「朝昼晩」はむし歯予防やお口の中のトラブルに関する情報をイラストや写真で分かりやすく紹介するWEBマガジンです

日本歯科医師会 Japan Dental Association

年3回(4月、6月、11月)公開予定  
制作:日本歯科医師会 
協力:パナソニック

2020年度 歯と口の健康シンポジウム 感染症とオーラルケア

日本歯科医師会主催の「歯と口の健康シンポジウム2022」が10月12日、「『国民皆歯科健診』で注目の集まる 歯周病と全身疾患~女性ならではの疾患も!女性と歯周病の関係~」をテーマに、オンライン配信で行われました。第1部では、大阪大学大学院歯学研究科 口腔分子免疫制御学講座 予防歯科学教授の天野敦雄氏が基調講演を行いました。第2部では、天野氏とフリーアナウンサーの政井マヤ氏による対談が行われました。その模様をご紹介します。

第1部

基調講演歯周病と全身疾患
女性と歯周病の関係

天野敦雄(大阪大学大学院歯学研究科
口腔分子免疫制御学講座 予防歯科学教授)

歯周病菌は、タンパク質と鉄分を
栄養にして活性化する

歯周病は「サイレントディジーズ(静かなる病気)」と呼ばれ、ほとんど痛みがありません。気づいた時には進行し、ひどい場合には歯ぐきが腫れ、歯が抜けたり、残った歯も位置がずれたりし、その上かなりの口臭を漂わせるような状態になります。

歯周病の口腔内


2001年のギネスブックには人類史上最大の感染症、つまり患者数がもっとも多い病気として歯周病が掲載されました。日本でも成人では約8割が歯周病に罹患し、うち1割が重度の歯周病を患っています。

慢性炎症である歯周病は、メタボリックシンドローム、自己免疫疾患、動脈硬化性疾患、神経疾患、がんなど、さまざまな全身疾患に悪影響を及ぼすことも近年分かってきました。


現在、国民全員が毎年歯科健診を受けられるようにする「国民皆歯科健診」の導入が検討されています。口腔の健康を維持して健康寿命を延ばすという目標ですが、これは歯と口の健康が全身の健康を支えているというさまざまなエビデンスに基づいています。

歯周病の原因は、歯磨き時の磨き残しで生じるプラーク(歯垢)、細菌のかたまりです。プラークはやがて歯石になります。歯石になるとセルフケアでは取り除けません。しかし、私たちの体はなんとか異物を取り除こうと免疫が活性化します。この状態を炎症といいます。炎症により歯周ポケットが生まれ、さらに歯を支える骨が痩せていき、ひどい場合には歯が抜け落ちてしまいます。


すべては歯周病菌が原因になっています。むし歯菌は甘い砂糖などを栄養としますが、歯周病菌はタンパク質と鉄分を栄養源として増殖します。この2つがなければ、たとえ口腔内に歯周病菌が存在しても増殖できず、病原性も低いといえます。この状態なら安心なんですね。

しかし、歯ぐきから血が出ると歯周病菌にとって優位な状態になってしまいます。なぜなら、血液中には血漿たんぱく質、赤血球ヘモグロビンの中にはヘミン鉄と呼ばれる鉄分が含まれているからです。つまり、出血した瞬間に歯周病菌は血液中のタンパク質と鉄分をエサにして活性化してしまうのです。歯磨き時に出血した場合は、すぐに歯科医院を受診することをおすすめします。


女性はライフステージにより
歯周病になりやすい時期がある


男女ともに歯周病のリスクはありますが、実は女性特有の歯周病もあります。これにはエストロゲン(卵胞ホルモン)、プロゲステロン(黄体ホルモン)という2つの女性ホルモンが大きく関係しています。

エストロゲンは、女性の身体を外敵から守るために免疫を活性化して、妊娠・出産において母胎と胎児を守ります。ただし免疫を活性化するということは、先程お伝えした通り、炎症も起こりやすくなります。また、女性ホルモンの量は月経や排卵期、月経前によって大きく変化します。ホルモンのバランスが崩れると無駄に炎症を起こしたり、過剰な免疫反応でリューマチなどの自己免疫疾患を起こしたりすることもあります。ちなみに、男性ホルモン(テストステロン)は免疫を抑える働きをしています。

女性の場合、ライフステージごとに女性ホルモンが大きく変化するため、それぞれ注意すべき歯周病がありますのでご紹介しましょう。


●思春期・月経関連歯周病

女性ホルモンが分泌を開始する思春期に増えます。症状としては、生理前に歯ぐきが腫れたり、歯磨き時に出血したり、口臭や口腔内のネバつきを感じます。

●若年性(侵襲性)歯周病

同じく思春期から35歳までの若いうちに起こる歯周病。歯ぐきと骨が急速に壊れていく重度の歯周病です。ただし発症率は0.05~0.1%と低く、女性に多くみられます。ホルモンバランスの乱れだけでなく、家族による遺伝も大きな要因となっています。

●妊娠関連歯周病

女性にとって、最も歯周病が進行しやすい時期は妊娠期と言われています。妊娠すると女性ホルモンは約20倍にも増え、出産直前まで増え続けるため、ホルモンバランスが大きく乱れます。症状としては、歯ぐきの腫れ、歯磨き時の出血、口臭や口腔内のネバつきなど。つわりなどで歯磨きがおろそかになるという物理的な要因も影響します。


2021年の神戸市の調査では、妊婦の半数以上が歯ぐきに問題を抱えていると分かりました。図を見ると分かるように、年々増加傾向にあります。妊娠性歯周病は、早産や低体重児出産などのリスクも高まりますので、妊娠中こそお口のケアは念入りに行ってください。

●閉経後歯周病

閉経後、女性ホルモンの激減を機に、もともとあった歯周病が悪化するのが閉経後歯周病です。まれに、ただれて焼けるような痛みと出血を起こす「慢性剥離性歯肉炎」もありますが、いずれも閉経による女性ホルモンの枯渇が原因です。


歯磨き時の出血を見逃さない!
気づいたらすぐ歯科医院へ

ぜひとも、今日から気をつけていただきたいのは、歯磨き時の出血を見逃さないということです。出血があり「歯周病かな?」と感じたら、すぐに歯科医院を受診してください。

また、かかりつけの歯科医院も見つけてください。ライフステージによって歯周病のリスクも変わります。生涯を通して、お口の健康を守るかかりつけの歯科医師、歯科衛生士を持つことは非常に重要です。

そして、歯科医院での定期的なプロフェッショナルケアで磨き残しのないキレイな口腔を保ち、歯の磨き方をしっかり教わってください。毎日のお口の健康は自分で守る、つまりセルフケアも重要です。日々のケアの責任を担う皆さんは、自身の主治医でもあります。「自分も主治医!」という意識で、お口の健康を守りましょう。


過去の記事