「朝昼晩」はむし歯予防やお口の中のトラブルに関する情報をイラストや写真で分かりやすく紹介するWEBマガジンです

日本歯科医師会 Japan Dental Association

年3回(4月、6月、11月)公開予定  
制作:日本歯科医師会 
協力:パナソニック

知っ得!口腔ケア最新メソッド

それは思い込みかも?
どんどん進化する歯磨き法

毎朝毎晩のあなたの歯磨き、それはいつ身につけた方法ですか。子どもの頃、歯科医院で教えてもらって以来、ずっと同じという方もいるかもしれません。いまや歯磨き法も、歯ブラシや歯磨き剤などのケア用品も研究開発は進化しています。東京歯科大学客員准教授で、歯磨き方法を研究し続けている高柳篤史先生に、最新情報を伺いました。

理想の歯ブラシは1本ではない!
自分の磨き方に合わせた道具選びを

 歯科医院で、歯磨き指導を受けた経験はありますか。定期的な歯のクリーニングに通っている方はもちろん、むし歯や歯周病の治療で通院する際にも理想的な歯磨き法を学ぶ機会があります。しかし、その歯磨き法を継続できている人は実は少ないと高柳先生はいいます。

 「複雑な形の歯を1本の歯ブラシできれいに磨くために理想的な磨き方。それは、歯ブラシの毛先の3つの部位、つま先、わき、かかとをうまく使って歯を1本ずつ丁寧に磨くことです。このブラッシングスキルを習得するのは、そう容易ではありません。教えてもらった時はできていても、いつの間にか、いつもの自分の磨き方に戻ってしまうことが多いのです」。

 しかし歯磨きは一生続く習慣。一時的に正しく磨けても、理想的な磨き方を忙しい日々の中で、だれもが続けることができるものではありません。歯磨きの方法とむし歯や歯周病との関係をずっと研究し続けてきた高柳先生は、「今は、道具を自分に合わせる時代」と考えています。

 ドラッグストアの歯ブラシコーナーには、メーカーも種類も多く、多彩な歯ブラシがズラリと並んでいます。たとえば長時間磨きたい、短時間で済ませてしまうなど歯磨き習慣はさまざまですし、さらに高齢者など握力が弱い方もいれば、強く磨きすぎる方もいるでしょう。歯並びが違えば磨き方のポイントも変わります。多種多様な習慣や個人のブラッシングスキルを補えるように開発されているため、どんどん種類も増えてきたそうです。

ヘッドの長さが2センチ、
タクト(毛束)が3列程度の
コンパクトタイプ(スリム)

ヘッドの長さが2センチ、
タクト(毛束)が3列程度の
コンパクトタイプ(バリエーション)

大型でヘッドの幅が
広いタイプ

大きめで毛の長さが
不均一のタイプ

タフト(毛束)間で
毛の太さが異なるタイプ

タフト(毛束)内で
毛の太さが異なるタイプ

スーパーテーパード毛
(極細毛)タイプ

ヘッドの長さが2センチ、
タクト(毛束)が3列程度の
コンパクトタイプ(スリム)

ヘッドの長さが2センチ、
タクト(毛束)が3列程度の
コンパクトタイプ(バリエーション)

大型でヘッドの幅が
広いタイプ

大きめで毛の長さが
不均一のタイプ

タフト(毛束)間で
毛の太さが異なるタイプ

タフト(毛束)内で
毛の太さが異なるタイプ

スーパーテーパード毛
(極細毛)タイプ

その“思い込み”は本当ですか?!
意外に知られていない
効果的な歯磨き法

「歯磨き法に関しては、意外に“思い込み”が多い」と高柳先生。よくある“思い込み”を紹介しながら、実際の効果的な方法についてご紹介していきましょう。

思い込み1

「毛先が細い方が、
すき間に入りやすく汚れを落としやすい」

 歯と歯の間や歯と歯ぐきのすき間にも、細い毛先ならするりと入り込んで汚れを掻き出してくれそうですね。でも実はこれは思い込み。「手磨きの歯ブラシで、歯間などの狭い部分へ毛先が届く“到達性”と歯垢をしっかり落とす“清掃性”を1本の歯ブラシで両立するのは非常に難しい」と高柳先生はいいます。

 毛先が細い極細毛の歯ブラシは隙間に入り込みやすい反面、毛が細く柔らかいので、汚れを掻き出す力が弱いのです。一方、毛先が太い歯ブラシは、歯間などの奥まで到達しにくいかわりに汚れを掻き出す力が強く、清掃効率が高いという特徴があります。

球状毛 ラウンド毛 テーパード毛 スーパーテーパード毛

 もしラウンド毛などの普通の太さの毛先の歯ブラシと同じ清掃性を求めるなら、極細毛の場合、ブラッシング時間をもっと長くしなければいけません。長時間をかけて磨かなければ、磨き残しが増えてしまいます。

