「朝昼晩」はむし歯予防やお口の中のトラブルに関する情報をイラストや写真で分かりやすく紹介するWEBマガジンです

日本歯科医師会 Japan Dental Association

年3回(4月、6月、11月)公開予定  
制作:日本歯科医師会 
協力:パナソニック

親知らずのある人もない人も
知っておいてほしいこと

今回のテーマ

『 親知らず 』

 あなたには“親知らず”がありますか? 近年の食事内容の変化が、日本人の口腔内の“親知らず”に大きな影響を与えているといわれます。今回は、普段はなかなか聞く機会のない親知らずに関する疑問に、現役の歯科医師が最新の歯科事情もまじえてお答えします。

お答えいただくのはこの先生

医学博士

丸岡靖史 先生

MARUOKA YASUBUMI
昭和大学歯学部 教授
昭和大学歯科病院 地域連携歯科 診療科長

QUESTION 01

生える人と生えない人が
いるようですが、
親知らずって
そもそも何ですか?

生えるかどうかは個人差があります。
実は見えていなくても歯茎の中に埋まっている可能性もあるんです。

親知らずが生えはじめるのは永久歯が生えそろってから。10代後半から20代前半にかけてが多いです。必ずしも4本すべて生えるわけではありません。下顎だけ生えていたり、完全に生えるのではなく頭だけ見えていたりする人もいます。実は表面的には生えていなくても歯茎の中に埋まっているケースもあるんです。埋まっている親知らずは顎のX線写真で確認することができます。

昔は日常的に硬いものを噛む機会が多く顎が発達していたので、親知らずの生えるスペースが口腔内に十分ありました。しかし現代人はファストフードなどの柔らかい食事が増えているため顎がなかなか発達しづらく、口腔内は比較的狭くなる傾向にあります。そのため親知らずも生えづらくなっているんです。ただし顎が小さくても、歯自体も小さければ生えることも。親知らずが生えるかどうかは、顎と歯の大きさに左右されます。

QUESTION 02

親知らずは
すごく磨きづらいです。
歯磨きで注意すべき
ポイントはありますか?

奥まで入りやすい
小さな歯ブラシで。
デンタルフロス等の
歯間清掃器具とうがい薬なども
併用しましょう。

親知らずは、歯の頭の部分だけなど中途半端に生えている場合はもちろん、ちゃんと生えていてもずいぶん奥にあるので磨きづらくむし歯になりやすいですね。ポイントは口腔の奥まで届くような毛先の小さな歯ブラシを使うこと。口を大きく開きすぎると頬の内側と親知らずの間の空間に余裕がなくなるため、頬がよく伸びるように小さめに口を開くのがコツです。ゴシゴシ力いっぱい動かして歯肉を傷つけないように気をつけて。動かさず当てるだけでよいタイプの電動歯ブラシなら、小さいヘッドのものを選ぶと磨きやすいかもしれません。

デンタルフロス等の歯間清掃器具も毎日1回。親知らずとその手前の奥歯との隙間をしっかり清掃しましょう。うがい薬も併用するといいですね。夜寝る前など1日1回、歯磨き後に活用してください。歯のまわりの歯垢はやはり機械的に磨かないととれない部分ではあるので、きちんと磨けているか、かかりつけの歯科医院で定期的にチェックしてもらうとよいでしょう。

QUESTION 03

むし歯にはなってないのに親知らずが痛むことがあります。
どうして?

親知らずの周りの歯肉などが
炎症を起こす
“智歯周囲炎”の可能性があります。

親知らずは磨きづらく歯垢や細菌がたまりやすいという特徴があります。特に頭だけ表面に出ている場合などは危険性が高いですね。疲れなどで免疫力が低下して、さらに歯磨きを怠ってしまうと、親知らず周辺に溜まった細菌が感染源になって炎症を引き起こします。これを“智歯周囲炎”といいます。ひどくなると頬、首が腫れて、食事ができないくらい口が開かなくなることもあります。これは他の歯と異なる親知らず独特の症状です。

最近は口腔内フローラという言葉も注目されているように、口腔内にも腸内と同じくらいの数の細菌がいます。体調がよいと細菌のバランスは保たれていますが、疲れるとバランスが乱れ、身体全体の健康にも影響します。口の中に感染源があると全身麻酔を必要とするような大きな手術の後、肺炎になりやすかったり傷の治りが悪かったりするというデータもあります。そのため大学病院などでは最近、手術前に口腔内検査とパノラマX線写真で感染源の有無を確認するケースが増えています。

QUESTION 04

親知らずは抜いた方がいい?
それとも残しておいた方が
いいですか?

親知らずの生え方によって
変わります。
状態を確認するために
少なくとも1年に1回は
歯科医院を受診されることを
おすすめします。

抜いた方がよいケースは
4つあります。

むし歯や何度も痛みや
腫れ(智歯周囲炎)を
繰り返すとき

これがもっとも多い理由。親知らずは根の形状が複雑で、下顎は舌の根に、上顎は鼻の神経に近く、解剖学的に非常に難しい位置にあります。大きなむし歯の場合、神経をとってかぶせる治療を行いますが、位置的な問題から非常に治療が難しいんです。何度もむし歯や炎症を繰り返すなら抜いた方がよいでしょう。

手前の歯に影響をおよぼすとき

顎全体のX線写真でないとわかりづらいのですが、親知らずが、手前の奥歯の根を押すように横向きに歯肉の中に潜っていることがあります。そのまま押し続けると、健康な歯の根が溶けてしまうことがあります。また、親知らずと手前の歯との隙間に食べかすが詰まりやすく、手前の歯までむし歯になるリスクが高いと判断した場合なども抜歯が有効です。

歯列矯正した歯並びに
影響をおよぼすとき

親知らずは生え方次第では、手前の歯を前へ前へと押す傾向があります。せっかく歯列矯正で整えた歯並びが歪んでしまう可能性もあります。

歯の周辺に嚢胞(膿の袋)が
できているとき

見た目には生えておらず完全に埋まっている場合でも抜いたほうがよいケースがあります。それは歯の根周辺に“含歯性嚢胞”ができているとき。嚢胞とは、いわゆる膿の袋です。大きくなるとトラブルのもとになるので、親知らずごと摘出してしまう方がよいでしょう。

そして、残しておいてもよいケースも2つあります。上下の親知らずが生えそろい、きちんと噛み合っているケース。そして、歯肉内に潜っていても、手前の歯を圧迫しておらず嚢胞もないケースです。将来、手前の歯(7番目の歯)をむし歯で抜歯する必要ができたとき、6番目の歯と親知らずでブリッジすることもできます。入れ歯を入れる際にも活用できます。非常にまれですが、奥歯を抜歯した際に形状さえあえば移植するという可能性もあります。

いずれにしても親知らずがある場合は、1年に1回は歯科でX線写真を撮影して、顎の中の状態を診てもらうと安心ですね。表には見えていなくても手前の歯に影響するような向きに動いていたり、嚢胞ができていたりする可能性もあります。かかりつけの歯科医院でご相談ください。

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