目 次
U.口腔・顎顔面の麻痺
1.顔面神経麻痺
顔面の運動神経である顔面神経が傷害されて発症する運動麻痺で中枢性と末梢性に分類されることが多いようです。顔面神経は、顔面筋の運動だけでなく、味覚、涙の分泌などにも関係しているため、運動麻痺の他に味覚や涙の分泌異常を伴うこともあります。
(1)原因
頭蓋内の腫瘍や多発性硬化症など中枢性の原因と、外傷、歯科治療、腫瘍などの末梢性の原因があります。
(2)臨床症状
1)知覚障害
顔面の皮膚や口腔粘膜など三叉神経の支配領域に知覚麻痺が発症します。知覚が全く消失した知覚麻痺から正常より少し低下している知覚鈍麻まで神経の損傷程度により症状はさまざまです。さらにアロディニア(既述)や痛覚過敏、こわばりのような不快感まで多彩な症状を呈することもあります。
2)運動障害
かむ時に必要な筋肉(咀嚼筋といいます)の運動麻痺のために、口が開けづらい、かむ時に力が入らない、顎がずれているなどの症状が出現する場合もありますが、頻度は低いようです。
麻痺の範囲が広い場合は、脳内の腫瘍など中枢性の原因による麻痺が疑われます。麻痺の程度を調べるために触覚や痛覚、温度感覚などの感覚検査を行います。
3)治療法
ステロイド薬、ビタミン薬、神経賦活薬(ATP製剤)などの薬物療法が用いられます。その他、理学療法として鍼治療、赤外線やレーザーの照射、星状神経ブロックなどが用いられます。
参考文献
1)鈴木長明:顎顔面口腔の痛み、歯科麻酔学第5版(海野雅浩ら編)、医歯薬出版、1997、513−526
2)今村佳樹:ペインクリニック、歯科麻酔学第6版(海野雅浩ら編)、医歯薬出版、2003、516−541
3)嶋田昌彦:ペインクリニック、歯科麻酔の正しい理解(監修:海野雅浩)、口腔保健協会、2007、印刷中
4)The American Psychiatric Association (高橋三郎、他訳):DSM−W精神疾患の分類と診断の手引.東京,医学書院,1998,179−180
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 疼痛制御学分野 嶋田昌彦