広場へ > お口の仕組みと働き > 筋肉の働き

はじめに

下顎骨の運動は、咀嚼筋と呼ばれる手足にある筋と同じ骨格筋である筋肉が主に働きます。この筋肉は円筒状で横紋を持つ筋線維 (きんせんい)から構成され、随意に動かすことが出来る筋です。下あごを上あごに対して上・下したり水平に移動したりすることによって、歯が食べ物をかみ切ったり、すりつぶしたりすることが出来るのです。この他に口腔系には表情を作る顔面筋(表情筋)と咀嚼や嚥下に働く口腔、咽頭にある舌筋や咽頭筋群、さらに頸部にある舌骨筋群があります。

咀嚼筋 (三叉神経支配)と表情筋(顔面神経)

咀嚼筋の運動を咀嚼運動あるいは顎運動と呼びます。咀嚼筋では歯を食いしばった時に顎の外側で硬くなる筋肉を「咬筋」と呼び、硬い食べ物をかみ砕くときに働きます。こめかみには下顎を引き上げ(閉口)や顎を後方に引く時に働く扇形の「側頭筋」があります(図1)

さらに下顎の内側には内側翼突筋があり咬筋や側頭筋と協同して働きます。顎を前に突き出すのは咀嚼筋の中で最も小さい外側翼突筋と呼ばれる筋です(図2)。開口の時や下顎の緊張に働く筋です。顎を開ける時に咀嚼筋の力を抜くと下顎の重さにより開口します。大きく口を開いて食べ物をとらえる時には、舌骨上筋が主に働き、この時に外側翼突筋は顎を開けやすいように前方移動します(図3)。また、食べ物を口唇でとらえたり、咀嚼している時に食塊を口の奥のほうに押し込むのに表情筋(顔面神経支配)の一部がはたらきます。この筋は名前の通り、顔の表情をつくる筋です(図3)

表情筋は顔面の表情に関係する筋であり、皮膚の直下ある薄い筋(皮膚に付着していることから皮筋と言われている)で感情を顔面にあらわすことができます。頭皮、眼、鼻、耳、口の周り、頬にあり、上唇、下唇、さらに頬の運動に関係します。特に口輪筋と頬筋は唇と頬を閉じことから入れ歯を保持したり、食べ物が口からこぼれないようにし、食物が挟まっている時には奥の方に押し出すような働きもします(図4、図5)

咀嚼筋の筋肉にはミトコンドリアと呼ばれるエネルギーを産生する工場が筋線維の間に他の骨格筋と比べ、ぎっしりと詰まっています(図6)。そのため持続性の運動を可能にするのです。しかし、食べ物をかまなくなると筋肉も衰えてきます。また筋線維が細くなったり脂肪変性が起こったりして筋力の低下を引き起こすようになり顎の変形や吸収も加わり、「かむ」という動作はさらに衰えます。このため、「かむ」という刺激が脳に伝わりにくくなり、脳の働きにも影響してくるのです(図7)

日本歯科大学生命歯学部 解剖学第一講座 教授 佐藤 巌

ページトップへ