齢とともに低下しますが、非常にゆっくりなので、なかなか自分では気がつきにくいんですね。ちなみに人間の筋肉量は40歳を超えると1年で1%減少するともいわれています。鍛えないかぎり、着実に衰えていくんですね」

 自分で気づくには、日常生活のなかでの変化に着目するのがポイント。以下に、口の機能低下の可能性をしめすチェックポイントをあげました。思い当たることはありませんか。

お口の機能低下チェックリスト
食事中に食べこぼすことが多くなった
食べたものが気管にはいってしまって、むせる
舌や頬を噛んでしまう
口角が下がってきた。ほうれい線が深くなった
のどぼとけが下がってきた
ブクブクうがいをしたとき、食べかすが増えた
食べるのが遅くなった
話が聞き取りづらいと言われるようになった

 気になる項目が多かった方は、自分の舌の機能の低下を知る簡易テストをやってみてもよいでしょう。方法は、「タ」と「カ」のどちらかの音を選び、5秒間続けて何回発音できるかで測ります。1秒あたり6回つまり5秒間で30回以上発音できれば、舌の筋力は良好な状態。もし、それ以下であれば、筋力や巧みな動きの低下が始まっている可能性があります。最近は機械を使って調べる方法もあるそうです。

 「舌の衰えを客観的な数値でしめす“舌圧検査”を受けられる歯科医院が増えてきました。口腔内にバルーンを入れ、舌で上顎へと押し上げる力を測定するという検査です。気になる方は一度、かかりつけの歯科医院で舌圧検査をしているか尋ねてみるといいでしょう」

 以上のチェックポイントや簡易テストでかなり老化が始まっていそう・・・と心配になられた方も安心してください。訓練次第で舌の筋力維持は可能です。続いて、簡単なトレーニング方法を菊谷先生に教えていただきました。

いつでもどこでも、
手軽に舌の筋力維持!

 舌のトレーニングも、体の筋肉トレーニング同様に続けることが大切です。まずは、道具不要でいつでもどこでもできる簡単なトレーニングからご紹介します。いずれも鏡を見ながら、口もとをしっかり動かせているかチェックしながら、そして動かしている部分を意識しながら行うとより効果的です。

トレーニング 1

舌の可動域を広げ、動きをよくする

ゆっくり大きく動かしたり、スピーディに動かしたりしながら慣れてきたら、
回数を少しずつ増やしましょう。

トレーニング 2

スプーンを使って、筋力と持久力をつける

トレーニング 3

早口言葉で、舌を巧みに速く動かす

楽しみながらできるトレーニング。最初はゆっくり、しっかり発音することを意識して、
徐々にスピードを速めましょう。

「ペコぱんだ」を使ったトレーニング

 続いてご紹介するのは、一般医療機器「ペコぱんだ」を使ったトレーニング法。「ペコぱんだ」は、口腔や嚥下の機能が低下した方のためのリハビリテーション用として開発されました。効率的に舌の筋力を鍛えられます。安価でオンラインでも購入可能なので、ご興味がある方はチェックしてみてください。

 さて、以上が今回ご紹介するトレーニング法。早口言葉や舌まわしは道具も場所もいりません。1分あればできます。ぜひ家事や仕事の合間、休憩がてらにやってみてはいかがでしょうか。歯磨きの後などと、時間を決めて習慣化するのもいいでしょう。しっかり噛んで、何歳になっても美味しく健康に食事をするために舌の訓練は重要です。老齢のご両親がいる読者の方は、ご紹介したトレーニングを一緒に試してみてもいいかもしれません。

 「どんなに訓練やオーラルケアを行っても、若い頃の筋力をそのまま維持することは不可能です。加齢によって少しずつ筋力が衰えていくのは自然のこと。訓練やケアを続けながらも、加齢に伴って、昔ほどカタいものをバリバリ噛めなくなっても、それを悲観する必要はありません。調理法を工夫して、柔らかくして噛みやすくすればいいんです」

 がむしゃらに「若い頃の筋力を維持しなくては」とプレッシャーに感じなくてもいい。よりよく年齢を重ねるために自分にできる訓練をしながら、料理の方法を調整して、よりよい食生活を送ることが大切だと、菊谷先生は教えてくれました。

日本歯科大学
口腔リハビリテーション多摩クリニック 院長

菊谷武 先生

TAKESHI KIKUTANI
日本歯科大学教授(大学院生命歯学研究科臨床口腔機能学)
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会認定士
日本老年歯科医学会指導医・認定医
日本障害者歯科学会指導医・認定医
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