思い込み2

「歯ブラシのヘッドが奥まで届いているから、
奥歯もきちんと磨けている」

 奥歯を磨くとき、歯ブラシの先が口腔内の奥に当たるところまで入ると、ちゃんと磨けているような気がします。ところが、意外と磨けていない人が多いそう。

 「口腔内の奥歯周辺は空間が狭いので、歯ブラシが奥まで入りにくく、毛先が奥歯の後ろ側まで届いていないことがあります。その場合は、ヘッド部分の両肩が丸くなったものや尖ったものを使ってみることで、より奥まで歯ブラシが入りやすくなることがあります。また口を少し閉じて、下顎を歯を磨いている側にずらすと奥まで歯ブラシが届きやすくなります」。

方形 円形 尖形

思い込み3

「清掃剤(研磨剤)入りの歯磨き剤は、
歯を削ってしまうからよくない」

 もっとも多い思い込みは、清掃剤(研磨剤)でしょう。しかし調査によると歯が削れる要因は、歯磨き時の力の強さ(歯面にかかる圧力)、続いて歯ブラシの毛の硬さなど物理的な影響が大きいことがわかっているそうです。

 「現在、国際規格(ISO)で歯磨き剤の歯に対する磨耗性が定められており、国内で市販されている歯磨き剤は、通常のブラッシング力による歯磨きでの歯の磨耗に対する安全性が保たれています。」と高柳先生。清掃剤(研磨剤)を気にしすぎるよりも、ゴシゴシと強くこすりすぎないことが大切です。

思い込み4

「歯磨き剤は、
毛先にちょっとつけるだけがいい」

 「歯磨き剤は少なめに」と推奨された時期がありました。歯磨き剤の量が多いと口腔内で泡立ちすぎて磨きにくかったり、泡の爽快感で磨けたと勘違いしてしまったりなど、少ない方がきちんと磨けるからという理由でした。

 しかし、歯磨き剤に配合されているフッ素によるむし歯予防効果を得るためには、歯磨き剤の使用量が重要であることが明らかになっています。そして2017年、厚生労働省がフッ素の配合濃度として従来の上限1000ppmを1500ppmに引き上げたことで、さらに高いむし歯予防効果が期待できるようになりました。では、もっとも進化を遂げた歯磨き剤について、次の章で詳しく解説していきましょう。

その磨き方で予防したいのは、
歯周病?むし歯?それとも両方?

 歯周病予防とむし歯予防で、磨き方は異なります。「それぞれの目的に合った磨き方を知っておくことが大事」と高柳先生はいいます。

 歯周病予防の場合は、歯と歯ぐきの間の汚れ・歯垢をしっかり除去すること、いわゆるプラークコントールが大切です。むし歯の場合に注意すべき部分は、3箇所あります。奥歯の溝など咀嚼(そしゃく)するときに歯が接する面、歯と歯の間、歯と歯ぐきの境目の奥、つまり歯根面と呼ばれる歯の根の部分です。特に歯根面は歯周病が進むと、エナメル質で覆われていない部分が露出して、むし歯になりやすくなります。これらの部位のむし歯予防に効果がある薬効成分がフッ素なのです。

 フッ素には3つの働きがあります。1つは、むし歯の原因となる菌が作る酸に歯を溶けにくくすること。2つめは、初期むし歯の治癒を助け、歯から溶け出したカルシウムやリンが歯に戻るよう再石灰化を促すこと。そして歯垢の中に潜んでいる細菌から酸が生み出されるのを抑制することです。

 これらの効果を口腔内で効率よく発揮させるには、より多くのフッ素を歯の表面に留めることが重要。ではいかに歯の表面にフッ素を留めさせるか。それには、これまでの歯磨き法とは異なるコツがありました。

フッ素入り歯磨き剤の効果的な磨き方

 では、歯周病もむし歯も両方を予防したい場合は、どのような歯磨き法がベストなのでしょうか。「まずは歯周病予防のために、歯間や歯と歯ぐきの間の汚れを取り除く目的で磨きます。歯磨き剤の量が多いと長い間磨きにくい場合は歯磨き剤は少なめでよいでしょう。そして最後にフッ素入り歯磨き剤を1g以上つけて約2分。むし歯になりやすい場所にフッ素を届かせるように磨くのがベストですね」。

 朝昼晩の1日3回磨くとすると、1年間でなんと約1000回も歯を磨いています。高柳先生はこういいます。「だからこそ楽しんで続けられる方法を見つけてほしい。まずはお気に入りの道具を見つけることからはじめるのもいいでしょう。磨いてみて、いつもと違うところまでブラシが当たっているな、などの感覚はとても大事。磨き心地など感覚を楽しみながら、歯の健康を守ってください」。

高柳歯科医院副院長

高柳篤史 先生

ATUSHI TAKAYANAGI
歯科医師、博士(歯学)衛生学専攻
東京歯科大学衛生学講座 客員准教授
公益財団法人 8020推進財団 広報委員
日本大学松戸歯学部障害者歯科学講座 兼任講師
日本口腔衛生学会 代議員
花王(株)パーソナルヘルス研究所嘱託歯科医
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