広場へ > お口の仕組みと働き > 歯とお口の発生と育ち方

歯はいつ頃からできますか?

歯は石灰化した硬い組織で、口の中に出ている歯冠部と歯槽骨の中で歯を支えている歯根部からなります。歯冠部の表層は人の体の中で最も硬いエナメル質で被われており、その内側は象牙質で、中心部には神経や血管などの軟らかい組織が詰った歯髄があります(図1)。エナメル質は皮膚や爪、脳神経などと同じ種類の外胚葉由来の細胞から作られ、象牙質と歯髄、そして歯を支える歯槽骨、歯根膜、セメント質は中胚葉由来の細胞から作られます。

胎生7週から10週頃になると、口の表面の上皮細胞が数を増して内部に入り込み、乳歯の芽となる歯胚(しはい)が形成されます。また、胎生3か月半頃になると永久歯の歯胚の形成も始まります。

これらの歯胚は数年の期間をかけて歯槽骨の中で発育し、やがて歯として口の中に生えてきます。

乳歯はいつ頃から生えてきますか?

最初の乳歯は、生後6か月から8か月にかけて下の中央から生えてきます。この歯は乳中切歯と呼ばれ、少し遅れてその隣の乳側切歯や、相対する上の乳切歯が生えてきます。1歳半くらいになると1本離れたところに奥歯の第1乳臼歯が、また、2歳までには乳側切歯と第1乳臼歯の間に乳犬歯が生え、最後に一番後ろの乳歯である第2乳臼歯が2歳半から3歳頃にかけて生えてきます(表1,表2,図2,表3)

歯が生える時期には多少の個人差があり、上に示した目安から数か月遅れることもあります。遅れがあまり気になる場合は小児歯科の専門医に診てもらってください。

永久歯はいつ頃から生えてきますか?

6歳前後になると最初の永久歯が生えてきます。以前は、下の第2乳臼歯の後ろにある第1大臼歯が、最初に生える永久歯となるのが普通だったのですが、最近は下の乳中切歯が永久歯に生え代わるほうが早い場合も多いようです。
永久中切歯が生えて6か月から1年くらい過ぎるとその横の側切歯や上の中切歯が生え代わり、さらに数か月遅れて上の側切歯が生え代わります(図3)
9歳から12歳くらいにかけては、側方歯群と呼ばれる乳犬歯、第1乳臼歯、第2乳臼歯が順次生え代わり、さらに、これらの歯の一番後ろに第2大臼歯が生えて、永久歯の歯並びが完成します(表4,図4,表5)。人によっては20歳頃になると、さらに後ろに親知らず(第3大臼歯)が生える場合もあります。

子どもの歯とおとなの歯があるのはなぜですか?

顔や顎さらには全身の成長に対応するために、乳歯から永久歯への生え代わりが起こります。赤ちゃんは1歳頃になると母乳や人工乳だけでは栄養の摂取量が不足し、もっと栄養価が高い固形食品の効率的な摂取に対応するため、食物を咀嚼し、細かく粉砕するための歯が必要になります。

しかし、硬い永久歯ができるためには5年以上の長い時間を費やすため、まず、小さめでエナメル質や象牙質の厚みが永久歯の半分程度と薄く、成長変化に対応してすり減ることができる適度な硬さを持った乳歯が、生後1〜2年の間に生えます。その乳歯を使って成長期前半の栄養摂取が進められます。

そして、6歳前後から12歳頃にかけて、乳歯から丈夫な永久歯への生え代わりが進み、一番後ろの第2乳臼歯のさらに後ろに第1大臼歯と第2大臼歯が生えて来て、おとなの顎の大きさと筋肉の強さに適した永久歯の歯並びとかみ合わせが完成します。

乳歯が生えていた場所に大きな永久歯が並ぶことができるのはなぜですか?

永久歯は乳歯より大きいため、きれいに生え代わるためには、いくつかの条件があります。生え代わりの時期が早い下の4本の前歯では5mm以上、上の4本の前歯では7mm以上の幅が不足します。この乳歯と永久歯の大きさの差を補うためには、隣り合った乳歯間のすき間が重要です(図5)。元々乳歯の歯並びには生理的空隙(せいりてきくげき)と呼ばれるすき間がありますが、このすき間が少なかったり、閉じている場合は、永久歯の大きさを補い切れないため、うまく並ぶことができません。

