歯周病の治療にはどんな方法がありますか
1.歯周治療の流れ
医療面接、検査・診断を経て歯周治療が開始されますが、大きく分けて、歯周基本治療、歯周外科治療、口腔機能回復治療、メインテナンスに分かれます。そのステップごとに再度の検査(再評価)を挟んで、治療の効果が上がっているかどうかを確認します(図1)。
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図1 歯周治療の流れ |
2.医療面接
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患者さんの現在の状態と背景の様々な情報を聴取します。また、次に行う検査の結果と、それをもとにした診断結果を交えて、歯科医師による病状説明とそれに対する治療計画を説明し、患者さんの納得と諒解(インフォームドコンセント)を得る大切なステップです。
3.歯周組織検査
プラーク付着の状態、歯茎(歯肉)からの出血、ポケットの深さ、歯の動揺度等を調べると共に、エックス線写真を撮影して歯の周りの歯槽骨の状態を確かめます。 この検査は、最初だけでなく、治療によって病気が治っているかを確かめるため、治療の節目で行います(図2)。とくにポケットの深さの検査は、歯周治療を行う上でとても大切です。
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図2 歯周組織検査 |
4.歯周基本治療
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図3-a 重要な動機付けと歯ミガキ指導(プラークコントロール) |
a) 患者さんへの動機づけ(モチベーション)とプラークコントロール(歯みがき指導)
歯周病やむし歯の原因の細菌性プラークを歯から取り除くことは治療を的確に進めるために、とても大切なことです。そのためには、自分自身でしっかりと口の中の管理をするという、しっかりとした心構えが大切です。歯科医師や歯科衛生士はきちんとみがけるようになるまで、指導を行います。
さらに、歯科医師、歯科衛生士によってプラークや歯石などを来院時に綺麗に取り除くことをPMTC(専門家による機械的歯面清掃)と呼びます。
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図3-b 歯石の除去(スケーリング・ルートプレーニング) |
b) b) 歯石の除去(スケーリング・ルートプレーニング)
歯石はプラークが固まったものです。その表面にはまたプラークが溜まるので、きれいに取り除く必要があります。取り除く際には、手用または超音波を利用したスケーラー等を用います(図3-b)。また、歯石の付いていた歯の表面には細菌からの毒素がしみこんでいたり、表面に溝ができたりしていますので、それを除去して滑らかな歯の表面を作ることをルートプレーニングと呼びます。これは手用のスケーラーを使用して行います。
c) かみ合わせの調整
咬合性外傷(歯周病の種類の章参考)を引き起こしている歯の場合、歯の安静を保つために、歯の一部を削って、歯と歯のかみ合わせの状態の調整を行うことがあります。
5.歯周検査(再評価検査 1 )
再度の歯周組織検査を行い、最初の時期(初診時)に行った検査の値の変化から、改善状態を調べます(図4)。この結果を基に、次に行う治療を修正しながら継続します。
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図4 よくなったかどうか再検査 |
6.治りきらないときは歯周外科治療
歯周基本治療のあとの再評価検査の結果、歯石がポケットの深いところに入り込んでいて除去できず、治っていない場合には外科的治療を行うことがあります。
a) フラップ手術
治っていない場所の歯茎を部分麻酔し、その後に剥離(切って開く)し、スケーラーの届かなかった部分の歯石や根の表面の汚れを取り除きます(図5)。取り除いた後は、開いた歯茎をきちんと閉じて縫合します。糸を抜くのは1週間程度後になります。手術後は痛み止めや化膿止めをしっかり飲みます。
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図5 フラップ手術
歯肉を切り開くので、悪いところを直接目で見ることができます |
b) 歯周組織再生療法
通常の歯周治療では、失われた歯周組織を元通りの状態に戻すことはできません。その歯周組織を元通りにする「再生」を期待する治療法です。これには、特殊な膜を用いるGTR 法(歯周組織再生誘導療法)(図6-a)とエナメルマトリックスタンパク質を主成分とした材料(エムドゲイン®)を用いる方法(図6-b)とがあります。エナメルマトリックスタンパク質は、歯が生えてくるときに重要な役割をするタンパク質です。
これらの方法には適応症があり、良い条件の場合は効果が期待できますが、進行しすぎている歯周病に行っても効果はありません。
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図7-a GTR法 特殊な膜を剥離した歯肉弁と骨との間に入れて、膜の内側の部分に新しい歯周組織ができてくるのを待つ方法 |
図7-b 最新のGTR法ーエムドゲイン® 膜を入れる替わりにエナメルマトリックスタンパクを主成分とする材料(エムドゲイン®)を歯の表面に塗って、新しい歯周組織ができてくるのを待つ方法 |
d)プラスチックサージェリー(歯周形成外科手術)
この手術は、見た目や機能の問題がある歯茎の形態などを整えることを目的に行うものです。ポケットをなくしたり組織を再生する目的の手術とは術式も異なります。
7.歯周検査(再評価検査2)
歯周外科治療を行った部位の改善状態を確かめるための検査です。この結果を基に治療計画を修正したり、口腔機能回復治療を行うかどうか、そしてメインテナンスへの移行を決めたりします。
8.口腔機能回復治療
歯周治療で改善が見られた場合、治った歯に対して被せ物(冠)、ブリッジや入れ歯(義歯)を装着します。これにより、かむ力、食べる力を向上させます。
9.メインテナンス(定期検診)
積極的な歯周治療が終わっても、治療が完全に終わったわけではありません。とても大切なこととして、定期的に口の中、歯の周りの組織のチェックを受けること(メインテナンス)が必要となります(図7)。歯周病は再発しやすい病気ですので、場合によっては再度問題が見つかり、治療が必要となることもあります。メインテナンスの期間は、罹っていた歯周病の重篤度や患者さんの状態によっても異なります。是非とも期間を決めて、毎日の的確な歯磨きと規則正しい生活習慣が出来ているかどうか、再発がないか、歯医者さんでチェックを受けて下さい。
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図7 お口の健康を末永く保つには、歯周病の治療後も、自分自身での毎日のケアが大切。 そして定期検診で歯科医・歯科衛生士によるメインテナンスを受けましょう。 |
図引用:鴨井久一、沼部幸博著、新・歯周病をなおそう、砂書房、2008年
日本歯科医大学生命歯学部 歯周病学講座 教授 沼部幸博