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日本歯科医師会 Japan Dental Association

年3回(4月、6月、11月)公開予定  
制作:日本歯科医師会 
協力:パナソニック

知っ得!口腔ケア最新メソッド

最近目にする「フッ化物(フッ素)」って?
効果的に活用して、むし歯になりにくい強い歯に

歯科医院やドラッグストアなどの店頭で「高濃度フッ素」と書かれた歯磨き剤が増えています。これは従来より、高いむし歯予防効果が期待できる高濃度の使用が厚生労働省から認可されたためです。「フッ素」は、正確には「フッ化物」と呼ばれ、むし歯になりにくい強い歯をつくったり、むし歯菌の活動を抑制する効果があります。今回はこの「フッ化物」がテーマ。「フッ化物」をよく知り、効果的に活用することで、お口の健康を手に入れましょう。小児歯科が専門で、子どもたちの歯を守るために、さまざまな講演や書籍の執筆などを積極的に活動されている、国立モンゴル医学・科学大学客員教授の岡崎好秀先生にお話を伺いました。

乳歯や生えたての永久歯は
軟らかいためむし歯になりやすい

フッ化物を効果的に活用するには、まずは基本的なむし歯のしくみを理解することが重要だと岡崎先生はいいます。

「むし歯を予防するには、口腔内の歯を“守る因子”と“攻撃する因子”のバランスが重要です。歯を守る因子をたとえると城を守る城壁で、軟らかい乳歯や生えたての永久歯は城壁が低く、硬い歯は高いと考えればわかりやすいでしょう。一方、攻撃する因子とはミュータンス菌に代表されるむし歯菌や甘い砂糖の摂取量のことです。

フッ化物など予防効果の高いものを取り入れて、城壁を高くすれば攻撃は抑えられますが、いくら城壁を高くしても、攻撃力つまり菌のパワーが上回れば、むし歯のリスクは高まります。だから常に、このバランスをとる、ということを心がけてほしいのです」

むし歯になりにくい口腔内 歯を守る因子>歯を攻撃する因子

さらに、乳歯と永久歯の違いについても理解しましょう。

一般的には生後7~8カ月頃から生えはじめる乳歯や、生えたての永久歯は非常に軟らかくて、むし歯になりやすいのです。その軟らかさは、岡崎先生いわく「電動の鉛筆削りに鉛筆を差し込むと、一気に削れていくぐらい」のイメージに近いそうです。それだけむし歯になると進行も速いのですね。一方、歯は時間が経つにつれ硬く強くなります。

「歯は、2段階で硬くなります。まず第1段階は、顎の骨の中に埋まっている段階で、血液中のカルシウムが歯につき硬くなります。さらに歯が生えると、口の中で唾液中のカルシウムがつき、硬くなります。歯は生えて時間が経つほど、カルシウムに触れ、硬く強くなります。乳歯や生えたばかりの永久歯は第1段階しか経ていません。だから軟らかいんですね」

ここでフッ化物の登場です。もうひとつわかりやすいたとえ話を紹介。

「歯をコンクリートに見立てると、乳歯や生えたばかりの永久歯は流したての軟らかいコンクリートで、永久歯は時間が経ってしっかり固まったコンクリートだと考えるとわかりやすい」と岡崎先生。

生えたての歯はコンクリートと同じ

「流したてのコンクリートは踏むと凹んでしまいますが、時間が経つと硬くてびくともしません。フッ化物はまさにコンクリートの硬化促進剤のようなもの。はやく硬くて強い歯になるのを手伝ってくれるんです」

小児歯科で、多くの乳幼児の口の中を診ている岡崎先生は、「ほとんどのお子さんが、歯が生えてから3年以内にむし歯になってしまう」と実感しています。「むし歯予防という観点では、いかにこの時期を乗り越えるかが重要です。この時期に子どもたちが一生むし歯で困るかどうかが、ある程度決まります」

「でも、乳歯はむし歯になっても生え替わるし、永久歯さえむし歯にならなければ大丈夫では?」と思う方は多いのではないでしょうか。

その点について、「実は乳歯のむし歯が多いと、たいてい永久歯のむし歯も多くなる」と岡崎先生は注意を促します。

「たとえばミカンの入った段ボール箱。1つ腐ると、他のミカンもどんどん腐っていく。これと同じです。すべての乳歯が一度に、永久歯に生え替わるわけではありません。1本ずつ抜けて生え替わっていく段階で、口の中には乳歯と永久歯の両方が存在する期間があります。この間、乳歯のむし歯があれば、同じ口にある永久歯も菌にさらされているのです。もちろん、むし歯のリスクは高まりますね」

リスクを下げるためにも、歯が生えたばかりの時期からフッ化物を使い、しっかりとむし歯予防をすることが非常に重要です。では、どのようにフッ化物をとりいれていくとよいのでしょうか。

