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心身症とは?
「病は気から」という言葉があります。これは「病気はこころの影響を強く受ける」という意味を含んでいます。病だけではなく、身体は心の影響を強く受けます。例えば、緊張した時に「口の中がからから」になったり、何かを我慢する時に「歯をくいしばる」など、本人の意図と関係なく、身体が心に反応してしまうのです。これと反対に、身体の不調が心に影響することもあります。せっかくの食事が、どこかの歯が痛いだけでおいしさが半減し暗い気持ちになったり、親知らずがずきずき一日中痛むと、仕事も手に付かず、落ち込んでしまいます。また、前歯にきれいな白い歯が入ると、笑顔に自信がついて、何となく気分が明るくなったりもします。
このように、身体と心は密接に結びついていて、お互いに強く影響しあっています。医学的にはこのことを「心身相関」と言います。最近の研究では、心の一面である感情が免疫機能、内分泌系、自律神経系などの身体の機能と密接に関係していることが科学的に分かってきました。さらに、人は社会的動物とも言われ、家庭・職場・学校などの人間関係からも大きな影響を受けます。そして人の病気を、身体のみの不調ととらえずに、心理面や社会面からも全体的(総合的)に診てゆこうとする医学を「心身医学」と言います。この心身医学が対象とするものの一つに「心身症」があります。
心身症は,病名が付く特定の病気がある訳ではありません。身体の病気であっても,心理的・社会的な因子が密接に関わって起こる病態を心身症と言い、心理的・社会的因子の関わりが強く見られる状態そのものを指しています。この中で歯科医が診る心身症を歯科心身症あるいは口腔心身症と呼びます。代表的な歯科心身症には口臭症、舌痛症などがありますが、詳細は表1をご覧ください。
1.口腔領域の心身症
舌痛症、口腔乾燥症、顎関節症、開口障害、顔面チックなど
2.口腔処置に対する神経症的反応
歯科治療恐怖症、術後不快症候群、義歯不適応症、補綴後神経症など
3.口腔領域の神経症
口臭症、ある種の歯痛、異味症、義歯ノイローゼ、口腔神経症(うつ反応、心気症)など
4.口腔領域の神経症的習癖
拇指吸引癖、歯ぎしり、咬舌癖など
5.その他(境界線症例)
体感障害症(セネストパチア)、仮面うつ病など
表1 歯科心身症の分類(内田、1979)
尚、心身医学的治療を主体に治療を行う科を「心療内科」と言い、心身医学的歯科治療を主体に治療を行う科を「心療歯科」と言うことがあります。
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