「朝昼晩」はむし歯予防やお口の中のトラブルに関する情報をイラストや写真で分かりやすく紹介するWEBマガジンです

日本歯科医師会 Japan Dental Association

年3回(4月、6月、11月)公開予定  
制作:日本歯科医師会 
協力:パナソニック

2023年度 歯と口の健康シンポジウム 感染症とオーラルケア

日本歯科医師会は2023年10月24日(火)、「歯と口の健康シンポジウム2023」をオンライン配信で開催しました。本記事では、「腸に到達する歯周病菌を防ぐ!歯周病のリスクとオーラルケア」をテーマに、大阪大学大学院歯学研究科 予防歯科学講座 教授の天野敦雄氏と内科医の桐村里紗氏、そしてタレントの上田まりえ氏を司会に迎えてのトークセッションの様子をご紹介します。

第1部

2023年度歯と口の健康シンポジウム腸に到達する歯周病菌を防ぐ!
歯周病のリスクとオーラルケア

天野敦雄(大阪大学大学院歯学研究科 予防歯科学講座 教授)

桐村里紗(内科医・認定産業医)

上田まりえ(MC・タレント)

左から上田氏、天野先生、桐村先生

思った以上にみがけていない。
歯周病のケアの実態

上田
まずはテーマである「歯周病のケアの実態」について教えてください。
天野
これは歯みがきに自信のある患者さんのみがき残しを調べた写真です。自信があっても、これほどみがき残しがあります。特に歯と歯の間、歯と歯ぐきの境目が多いですね。みがけていない部分はたいてい同じ箇所。ここに毎日歯みがきで取り切れなかったプラーク(歯垢)が溜まり、次第に硬くなって歯石になり、歯ぐきに炎症を起こします。そして歯周病を発症するのです。

36歳女性 受診前に5分間丁寧に歯みがき


天野
症状としては、歯周ポケットにプラーク(歯垢)が入り、それが固くなると歯石になり、さらにそれが溜まると歯ぐきに炎症が起こります。歯ぐきは赤く腫れて、骨がやせて歯がぐらついて歯周病になってしまいます。さて、日本人の成人の何割ぐらいが歯周病にかかっていると思いますか。
上田
半分くらいでしょうか。
天野
実は、成人の約7割が歯周病だと言われています。日本歯科医師会が15歳から79歳の男女1万人に行った調査では、9割以上の方が「健康を維持するうえで、歯や口の健康に注意している」、さらに約8割の方が「ケアに気をつけている」と回答しました。歯や口の健康への意識が高いのですが、歯周病罹患者のグラフを見ると、2005年から2016年にかけて、実は歯周病の方は増えている傾向にあります。15~24歳の若い世代は少ないですが、65~75歳ではなんと約6割が歯周病。健康には気をつけていると回答しながらも実情はこの通りです。

歯周病は増えている


上田
みがいている意識はあるのに、ですね。
天野
皆さんが思っているより、歯みがきは難しいんです。歯の汚れがたまりやすいのは、歯の表面、歯と歯の間、歯と歯ぐきの間の3カ所。歯ブラシだけでなくデンタルフロスや歯間ブラシなど補助的な道具を使っても、汚れの約2割は残ります。取れない汚れは、歯科医院でのプロフェッショナルケアで取るしかありません。では皆さんが歯周病になっていないか、セルフチェックをやってみましょう。

天野
チェックがなければ歯周病の可能性は少なく、1年に1回定期的に歯科医院に受診するだけで大丈夫です。しかし1~2個当てはまれば、歯周病の可能性があります。
上田
たった1~2つでも可能性があるのですね。
天野
そうなんです。3個以上は歯周病のリスクはさらに高まるので、早めに歯科医院を受診することをおすすめします。

タンパク質と鉄分で、
歯周病菌は活性化する

上田
歯周病はどのように発症するのですか。
天野
歯周病菌は血液の中にあるタンパク質と鉄分が好きです。歯をみがいて血が出る方は、歯周病菌が活発になっている可能性があります。歯みがき時の出血は、歯周ポケット内に潰瘍面ができて血が出ているということです。しっかり歯みがきをすると、歯周ポケット内に溜まった血液を取り除けますが、歯みがきが不十分だと出血によりタンパク質と鉄分が歯周ポケット内に残り、歯周病菌を元気にしてしまうんですね。
上田
歯周病が与える全身への影響についても教えていただけますか。
天野
20世紀までは歯周病は、歯を失う病気、骨がやせる病気と考えられていましたが、21世紀に入り歯周病は「万病の元」であることが判明しました。例えば肥満や糖尿病、高血圧などのメタボリックシンドロームを悪化させる可能性や、がんや認知症にも影響があるとわかっています。特に糖尿病治療のガイドラインには、治療にあたって歯周病がないか歯科医院で診てもらうようにと推奨されています。
上田
こんなに多くの疾患に影響があるとは知りませんでした。
天野
全身疾患に影響する要因は3つあります。1つ目は歯周病菌が血液にのって全身にかけ巡る菌血症。2つ目は、歯ぐきで起こる慢性炎症が全身に悪さをする慢性炎症。そして3つ目は、歯周病菌が腸内にたどり着いて腸内細菌を乱してしまうということで、ここが本日のテーマであり、桐村先生のご専門です。
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