歯周病とはどんな病気ですか
ひと言でいうと、歯を支える歯茎(歯肉)や骨(歯槽骨)が壊されて行く病気です。歯茎(歯肉)の内側は普段見ることは出来ませんが、歯の根の表面にあるセメント質と歯槽骨との間に歯根膜と言う線維が繋がっていて、歯が骨から抜け落ちないようにしっかりと支えています(図1)。むし歯は歯そのものが壊されて行く病気ですが、歯周病はこれらの組織が壊され、最期には歯が抜け落ちてしまう病気です。?日本人の成人の約8割がこの病気に罹っています(図2)。日々の生活習慣がこの病気になる危険性を高めることから、生活習慣病のひとつに数えられています。
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図1 歯周組織 |
図2 日本人で歯周炎にかかっている人の年齢階級別グラフ [厚生労働省健康政策局歯科衛生課編:平成23年歯科疾患実態調査報告より] |
1.歯周病の原因
1)細菌性プラーク(バイオフィルム菌と歯周病原細菌)
プラークとは、細菌の塊で1/1000gの中に1億を超える細菌が棲みついています。この細菌の中には善玉の細菌と悪玉の細菌とがあります。
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図3 バイオフィルム(プラーク)は歯の2大疾患であるむし歯と歯周病の原因! |
図4 歯に付着したバイオフィルム(プラーク) |
歯面の唾液成分である糖タンパクが薄い皮膜(ペリクル)を作ります。その皮膜の上にくっついたミュータンス菌(むし歯菌)がショ糖を使ってグリコカリックスというネバネバした物質を作り自分の家づくりを始めます。すると棲みやすい場所ができたわけですから、口の中の細菌たち、とくに悪玉の細菌が家の中へ多量に侵入して、増えていきます。この状態を細菌性プラーク(プラーク)またはバイオフィルムと呼んでいます(図3)。この中は食べ物(栄養)や水も十分で温度も 37 ℃前後という大変よい環境で、悪玉細菌である歯周病菌は、産生する毒素で歯茎を腫らし、血や膿を出したり、歯の周りの骨を溶かしたりする原因となります。このプラークは、外からの抗菌薬(化膿止め)や唾液中の抗菌成分の攻撃に抵抗し、薬が効きにくい構造となっています(図4)。このプラークが唾液や血液の無機質成分を吸って固まったものを、歯石と呼びます。
2)歯周病になりやすい状態
では、どのような状態が歯周病にかかりやすいのでしょうか(図5)。歯周病にかかりやすくなる3つまたは4つの因子が知られています。
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図5 歯周病を引き起こす4つの因子 |
微生物因子(歯周病菌)
プラークの中の歯周病の原因となる微生物(歯周病菌)の存在
環境因子
・喫煙
・口の中の清掃不良
・初診時のポケットの深さ
・プラークの付着量
・ストレス
・教育の達成率
・食生活・専門医への受診回数 など
またプラークの溜まりやすい、歯に合っていない被せ物があることなども含まれます。さらに口呼吸、すなわち口で呼吸をする習慣のある人も、口の中の粘膜や歯茎が乾燥し、炎症を起こしやすいのでこれに含まれます。
宿主因子
・年齢
・人種
・歯数
・糖尿病
・歯肉滲出液中の物質
・白血球機能
・遺伝 など
よく歯を磨かなくてもむし歯や歯周病に罹りにくい人がいます。その理由のひとつには、生まれつきの私達の体の特徴があります。例えば、体を守る防衛軍である白血球などの力、すなわち体の免疫機能の違いもあります。
咬合因子(環境因子に含む場合もあり)
悪いかみ合わせ(外傷性咬合)、例えば歯ぎしり(ブラキシズム)や歯の食いしばりなど、歯に強い負担がかかる状態などが含まれます。
このように、歯周病を引き起こしやすい状態の輪(各因子)が重複することで、歯周病発症の危険性が高まります。とくに、歯みがきを怠る口の中の清掃不良に加え喫煙などの生活習慣、過度のストレス、体調不良による宿主(体)の抵抗力の低下などが加わるととても危険です。 規則正しい生活習慣は、歯周病を寄せ付けないためにも大切な事です。また、生まれつき歯周病に罹りやすい方もいますので、自分の体についての情報を知る事も大切です。
3)歯周病と全身との関わり、歯周医学との関連
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図6-a 歯周病が引き起こされるしくみ |
図6-b 歯周病と心臓病の関係 |
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図6-c 歯周病と脳卒中の関係 |
図6-d 歯周病と糖尿病の関係 |
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図6-e 歯周病と肺炎の関係 |
図6-f 歯周病と低体重児出産の関係 |
歯周病に慢性的に罹っていると、様々な全身の病気に罹る危険性を高めることが知られています。
歯周病のある場所には、歯周病原性細菌とその細菌が産生する毒素、炎症のある場所で作られるプロスタグランディンやサイトカインなどのケミカルメディエーターが存在し、歯周病が悪化するに従い、その量も増えてきます(図6-a)。これらのものが歯肉の毛細血管を通じて全身に搬送されると、心臓血管疾患、脳卒中(脳梗塞)、糖尿病、低体重児出産などを引き起こす危険性を高めることが分かってきました(図6-b?e)。また、唾液の中に混じった歯周病原性細菌を含む細菌が誤って気道から気管支、肺の方に入ると、気管支炎、肺炎(誤嚥性肺炎)の原因ともなります(図6-f)。さらに歯周病は肥満やメタボリックシンドロームとの関連も言われるようになっています。
よって歯周病の予防や治療は、全身の様々な病気の予防や治療に役立つことにもなり、健康な生活を送るためにとても大切なことです。
図引用:鴨井久一、沼部幸博著、新・歯周病をなおそう、砂書房、2008年
鴨井久一、沼部幸博著、新・命をねらう歯周病、砂書房、2007年
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