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飲む、飲み込む

〜嚥下(飲み込み)は、口腔内が密封された瞬間の反射運動〜

咀嚼は、口の中で食べ物を飲み込みやすいように唾液と混ぜながら食べ物の塊(食塊:しょっかい)を作る工程です。食塊が形成されると飲み込みの反射(嚥下反射:えんげはんしゃ)が起こり、食塊が咽を通過します。これが飲み込む、すなわち嚥下(えんげ)です。

1.嚥下のメカニズム

 

図1に嚥下が始まる直前のビデオレントゲン造影検査の画像を示します。
嚥下が始まる時、まず口が閉じます。口が開け放しでは、動かせるのは舌だけで、嚥下しづらいはずです。同時に上下顎の歯が一瞬かんでいるのがおわかりでしょうか。顎がふらついていたのでは、嚥下はできません。顎を固定するために奥歯が一瞬かみ合うのです。歯は咀嚼だけではなく、嚥下にも重要な役割を果たしています。

さらに軟口蓋(上顎の奥の柔らかい筋肉組織)が反り上がって、鼻咽腔(口から鼻に繋がる通路)を封鎖します。このとき口腔内は完全に封鎖されます。

そこで、舌が勢いよく口蓋(上顎)に向かって押し上がり、口腔の内圧を一瞬にして高めます。この時、咽仏を触れると咽が一旦上がって(喉頭挙上:こうとうきょじょう)から下がるのが分かります。舌が口蓋を押し上げるのに連動して、喉頭挙上が起こるのです。喉頭が挙上している時の舌根部(舌の最後方部)は、食塊を咽頭に送り込みやすいように下方に押し下がっています(図2)。舌根とともに気管の入り口にある蓋(喉頭蓋:こうとうがい)も下がって、気管の入り口を塞ぎます。さらに次の瞬間、反射運動として食道の入り口が開き、喉頭蓋の上、あるいは左右の両脇を通過してきた食塊が食道に運ばれていきます。

嚥下の際の食塊は、口が塞がり、鼻が塞がり、そして気管が塞がり、圧に押されるようにして食道に移送されます。「飲み込む・嚥下運動」は、口から咽にかけて、それぞれの器官が100分の1秒単位で行う反射的協調によって成り立っています。

2.嚥下は全身を使っての協調運動

嚥下の時の「呼吸」に注目してみましょう。嚥下する直前には息を止めています。止めた直後にゴクリと嚥下をします。嚥下した直後には、わずかですが息を吐いています。すなわち、嚥下は「息を吸って→止めて→ゴクンと嚥下して→吐く」といった具合に、呼吸リズムの繰り返しです。ビールをグッと飲んだ直後に「ハー」と感嘆のような息を吐いていることからも、一連の呼吸の流れが分かると思います。呼吸は何が担っているかというと、口や咽ばかりでなく、肺を取り囲む、胸筋、背筋、腹筋も活躍しています。
このように、たかだか1回の嚥下も、人体が総出となった協調運動なのです。

3.摂食・嚥下(せっしょく・えんげ)障害(摂食機能障害)とは

例えば脳卒中の場合、手や足が思うように動かせない後遺症が残ることがあります。利き手が麻痺してしまったら、お箸を持って食事をするのはさぞ難しくなることでしょう。しかし、実はこのような麻痺は、口や咽にも残ります。「口が開きづらい」「唇が閉まらない」「舌が動かない」「頬の感覚がない」などです。その結果、食べ物が歯の表面に張り付いたままになったり、唾液や食べ物を口からこぼしてしまいます。

さらに、咽にも麻痺が残ると、もっと危険な状況になります。飲み込んだ物が食道に行かず、気管の方へ行ってしまうのです。これが誤嚥(ごえん)と呼ばれるものです(図3)。先程の嚥下のメカニズムを知れば、どうしてこのようなことが起きてしまうのか理解ができます。手が思うように上がらないのと同じように、例えば軟口蓋が上がるタイミングが遅れると、口腔内が密封されずに内圧が高まりません。口腔内から咽頭へ食塊が送られるスピードやパワーは落ちてしまうでしょう。あるいは、咽が上がりきることができなければ、喉頭蓋が気管の入り口を完全に塞ぐことができないことになります。そうすれば、食塊は開き放しの気管の方へ行ってしまうことでしょう。誤嚥のために肺炎を起こしたり(誤嚥性肺炎)、窒息したりで直接生命も危ぶまれる事態になります。

以上のように、食べる行為、咀嚼、および嚥下に障害がある場合を「摂食・嚥下障害(摂食機能障害)」と言います。摂食・嚥下障害の患者さんは、超高齢社会となり、またハイリスク出産等の増加とともに年々増える一方なのです。

そこで、手や足にリハビリテーションがあるのと同様に、口や咽、すなわち食べる機能にもリハビリテーションがあります。食べられないからといって点滴のみで生命を維持するのではなく、摂食・嚥下リハビリテーションを施すことにより、再び「食事のある生活」を取り戻すことができるのです。

日本大学歯学部摂食機能療法学 教授 植田耕一郎

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