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日本歯科医師会 Japan Dental Association

年3回(4月、6月、11月)公開予定  
制作:日本歯科医師会 
協力:パナソニック

2020年度 歯と口の健康シンポジウム 感染症とオーラルケア

2020年10月14日、日本歯科医師会主催の「歯と口の健康シンポジウム2020」が開催されました。今年は新型コロナウイルス対策として、オンライン配信での実施になりました。テーマは「感染症とオーラルケア」。新型コロナウイルス対策に関する最新の情報を講演および対談でご紹介いたします。

第2部

対談「新型コロナウイルスと
歯周病との関係性ー
感染・重症化を防ぐために
オーラルケアでできること」

寺嶋 毅(東京歯科大学市川総合病院 呼吸器内科教授)

槻木恵一(神奈川歯科大学副学長)

新型コロナウイルスと
肺炎の違いは?

司会
歯周病と新型コロナウイルスにはどのような関係性があるのでしょうか。
槻木
非常に関連性があると考えています。歯周ポケットに存在している物質が新型コロナウイルスの侵入にきわめて重要なファクターであり、ウイルス侵入のリスクを高めていると考えられますね。
司会
では、新型コロナウイルスと肺炎は、どのような違いがありますか。
寺嶋
CT撮影をおこなうと違いがわかりやすいです。新型コロナウイルスの場合は、曇ガラスのようなうっすらとした影が肺の左右に出るのが特徴。一方、通常の肺炎の場合は、白くべったりとペンキで塗ったような影が出ます。また一般の肺炎は黄色い痰が出ることが多いのですが、新型コロナウイルスの場合、痰は少ないか、あっても無色の場合が多いです。

司会
そもそもどういう状態が歯周病ですか。
槻木
歯周病とは歯周病原細菌による感染症で、炎症性の病変です。正常な歯肉に比べて、赤く腫れて炎症が起きているのが歯周病です。歯周病には2種類あり、歯ぐきが腫れた状態は「歯肉炎」、歯を支える骨が崩壊しているのが「歯周炎」です。実は成人の約7割が歯周病と言われています。一見、健康そうにみえても“隠れ”歯周病ということもあります。ぜひご自身が歯周病でないかチェックしてほしいですね。


槻木
これらのチェック項目の中でも、もっとも自分で気づきやすいのは「血が出る」というポイントです。歯ぐきから血が出るのは歯肉に炎症のあるサインなので、そのままにせず一度、歯科医院を受診してください。また歯周病は、加齢と共にリスクが高まります。とくに35歳以上は一気に増加する傾向があります。
寺嶋
実は加齢は、新型コロナウイルスの重症化のリスクファクターの1つでもあります。加齢は止めることができません。だからこそ口腔ケアなど日々できることを、面倒くさがらず継続することの大切さをあらためて認識させられますね。

マスク、手洗い、うがい、
そして口腔ケアを基本に

司会
インフルエンザについて、新型コロナウイルスが流行した今年だからこそ気をつけるべきポイントを教えてください。
寺嶋
私の調査ですが、感染経路としては家庭内・飲食・職場・車内などいろんな場所がありますが、密になりやすくマスクを外して近距離で会話するなど飛沫を受けやすい状況が多いですね。やはりマスク、手洗い、ソーシャルディスタンスという基本的な感染対策は大切です。これはインフルエンザの予防でも同様です。新型コロナウイルスとインフルエンザは発熱など症状も似ていて、同時に感染することもありえます。だからインフルエンザの予防接種も大切です。
槻木
インフルエンザが流行る時期において、マスク、手洗いなどの基本対策が重要だとあらためてわかりました。ぜひ、ここに口腔ケアも追加してほしいですね。 先程の講演でご紹介したように私たちの研究では、舌苔にプロテアーゼが多く、これが新型コロナウイルスに影響を与えている。だから舌苔をとった方がいいと考えていますが、寺嶋先生はどうお考えですか。
寺嶋
確かに舌のケアも大切ですね。一方で舌のケアだけでなく、鼻などから侵入することもあるので、全身的な対策が必要です。舌については今後の検証結果が楽しみですね。

喫煙と唾液と
新型コロナウイルスの関係は?

寺嶋
歯周病のリスクになるという喫煙は、新型コロナウイルスにも少し関連があるという話もあります。唾液はどのように口腔内の防御にかかわっているのでしょうか。
槻木
ニコチンには毛細血管を縮める作用があります。喫煙すると、どうしても口腔内の血液循環が悪くなります。これが免疫力を落とすことにつながるんです。血中にもニコチンは入りこむので、唾液腺の血流が悪くなり、唾液量が減少するとも言われています。喫煙は口の健康には大きな影響を与えますが、新型コロナウイルスには影響するのでしょうか。
寺嶋
喫煙によって「かかりやすい」「重症化しやすい」という2つの影響があります。「かかりやすい」という点では、口腔内の防御機能の低下やウイルス感染を起こす受容体を増やすという論文もあります。「重症化」でいうと、喫煙による肺のダメージや慢性の炎症を引き起こしているという点も関与しているかもしれません。
司会
新型コロナウイルスへの感染・重症化を防ぐポイントは、物理的な対策であるマスク、手洗い、うがいを徹底すること。そして歯磨き、舌磨き、唾液ケアというオーラルケアが重要だということですね。日々のオーラルケアにしっかり取り組んで、冬に向けて感染予防をおこなっていきましょう。

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