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広場へ > お口の仕組みと働き > 喋る、歌う、笑う、泣く、楽器の演奏(管楽器との関わり)

1.声を発するメカニズム

喋ったり、歌ったりは、本人の意思があってのことです。意思を表現するにあたり、重要な役割を担うのが「口」です。

(1)

舌に注目してみましょう。「ラ」と言えば舌の先を動かします。「カ」は舌の奥、「タ」は舌の中央を動かすことによって発せられます(弾き音)。「タカラ、タカラ」と発声している時は、舌は波をうつような動きをします。

(2)

唇については、「パピプペポ」と発声する時、唇がしっかり閉じてから口腔内に溜めた空気圧を破裂させるようにしています(両唇音)。唇がしっかり閉じられないと、「パピプペポ」は「ファフィフュフェフォ」になってしまうことでしょう。

(3)

「アー」発声時の軟口蓋(上顎の奥の筋肉)を見ると、挙上しているのがおわかりでしょうか。口から鼻に繋がる通路(鼻咽腔)を塞いで、鼻漏れ声にならないようにしているのです。もし、軟口蓋が挙上しなかったら「アー」の発声は「ナー」あるいは「マー」になってしまいます。

(4)

歯を意識しながら、「サシスセソ」と言うと、微妙に上顎と下顎の前歯同志が距離をとり、その隙間から息が出て発声されているのがわかると思います。これらを歯茎音(しけいおん)と呼びますが、もし前歯が欠けているような状況でしたら、「サシスセソ」は「ハーフーハーホー」みたいに聞こえてしまうことでしょう。

(5)

発声時には声帯が左右から相寄って声門を狭くし、呼気(吐く息)がこの声帯を振動させることにより音声を生じさせます。気管から口腔に向かって呼気流が送り込まれ、先述した口腔の諸器官が働き、母音や子音を構成して「声」となります。声帯は話している最中は、開いて閉じてを瞬時に繰り返しています(図1)。

2.笑ったり、泣いたりの表情について

笑い声、怒声、涙がなくても、その人は笑っているのか、怒っているのか、あるいは泣いているのか、顔を見ればわかります。例えば、唇の周囲の筋が、口角を若干引き上げていれば、微笑んでいるようになるでしょう。「モナリザの微笑み(図2)」は、モナリザの口の周りの雰囲気から微笑んでいることが感じられると思います。その他に頬の筋、目の輪郭を構成している筋、これら表情筋と呼ばれるものが、喜怒哀楽を表現しています。よく俳優さんが、セルフトレーニングとして、わざと唇をとがらせたり、頬を膨らませたり、口を大きく開けたりするのは、いつまでも豊かな表情を保つためでもありましょう。一般的にこうした口や顔の体操は、表情ばかりではなく、咀嚼、嚥下、発声の機能に対する老化予防にも貢献できます。

楽器演奏

図3は、サックスホーンを奏でているところです。実は、事故にあってほとんど意識が回復していない患者さんに音楽療法をしているのです(大阪芸術大学教授 野田僚先生による)。拝見すると、サックスホーンの演奏がすすむにつれて、車椅子上で無表情だったはずの患者さんの顔色が赤味を帯び、目が見開き、口角がつり上がって笑顔を浮かべるのです。また、点滴管理で口から食事ができないでいたはずなのに、スプーンを唇に触れた途端に、しっかりと口が開きました。術者の口のなす楽器演奏が、患者さんの口の機能に奇跡を起こしたのです。

サックスホーンの音は、唇、舌、頬、軟口蓋、咽、歯などが、口腔に取り込まれた空気や息を微妙に調節することから発せられています。サックスホーンに類する楽器演奏を上達するために、口腔においてはそれぞれの器官が瞬時に働くように日々鍛錬を重ねていくのでしょう。これは、話す、食べる、呼吸するといったことが、反射的に営まれていることに似ています。

口は全身の一部ですので、仮に全身の健康状態がすぐれないときに、口腔機能だけは良好だといった乖離は考えにくいと思います。全身機能が低下すれば、口腔機能も低下していくことでしょう。反対に全身機能が向上すれば、口腔機能も向上するのではないでしょうか。全身があっての口の健康です。その点、口腔の状態は、全身の健康状態を反映していることにもなります。「口は健康の窓」と言われる所以です。

楽しくお話をして、笑顔を浮かべられるお食事ができたら最高の贅沢であり、すなわちそれが「健康の源」であると思います(図4)。 歯科医療は、まさに口腔を通じた健康支援に一役を担っています。

日本大学歯学部摂食機能療法学 教授 植田耕一郎

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