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咬合、かみ合わせ

はじめに

「咬合(こうごう)」とは、下あごを上あごに向かって閉じてくる行為をさす場合と、上下の歯の接触関係をさす場合とがあります。皆さんが「かみ合わせ」という言葉 からイメージするのは、後者、すなわち上下の歯の接触関係ではないでしょうか? さてヒトの場合、上あごは頭蓋骨に固定されていて、下あごは主に複数の筋肉に よって頭蓋骨から釣り下がっています。これらの筋肉が収縮あるいは弛緩する ことで、顎関節(がくかんせつ)を中心にして、下のあごが動きます。すなわち咬合には、歯、筋肉、顎関節および中枢神経系が関与しますので、そのうちのどれか一つに問題が生じても咬合(かみ合わせ)に問題が生じます。特にヒトの顎関節は回転運動の他に前後左右にも動くことができ、複雑な機構でトラブルが生じやすい環境にあります。

正常な咬合(正しいかみ合わせ)とは

図1のように通常は上の歯1本に対して下の歯2本がかみ合っています。例えば、上あごの第一小臼歯に対して、下あごの第一小臼歯と第二小臼歯がかみ合っています(1歯対2歯咬合)。図1のようにきれいなかみ合わせでなくても、日常生活に支障がなければ気にする必要はありません。ただし咬合は、咀嚼、発音、外観、姿勢などに関与しますので大切です。もし気になることがあれば歯科医師に相談してください。

成人のかみ合わせと子供のかみ合わせ

成人のかみ合わせと子供のかみ合わせは異なります。特に永久前歯が出てくる時期には、咬合がみだれているように見えます(図2)図3は混合歯列期の子供のあごの状態をその中まで見えるようにしたものです。例えば上あごの永久犬歯は、まだ上あごの骨の中に埋まっており、側切歯や乳犬歯を押しのけてはえてくる様子がうかがえます。この様にかみ合わせが悪く見えても正常な発達段階にある場合もありますが、お子さんのかみ合わせが心配な場合は、歯科医院に相談してください。

永久歯が抜けたままに、あるいは悪習慣を放っておくと

永久歯を抜けたままにしておくと、図4に示すように抜けた歯の後方の歯が前方に傾き、また抜けた歯にかみ合っていた上の歯が下方に降りてきます。それによってかみ合わせがくるってきます。またお子さんでは指しゃぶり、舌や唇の悪い癖でもかみ合わせは悪くなります。片側だけの咀嚼も悪影響を及ぼしますし、鼻閉や口呼吸もかみ合わせを悪くします。「歯はいろいろな条件によって位置を変える」ということを覚えて置いてください。また成人では歯周病を放置しておくと舌の圧力で歯が前方に押し出され、歯と歯の間に隙間が空き、かみ合わせが悪くなることもあります。

かみ合わせが悪くなるとどうなるか 

かみ合わせが悪くなると、上下の歯の接触点数が減少するので咀嚼の能率が悪くなります。咬合接触点数が減少していると、接触のある歯だけに咬合力が集中してしまうことになります。さらにそれらの歯の支えが弱くなっている状態(歯周病)にあれば、通常のかむ力によっても大きな問題が発生します。また前歯のかみ合わせが悪くなると発音がしにくくなったり、話す時に唾が飛んだり、唇が閉じにくくなったり、口が渇いたり、見てくれが悪くなったりする場合があります。 前述したように、歯が1本抜けても、かみ合わせが悪くなりますので、最寄りの歯科医院に行き、対処してもらわなくてはなりません。

おわりに 

歯は条件によって位置をかえるので、咬合(かみ合わせ)も変化します。咬合(かみ合わせ)は単に咀嚼だけに影響を及ぼすだけではない健康にとって大変重要な要素ですので、歯、歯周組織、舌、顎関節、関連する筋肉を常に健康であるようにメインテナンスを心がけましょう。

参考文献

■1. Frans P.G.M van der Linden, Herman S. Duterloo:DEVELOPMENT OF THE HUMAN DENTITION、Medical Dept, Harper & Row. 1976.

東京歯科大学 有床義歯補綴学講座教授 櫻井 薫

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