「朝昼晩」はむし歯予防やお口の中のトラブルに関する情報をイラストや写真で分かりやすく紹介するWEBマガジンです

日本歯科医師会 Japan Dental Association

年3回(4月、6月、11月)公開予定  
制作:日本歯科医師会 
協力:パナソニック

2020年度 歯と口の健康シンポジウム 感染症とオーラルケア

11月8日の「いい歯の日」を前に、日本歯科医師会主催の「歯と口の健康シンポジウム2021」が2021年10月13日に行われました。昨年同様、今年も新型コロナウイルス対策のため、オンライン配信で実施し、第1部では、東京都健康長寿医療センター研究所の枝広あや子氏が基調講演を行いました。第2部では、日本歯科医学会連合副理事長で東京医科歯科大学名誉教授の川口陽子氏と放送プロデューサーのデーブ・スペクター氏による対談が行われ、その模様をそれぞれご紹介します。

第2部

対談「健康な歯を保つための
口腔健康管理」

川口陽子(日本歯科医学会連合 副理事長、
東京医科歯科大学 名誉教授)

デーブ・スペクター(放送プロデューサー)

口腔健康管理は、
セルフケアとプロのケアの組み合わせ

司会
まずは口腔健康管理の概念について教えていただけますか。
川口
口腔健康管理では、自分で行うセルフケアと、歯科医院で行うプロフェッショナルケアの2つに適切に取り組むことが大切です。歯に問題がなくても定期的に歯科医院を受診して、自分では気づかない歯周病やむし歯を診てもらったり、自分にあった歯磨きの方法なども教えてもらえます。
司会
デーブ・スペクターさんは、どのようなケアをされていますか。
デーブ
僕自身はフロッシングや歯磨きはしっかりしていますね。食べ物にも気をつけています。定期的な歯科医院でのティースクリーニングは気持ちがいいし、僕もプロのケアを楽しんでいます。予防さえすれば深刻な歯の病気にはならないのだから、ケアをしないのはもったいないと思います。第1部でのお話を聞いて、早めの治療や定期的な健診が、のちのちに生きてくるんだなと実感しました。またアメリカでは幼少期に歯列矯正を行うことが多く、一般的に子どもの頃から歯の健康意識は高いですね。
司会
日本人の口腔に対する意識は、海外と比べるといかがですか。
川口
日本では、まだ定期健診に行く方は少ないですね。行く習慣がなかなか定着しません。私自身驚いたのは、海外の歯科の啓発ポスターは「むし歯になったら歯医者へ」ではなく「ハッピーになるために歯医者へ行こう」というメッセージが多いのです。こうした歯科医院に対する先入観の差は、海外と日本ではまだあるように思います。むし歯や歯周病などになる前に、自分で口の中のチェックをする、定期的に歯科医院に通うという2点を大切にしていきたいですね。
海外で使用されている
歯科の啓発ポスター

1mgの歯垢に潜む
10億個の細菌

司会
成人で歯を喪失する原因としてもっとも多い歯周病について教えてください。
川口
歯周病は、歯の周りの組織である歯ぐきや歯を支える骨に起きる病気です。初期の歯肉炎と進行した歯周炎があります。歯を支える骨が溶けてしまうと、健康な歯でもグラグラしたり抜けたりします。歯周病は感染症ですが、歯磨き習慣や食生活、喫煙などに影響を受ける生活習慣病でもあります。
司会
どのようなメカニズムで発生するのですか。
川口
歯磨きをさぼると歯の表面にネバネバした歯垢ができます。これは食べかすではなく細菌の塊です。歯垢1mgには10億個もの細菌がいるといわれています。その中の歯周病菌が原因となって炎症を起こし歯肉炎になります。初期の歯肉炎は歯磨きで歯垢を除去すると治りますが、歯垢が残ったままでいると、歯周病がどんどん進行してしまいます。
デーブ
細菌が10億個もあるのはびっくりしました。フロッシングや歯磨きさえやっていれば歯周病にはならないんだから、やったほうがよいですね。内臓は見えないけれど、歯は自分の目で見えるし、やろうと思えば予防は簡単ですから。
司会
歯周病で歯を失ってしまうケースが多いのは、なぜでしょうか。
川口
まず本人が歯周病に気づきにくいことが大きいです。初期の場合は自分で歯ぐきを見ても、なかなかわかりづらいもの。だからこそプロフェッショナルケアが大切なのです。また症状はあっても痛みがないので、治療を受けようという積極的な行動につながらないのも理由のひとつです。
司会
健康な歯ぐきと、歯周病の歯ぐきの違いは何ですか。
川口
健康な歯ぐきはピンク色。歯と歯の間の部分がとがった三角形になっていて、引き締まっています。出血もありません。歯周病の歯ぐきは、赤く腫れています。ブヨブヨして歯と歯の境目もまるくなり、歯ブラシがあたると出血しやすいです。この違いを知って、ご自身の歯ぐきをぜひチェックしてほしいですね。

川口
歯ぐきの状態は、年齢によっても変わります。若い人は歯と歯の隙間がありませんが、加齢とともに歯ぐきが下がり隙間ができます。それでも引き締まっていれば健康なので安心を。奥歯や歯の裏側の歯ぐきの状態は自分では見えませんので、歯科医院でチェックしてもらいましょう。

ウィズコロナ時代の歯の磨き方

川口
コロナ禍で唾液の飛沫を心配する方が増えました。歯磨き時には唾液飛沫が飛ばないように口を閉じて磨くことをおすすめします。口を閉じていれば唾液飛沫はほとんど飛び散りません。

デーブ
オフィスなど共同の洗面所などで行う場合はいいですね。ただ口を閉じると歯ブラシの動かし方が小さくなりますが、汚れをとる効果は薄まりませんか。
川口
実は歯ブラシは大きく動かすより、小刻みに動かす方がきれいに汚れを落とせます。口を閉じて磨く時には、毛先が小さめの歯ブラシを選ぶと動かしやすくてよいですよ。
司会
デーブさん、今日はいかがでしたか。
デーブ
今日は知っているようで知らないこともありました。僕自身、歯医者に行くたびに新しい情報を教えてもらいます。最近は歯磨きを手助けしてくれる楽しいツールもたくさん出てきているし、ある意味「予防の黄金期」といえるような気もします。今日のお話をきっかけに、皆さんも歯磨きに興味をもっていただけるといいなと思います。本当は言いたいダジャレがたくさんあるのですが、またの機会に。今日は歯痛礼(しつれい)しました(笑)。

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