生理的空隙に加えて、永久歯の前方への傾斜や、顎の骨を含めた歯並びの大きさの成長も、不足するすき間の大きさを緩和するのに役立ちます。

乳切歯の生え代わりから2年程遅れて生え代わり始める乳犬歯・第1乳臼歯・第2乳臼歯の3本の乳歯と、その下から生えてくる犬歯・第1小臼歯・第2小臼歯の大きさの差は、きれいな歯並びができるためにはとても重要な要素です。この側方歯群の大きさの差はリーウェイスペースと呼ばれ(図6)、特に、最後に生え代わる第2乳臼歯は最も大きな乳歯で、その下から生える第2小臼歯よりかなり大きいため、生え代わりの時期に、ここの余ったすき間をうまく利用することで、歯並びの多少のデコボコは解消できます。

また、第2乳臼歯の後ろ側の面は、第1大臼歯が生えるための誘導面となるため、上下の第2乳臼歯の位置関係に異常があると、その後ろの第1大臼歯のかみ合わせのでき方に大きく影響します。

さらに、唇や頬の筋肉は歯を外側から押す力となり、舌の筋肉は歯を内側から押す力となるため、これらの口の回りにある筋肉の働きのバランスも、歯がきちんと並ぶ要素となります。

以上のような色々なメカニズムが互いに作用することにより、小さな乳歯が生えていた場所に大きな永久歯が並ぶことができます。

永久歯の数が生まれつき少ない先天先欠はどのくらいの割合で起こりますか?

一般社団法人 日本小児歯科学会が、平成19〜20年度にかけて全国規模で実施した「永久歯先天欠如の発生頻度に関する調査研究」の報告書によりますと、上下の歯並びとも、中央から2番目の側切歯と5番目の第2小臼歯が生まれつき欠如する場合が多いようです。

この調査は、7大学(北から順に北海道大学、昭和大学、鶴見大学、朝日大学、大阪歯科大学、九州歯科大学、鹿児島大学)の附属病院小児歯科とそれぞれの調査協力施設において、診療上の必要性から撮影された歯科用エックス線写真を資料とし、撮影時の年齢は、永久歯の頭の部分である歯冠が一般的にできあがる7歳以上としました。

対象者総数15,544名(男子7,502名、女子8,042名)の資料を調査したところ、永久歯の先天欠如は1,568名(10.09%)に確認されました。

性別では、男子が9.13%、女子が10.98%で、歯数別比較では、1歯欠如は5.22%、2歯欠如は2.93%、3歯以上ではいずれも1%未満でした(表6)

歯種別では、下顎第2小臼歯の欠如頻度が最も高く、次いで下顎側切歯、上顎第2小臼歯、上顎側切歯の順に多く認められました(図7)。その他の異常としては過剰歯が4.49%で最も多く、特に上顎正中部では3.06%でした。

この結果は、永久歯の先天欠如に関して、これまで様々な医療機関から報告されてきた1%から20%前後まで幅のある発生頻度に関しまして、日本人小児における信頼性の高い基準データを社会に提供しています。

なお、この研究成果は、インターネットの大手ポータルサイトである Yahoo! JAPAN において、平成23年1月10日付けトップページに 「永久歯足りない子 10人に1人」 のタイトルで、日本小児歯科学会が平成22年11月に実施した一般公開講座 「小児歯科から永久歯の先天欠如を考える」 の記事とともに掲載されました。

さらに、平成23年12月14日には、NHK全国ニュースの 「おはよう日本」 でも取り上げられています。

また、平成26年7〜8月にかけて、全国30誌程の新聞にも関連記事が掲載されました。

参考文献

  • 日本小児歯科学会:日本人小児における乳歯・永久歯の萌出時期に関する調査研究,小児歯科学雑誌,26(1):1-18,1988.
  • 一般社団法人 日本小児歯科学会学術委員会,山崎要一,岩崎智憲,早崎治明, 齊藤一誠,徳冨順子,八若保孝,井上美津子,朝田芳信,田村康夫,嘉ノ海龍三,牧 憲司,吉原俊博,船津敬弘,手島陽子,上里千夏,山下一恵,井出正道,栗山千裕,近藤亜子,嘉藤幹夫,渡邉京子,藤田優子,長谷川大子,稲田絵美:日本人小児の永久歯先天性欠如に関する疫学調査,小児歯科学雑誌,48(1):29-39,2010.
  • 新小児歯科学(編集 祖父江鎭雄,長坂信夫,中田 稔),医歯薬出版,東京,2001. (総ページ数:649頁).
  • 小児歯科学 第3版(編者 赤坂守人,佐々龍二,高木裕三,田村康夫,西野瑞穂),医歯薬出版,東京, 2007. (総ページ数:443頁).
  • 小児歯科学 第4版(編者 高木裕三,田村康夫,井上美津子,白川哲夫),医歯薬出版,東京,pp.84-100,2011. (総ページ数:427頁).

日本小児歯科学会 理事長
鹿児島大学 小児歯科学分野 教授

山﨑 要一

ページトップへ