「朝昼晩」はむし歯予防やお口の中のトラブルに関する情報をイラストや写真で分かりやすく紹介するWEBマガジンです

日本歯科医師会 Japan Dental Association

年3回(4月、6月、11月)公開予定  
制作:日本歯科医師会 
協力:パナソニック

2023年度 歯と口の健康シンポジウム

日本歯科医師会は2023年10月24日(火)、「歯と口の健康シンポジウム2023」をオンライン配信で開催しました。本記事では、「腸に到達する歯周病菌を防ぐ!歯周病のリスクとオーラルケア」をテーマに、大阪大学大学院歯学研究科 予防歯科学講座 教授の天野敦雄氏と内科医の桐村里紗氏、そしてタレントの上田まりえ氏を司会に迎えてのトークセッションの様子をご紹介します。

後編

胃を通り越して腸まで届いてしまう歯周病菌も

桐村
最近は腸活が流行っています。腸内環境を良くするために食生活を見直す方は多いのですが、忘れられているのが“口”の存在。食べ物が腸に届く前に、必ず口で咀嚼してから胃や腸へと入ります。歯周病菌があると腸まで届き、腸内細菌を乱してしまいます。だから大切なのはオーラルケアなんです。
上田
食生活に一生懸命気をつけていても、口から菌が入ってしまうと意味がないというか。
桐村
そうですね。人は1日に1〜1.5リットルの唾液を飲み込んでいます。「吸血菌」とも呼ばれる最強の歯周病菌があるのですが、重度の歯周病を放置すると、吸血菌を唾液といっしょに1日で10億~100億個も飲み込むことになります。さらにそれ以外の口腔内の細菌も合わせると、人は1日に1兆~10兆の細菌を飲み込んでいます。
上田
それらが腸まで届いてしまうのですか。
桐村
胃酸は、ほとんどの菌を殺菌すると言われていますが、胃酸抑制薬を長期服用されている方やピロリ菌に感染している方、ストレスなどの要因で胃酸分泌が低下します。さらに水を飲むと胃酸は薄まってしまいます。その結果、胃を通過して腸まで届いてしまう菌もあるのです。
上田
腸内細菌が乱れていることがわかる、何かサインなどはあるのでしょうか。
桐村
下痢や便秘などの症状があればわかりやすいのですが、少し歯周病菌が増えても症状がないケースも多く、気づきにくいですね。炎症が起きれば、腹部のハリや違和感として感じることもありますが、必ずしも自覚症状があるとは言えません。ただひどくなると潰瘍性大腸炎など腸の炎症性の疾患やがんの原因にもなってしまいます。硫化水素を発生させるような歯周病菌が腸内で増殖している場合は、おならや便がツーンと臭くなることもあります。

腸内フローラと口腔内フローラに
共通するものは

上田
腸内フローラと口腔内フローラの関係についても教えてください。
桐村
口腔内フローラの乱れに関連して起こる疾患と腸内フローラが乱れて起こる疾患はかなりオーバーラップしています。肥満、糖尿病などの生活習慣病、動脈硬化や関節リウマチ、がんなどの他にも若い女性の流産・早産にも影響があるといわれています。妊娠しづらい方の中には、若くても重症な歯周病があるケースもあります。
上田
なぜ口腔内の細菌が腸に届くと、腸内細菌が乱れるのでしょうか。
桐村
腸には、外敵から私たちの身体を守る免疫細胞が集中しています。歯周病菌が腸に到達すると、外敵が来たと免疫細胞が認識して、体内が戦争のようになってしまうんです。これが全身の臓器の炎症、つまり全身の疾患につながってしまうんですね。歯周病菌の中には、強い口臭を起こす「フソバクテリウム」という菌がありますが、大腸がんの発症、進展、増殖、転移のすべてのステージに関連していることも近年わかってきました。

上田
まさか歯周病菌が大腸がんに影響しているとは思わないですね。
桐村
ある研究では、大腸がんの患者さんに3ヵ月間しっかり口腔ケアをしたところ、歯周病が改善し、便の中の菌量も減少したという報告もあります。
上田
歯みがきの仕方を見直すこととそれに加えて歯科医院を受診すること、この2つはどのような健康状態にあっても重要ですね。

歯周病は遺伝する?
大皿料理は感染しやすい?