1歳6カ月頃をきっかけに、
歯科医院でのフッ化物塗布を

もっとも効果的なタイミングとして、岡崎先生がおすすめするのは、上下の前歯が生えた1歳6カ月頃です。

「1歳6カ月頃に、歯科医院などでフッ化物の塗布をスタートし、それ以降は3カ月から半年ごとに塗布するとよいでしょう。私の経験ですが、1歳0カ月では、歯がきれいに光っていたお子さんが、砂糖の入ったお菓子を食べるようになると、むし歯の原因となる歯垢が付き、歯がくすんだ色になっています。このような食べ物をとると、口の中にミュータンス菌が住みだすのですね」

とはいえ、この時期のお子さんは歯磨きを嫌がることも多いそう。

「歯磨きは部屋の掃除と考えるとわかりやすいですね。掃除ができなければ、部屋を汚さないこと。これが砂糖を控えるということです。3歳以前にむし歯ができ、歯科医院で嫌な経験をすると、大人になっても歯の治療が恐くて放置してしまい、ますますひどくなるケースもあります。だから乳幼児期のむし歯予防は大切です」

将来的な歯科医院とのつき合い方を考えると、やはり乳幼児期の歯科体験は重要です。歯磨きや治療の怖い記憶を防ぐためにも、「早めに“かかりつけ歯科医院”をみつけ、フッ化物塗布などで、むし歯リスクを減らしてあげてほしい」と岡崎先生は話します。

また歯に歯垢が付いている状態で、フッ化物を塗布しても効果は期待できないので、歯垢をしっかり除去したきれいな状態で受けることが大切です。

大人の知覚過敏にも
フッ化物は効果的

歯科医院でのフッ化物塗布や洗口液以外に、家庭でもフッ化物の恩恵は受けられます。

たとえばデンタルケア用品として、フッ化物入りの歯磨き剤や歯磨きジェルがあります。冒頭でご紹介した「高濃度フッ素入り」など「フッ素」と表示されているものもありますが、これもフッ化物のことです。

フッ化物中毒の心配をされる方もいるかもしれませんが、歯科用の歯磨き剤であれば、適性量を守っていれば心配する必要はありません。ただし、子どもと大人では適性量が異なります。高濃度パッケージの商品には“6歳未満の使用は控える”、“子どもの手の届かないところに保管”などと書かれています。フッ化物入り歯磨き剤を使用する際は、子ども用の歯磨き剤を選びましょう。

「ただし、フッ化物への過信は禁物」と岡崎先生。「どんなにフッ化物入りの歯磨き剤などを使って歯の防御因子を高くしても、それ以上にミュータンス菌の大好きな砂糖入りのお菓子をとっていれば、むし歯のリスクは高まります。フッ化物がずっと歯の表面に付着して防いでくれるわけではありません。時間が経つと唾液で流れてしまいますから、やはり普段から歯垢が付かないように、しっかり磨くことが大切です。つまり歯を守る因子と攻撃する因子のバランスを保つことを心がけてほしいのです」

もちろん、フッ化物が効果を発揮するのは、子どもだけではありません。大人にとっても嬉しい効果があります。それが“知覚過敏”や“根面むし歯”です。

大人の場合、年齢とともに歯ぐきが下がり、根面の軟らかい象牙質にむし歯ができたり、磨きすぎて知覚過敏になったりするケースがあります。その際、高濃度のフッ化物入り歯磨きや歯科医院でフッ化物を塗布することで、根面のむし歯の予防や進行をおさえたり、知覚過敏の痛みを和らげたりできます。気になる方はかかりつけの歯科医院で相談することをおすすめします。

ただ大人の場合は「むし歯だけでなく歯周病にも気をつけてほしい」と岡崎先生はいいます。「フッ化物はむし歯予防に効果があるけれど、歯周病対策には、やはり歯磨きが重要です」

大人も子どもも、歯を“守る因子”と“攻撃する因子”のバランスをイメージしながら、日々のお口のケアが重要ですね。

国立モンゴル医学・科学大学 客員教授
歯科医師・歯学博士、
日本小児歯科学会専門医・指導医

岡崎好秀 先生

YOSHIHIDE OKAZAKI
1978年 愛知学院大学歯学部卒業
1978~1982年 大阪大学歯学部 小児歯科
1984~2014年 岡山大学歯学部小児歯科 講師
『よい歯をつくろう!虫歯予防コース(のんちゃんたちの口の中探検)』
『泣かずにすませる小児歯科診療』『カムカム大百科―歯科医から見た食育ワンダーランド』
『世界最強の歯科保健指導 上巻』など著書多数。
コラムや講演活動も。
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