印刷する
広場へ > お口の仕組みと働き > かむ、食べる、味わう

かむ、食べる、味わう

口の機能には、「食べる」「話す」「呼吸」「表情の表出」などの機能があります。

食べる かむ 味わう そして楽しむ

〜食べる機能は、決して本能ではありません〜

赤ちゃんは生まれて間もなく、お母さんのおっぱいを口で探り、口で乳首を捕らえようとします。捕らえたら、即座に「チュー、チュー」とミルクを吸い始めます。ここまでは、本能としての反射運動です。

しかしその後は、全身を目にして耳にして、五感を働かせて、食べる機能を獲得するために学習を始めます。お母さんの一挙手一投足を見て感じているのです。ですからお箸の文化やフォークの文化、あるいは手づかみの文化といった具合に食べ方が、同じ「人」でも異なるのです。

食べる機能を獲得するに当たり、離乳食が始まる頃、最初はよく口からこぼしたり、コップで水を飲むとむせたりすることが頻繁でしょう。手づかみをして、そのうちスプーンやフォーク、あるいはストローといった食具を使う学習が始まります。これら一連の機能は決して本能ではありません (図1)。しかも一つとして無駄のないステップを踏みながら食事機能獲得の道を歩んでいます。例えば、手づかみ食べは、食べ物に対して、手の感覚と口の感覚を一致させるための重要なステップです。手を汚すからといって、手づかみ食べを一切させなければ、おそらく異常に綺麗好きの子になったり、偏食が目立つような子になったりする可能性が大きくなります。

〜認知機能から始まる食べる機能〜

食べるためには、まず目の前に出された食べ物が何であるかを認識しなくてはなりません。今まで一度も見たことも、口の中に入れたこともないような食べ物に対して、われわれは警戒します。口に入れる前に、その食べ物をじっと見て、匂いをかいだり、お箸でつまんで感じを確かめたりするかもしれません。その食べ物が、硬いか軟らかいか、冷たいか熱いか、好きか嫌いかなどは、口に入れる前に、瞬時に予知、認識しているのです(図2)。それは過去の経験が記憶として刻まれており、その食べ物に合った食事行為をすることになります。

事実、固焼き煎餅とハンバーグでは、口に運ぶ量もスピードも異なっているはずです。もし、先天的な病気により、やむを得ず生後口から食べることができずに、点滴のみで栄養を補給されていたとします。
1歳になっていきなり離乳食を口に入れようとしても、恐らくその子は断固として食事を拒否するでしょう。生まれてから口から食べる経験がないその子にとって、当座食べ物は単なる異物でしかないのです。

また認知症のように記憶や認知機能に障害が生じると、目の前の食べ物を硬い軟らかいの区別なく、ひたすらガツガツと一本調子で口に詰め込んでしまう場合があります。食べ物は認識できても、硬さ、熱さ、嗜好の認識までは働くことが困難だからです。

われわれは生まれてからずっと、食べることへの経験を積み重ねて、それを無意識の中で記憶に留めて、食事機能を繰り返しているのです。

〜かむ動作、咀嚼とは〜

口に入れるためには、硬い食べ物であれば前歯でかみ切らなければなりません(咬断:こうだん)。

かみ切ったものは奥歯に運んで砕いたり(粉砕)、すり潰したり(臼磨)します。

かみ砕かれたものは、さらに舌が唾液と混ぜ合わせることにより(混合)ドロドロとした塊(食塊)を舌の上に作り上げます(食塊形成)。

咀嚼は、単に食べ物を歯で砕いているだけではなく、食塊を形成するために咬断、臼磨、粉砕、混合の連続した過程です。

臼磨、粉砕のためには、図3に示したように奥歯のかみ合せの面に食べ物を保持しなくてはなりません。したがって、内側から舌、外側から頬が適度な力で食べ物を挟む必要があります。例えば、脳卒中の後遺症で舌や頬に麻痺が残るようですと、図4に示したように、食べ物がそのままの形で歯の表面に張り付いたままになってしまいます。これは咀嚼障害というものです。

〜味わう、楽しむ〜

食事とは、単に口から栄養と水分が補給されれば良いというものではありません。食事の基本は「楽しいこと」だと思います。楽しみを得るために、味わいがあります。

味覚は、舌の表面にある味蕾という細胞が、味の刺激を受けることにより、味刺激が脳へ伝導されて感じるものです。味蕾細胞は、1週間くらいで新しい細胞に変わっていきます。この新陳代謝は、食事や会話をすることによって、口の中で自然と行われているサイクルです。

味覚を得て、それをおいしいとか、まずいとかは、記憶や過去の経験などと照らし合わせて瞬時に判断されます。また、同じ食材であっても温度、香り、見栄え、味付けが違えば、おいしくもまずくもなるでしょう。さらに同じ食べ物であっても、満腹と空腹、食事の相手が上司か家族かでも異なると思います。

いずれにせよ食事が「おいしかった」「楽しかった」と感じられるための共通の条件は、「健康な口の機能」であることは間違いありません。

日本大学歯学部摂食機能療法学 教授 植田耕一郎

ページトップへ