上田
ここからはクイズ形式で、歯周病の理解をより深めていきたいと思います。第1問は、「歯周病は遺伝するか、しないか」。天野先生、いかがでしょうか。
天野
遺伝する因子もないことはないのですが、もっと可能性があるのは、歯周病菌が唾液によって親から子にうつること。通常、歯周病菌は子どもの口腔内にはなく、18歳以降に歯周病菌が住みつくと言われています。
上田
桐村先生、いかがでしょうか。
桐村
一般的には、遺伝しないが正解です。しかし歯周病になりやすい“体質”は遺伝する可能性はあります。たとえば、唾液の質や血糖値の上がりやすさなどの歯周病になりやすい要因は遺伝するんですね。親御さんが、なりやすい体質なら気をつけたほうがよいかもしれません。
上田
では第2問です。「肥満の方は歯周病になりやすいか」。
桐村
なりやすいです。歯周病と肥満は相互に関連しています。肥満になると脂肪細胞自体が太り、炎症を起こして歯周病を誘発します。また肥満になると特有の遺伝子レベルの変化が起こり、歯肉を破壊しやすくなります。反対に歯周病で炎症が起きて、肥満になりやすいというルートもあります。
天野
桐村先生のおっしゃる通りです。
上田
では痩せている方はどうでしょうか。
桐村
実は、痩せた女性の糖尿病が増えています。BMIが18.5未満の非常に痩せた女性が日本人には多いです。痩せている方は、インスリンの分泌も効きも悪く、食後に高血糖を起こしやすい傾向があります。血糖値が高くなると歯周病になりやすいので、痩せている方もぜひ気をつけてほしいですね。
上田
そうなんですね。若い世代は自分は歯周病には関係ないと思っている方も多いと思われるので、若くてもそうでなくても意識することからはじめると良いですね。
桐村
そうですね。若い世代でも罹患者は多くなっていますからね。
上田
第3問です。「歯周病は食事の際に、一緒の大皿を皆で囲んで食べるとうつるか」。家族がいる家庭では、よくある光景なので気になります。天野先生、いかがでしょうか。
天野
家族の中に歯周病菌をもっている方がいると、うつる可能性はあります。歯周病菌は唾液を介してうつりますから、大皿料理を直箸で食べると唾液感染の危険性はあります。とはいえ、家族の場合は毎日一緒に過ごしているわけですから、気をつけていてもうつる時はうつります。たとえ歯周病菌がうつったとしても、発症しないようしっかり予防できていれば歯周病にはなりません。まずは、しっかりケアしてほしいですね。
桐村
そうですね。歯周病菌が口の中に入っても、ただちに発症するわけではありません。オーラルケアをしっかりして口腔内フローラが良い状態であれば、少々入ってきても通常は通過していくだけ。歯周病菌が定着して増殖し、バイオフィルムと呼ばれる“菌のかたまり”になって歯周組織を破壊するのが歯周病です。まずは慌てず、定着しないようしっかりオーラルケアをすれば大丈夫です。誰かと一緒の食事は避けられないですから、他者へのエチケットとしてもオーラルケアをしっかりしましょう。
上田
家族の健康を守るという意味でも、一人ひとりのケアが大切ですね。
天野
世の中には予防のできない病気もあります。歯周病やむし歯は自分たちで予防できるのだから、そのメリットを活かさないのはもったいないです。
上田
コロナ禍を経て、最近は会食する機会も増えてきています。ご一緒する皆さんへのエチケットとしても、オーラルケアをしっかりしようと思いました。

歯周病ケアも腸活も。
セルフケアとプロのケアを合わせて

上田
「歯周病を防ぐオーラルケア」という視点では、どんなことが必要でしょうか。
天野
繰り返しますが、歯みがきでプラーク(歯垢)を全部取り切るのは難しいです。歯ブラシだけでなくデンタルフロスや歯間ブラシなど補助器具も使うことで効率的なケアができます。そして忘れていけないのは、プロの手を借りること。皆さんのお口の主治医は、皆さんです。丁寧なセルフケアとプロフェッショナルケアを合わせて継続してください。
上田
私自身は、食後の3回だけでなく、仕事の前など1日に何度か歯みがきをします。それでもみがき残しのチェックで赤く染まった時はショックでした。
天野
歯みがきは回数ではないんですね。いかに自分の口の状態を理解しているか。そういう意味でも、自分の歯にあったみがき方をプロに教えてもらうことも重要です。
上田
桐村先生は、いかがでしょうか。
桐村
父がお酒とタバコが好きで口臭が強かったのですが、歯科医院に通いながらセルフケアを真面目にするようになってから、口臭が気にならなくなりました。今は良いコミュニケーションがとれています。本人も喜んでセルフケアをしていますし、楽しそうに歯科医院に通っているので、セルフケアとプロフェッショナルケアとの組み合わせの大切さをあらためて感じています。
人生100年時代と言われ、健康に気をつけている方は多いでしょう。本日のポイントは、身体の入り口は口ということ。全身疾患の始まりは口であることを十分に留意していただき、“全身疾患の予防”としてオーラルケアを捉えてほしいですね。オーラルケアは、いつからはじめても大丈夫。遅いということはありません。ぜひ今から、取り組んでいただきたいです。オーラルケアも腸活の1つです。
天野
歯周病を止めるのは難しくありません。繰り返しになりますが、セルフケアとプロフェッショナルケアの両方が重要です。
上田
「腸の前に口がある」ということを胸に。私もしっかりケアをしていきたいと思います。天野先生、桐村先生、ありがとうございました。
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