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1.健康寿命って何?

令和元年(2019年)の日本人の平均寿命は女性が87.45歳、男性が81.41歳と、世界でもトップクラスの水準であることは周知の事実であります。昨今、厚生労働省は国民の健康の増進の総合的な推進を図る基本的な方針(健康日本21(第二次))の中で、健康寿命の延伸を大きな目的の一つに位置付けました。この報告書の中での健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間と定義づけられています。誰もが、健康に長寿を全うしたいと願うものであり、要介護状態になってしまうことを回避したいと思うのは当然だと思われます。

では、現状で日本人における、平均寿命と健康寿命の間にはどれほどのかい離があるのでしょうか?令和3年(2021年)12月10日に開催された「第16回健康日本21(第二次)推進専門委員会」の資料を図1に示しました。

図1

令和3年(2021年)時点の同資料では、平均寿命と健康寿命との間には、男性では約9年、女性では約12年もかい離があると報告されています。これはあくまで平均値ということですが、多くの高齢者は寿命が尽きるまでに、何らかの健康上の問題で日常生活が制限された期間を過ごしているということがわかります。

2.要介護と死亡の原因疾患は違う?

図2には、令和元年(2019年)の人口動態統計の中の、主な死因別にみた死亡率の年次推移を示しました。これによると、死亡する原因のトップは悪性新生物(がん)であり、次いで、心疾患、老衰、脳血管疾患、肺炎…の順となっています。長期の死亡原因をみると約100年前のスペイン風邪混乱時の肺炎死亡も顕著だったことが確認できます。そして図3には令和元年(2019年)の死亡数割合を掲載していますが、平成29年(2017年)に統計上の整理として肺炎のうち誤嚥性肺炎と肺炎を切り離すこととなったことにも留意が必要です。つまりこれに伴い、肺炎の割合が少なくなったようにみえますが、5位の肺炎(6.9%)と6位の誤嚥性肺炎(2.9%)を合計すると9.8%となり、誤嚥性肺炎を含む肺炎での死亡率は第3位であることがわかります。

さらに図4には、令和元年(2019年)国民生活基礎調査の結果における、介護が必要となった主な疾患の構成割合を示しています。これをみると、要介護になる主な原因として認知症が最も多く、次いで脳血管疾患(脳卒中)、高齢による衰弱、骨折・転倒、関節疾患…といった順になっています。死亡する原疾患と要介護になる原因には違いがあることがわかります。

日本では公的な医療保険で全国民がカバーされており、脳血管疾患や心疾患は高い医療技術や救急体制のおかげで死亡に直結する疾患ではなくなってきています。一方で、一命は取り留めても、その後重大な後遺症を抱え、介護を必要とする方が増加しているということも先ほどの、健康寿命と平均寿命のかい離の部分を考えると大きな課題であると思われます。また認知症は、患者数が増加しており、今後のわが国の医療において認知症への対策は喫緊の課題となっています。このような理由からも要介護になる疾患に対する予防や対策は国民にとっても非常に大きな関心ごとであると言えます。

図2

図3

図4

3.歯の健康と健康寿命の関係

愛知県知多半島の65歳以上の住民を4年間追跡した研究において、歯が多く残っている人や、歯が少なくても義歯等を入れている人では、歯が少なく義歯を入れていない人と比較して、年齢、治療中の病気や生活習慣などの影響を取り除いても、その後に認知症発症や転倒する危険性が低いということがわかってきています。図5は、歯の状態や入れ歯の使用状態と認知症になっている人の割合を示しています。これによると歯を失い、入れ歯を使用していない場合、歯が20イキ以上残っている人や歯がほとんどなくても入れ歯によりかみ合わせが回復している人と比較して、認知症の発症リスクが最大1.9倍になるということを示しています。また、図6では、歯が19歯以下で入れ歯を使用していない人は、20歯以上保有している人と比較し、転倒するリスクが2.5倍になることが示されています。

また図7によると、保有する歯が19歯以下の人は、20歯以上の人と比較して1.2倍要介護認定を受けやすいという結果が出ています。つまり要介護状態になる危険性も歯が多い人ほど少ないこともわかってきています。

兵庫県香美町の報告では、80歳全員の調査(平成23年)(2011年)をしており、8020を達成している80歳の方が平成4年(1992年)からの20年間で約3倍になっていたそうです。このような80歳の方々において、自家用車に乗っている割合や携帯電話を保有している割合は8020達成者の方が高いという結果も出されています。つまり元気な高齢者でいるには、できるだけ自分の歯を保有することが秘訣となりそうです。しかし万が一、歯を失ってもしっかり入れ歯を使えば、あらゆる機能は維持されるので、かかりつけ歯科診療所で相談しながら定期的なチェックが重要ということになります。

以上のように、歯の多い人ほどまたはすでに自分の歯を喪失しても入れ歯等で、口腔機能を回復できている高齢者は認知症になりにくく、転倒も少ないということが疫学研究からわかってきています。歯が多く残っていることや、すでに喪失していても入れ歯等で口腔機能を維持することは要介護になりやすい疾患を予防し、健康寿命を延伸する可能性があると思われます。また最期まで自分の口から美味しいものを食べられるように、ぜひかかりつけの歯科医師にご相談ください。

図5

図6

図7

4.日本人の歯の本数

8020運動は、平成元年(1989年)より厚生省(当時)と日本歯科医師会が推進している「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という運動です。20本以上の歯があれば、食生活にほぼ満足することができると言われています。そのため、「生涯、自分の歯で食べる楽しみを味わえるように」との願いを込めてこの運動が始まりました。(日歯HPより引用)この運動の成果は、厚労省が5〜6年に一度実施している歯科疾患実態調査で確認できます(図8)。この報告によりますと、すべての年齢層において年々保有する平均歯数は増加してきています。現在、平均値で20本以上保有する年齢層は69歳までとなっています。70歳以降では自分の歯が20本を下回っている方が多いことがわかります。先に述べた平均寿命は、女性では87.45歳、男性が81.41歳である日本において、歯の本数は長寿に追いついていない現状となっています。一度歯を失うと補綴物と言って入れ歯などの人工物で補い、機能が落ちないようにかかりつけ歯科診療所で定期的にチェックを受けることが必要となります。また、自分の歯をできるだけ多く残すためにかかりつけ歯科診療所で定期的な管理を受けることは非常に重要と言えます。

図8

日本歯科総合研究機構 恒石美登里

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