年2回(6月、11月)公開予定 発行:日本歯科医師会
協力:サンスター
ご飯を食べる時、口では無意識のうちに噛んで・飲み込むという作業を行っています。
口に入った食べ物を歯でつぶしたままのバラバラの状態では飲み込めません。「噛む」という作業は、「飲み込む」という作業ができるように「食塊(しょっかい)」(食べ物の塊)という飲み込みやすい形に口で整えているのです。
餅つきに例えるならば、餅つきに「つき手」と「返し手」がいるように、杵で餅をつく役の「つき手」は「歯」。
「臼の壁」は「頬」で外にこぼれないようにし、つかれた餅をひっくり返したり形を整える役の「返し手」は「舌」が果たしています。
噛んで口の中でバラバラになったものを、何度も歯の上に乗せて唾液と混ぜこみ、飲み込める「食塊」にしているのです。
つまり、「噛む」という作業には、道具としての「歯」と、口の動きと力強さを発する「運動」が必要なのです。
「歯」と口の「運動機能」の片方でも些細な衰えを放置したり、適切な対応をしないままにすることによって、口の機能が衰えていくことを「オーラルフレイル」と言います。
さらに放置し続けると、口の機能低下、食べる機能の障害は進みます。食事が麺類やパンなどやわらかいものに偏り、栄養不足になるなど心身機能の低下につながり、「口」が原因で全身のフレイルにつながる負の連鎖が生じてしまうことになります。(図1)
人は親知らずを省くと28本の歯を持っています。厚生労働省と日本歯科医師会が平成元年から展開している「8020運動」では、80歳で20本以上の歯を保ち、何でも噛んで食べられることを目指し推進しています。ですので、最低でも20本は必要です。また、20本の歯の残り方も大事。咀嚼能率を落とさないためにも、「噛める奥歯」があることが重要です。
口の動きと力強さを発する口の「運動」は、加齢的な変化で手足の筋力が衰える時期から落ちていくと考えられています(図2)。歩くスピードが遅くなったり、外に出ることが億劫になったりしていると口の運動機能も落ちている可能性があります。また、年齢に関係なく、大病を患ったり、薬の副作用、ストレスや生活環境の変化、歯の治療の放置等によっても、口の運動機能は衰えていきます。加齢的な変化にこのような要因が合わさると加速度的に落ちていくこともあります。
自分は大丈夫と思っても、自粛生活が続き、人との接触とともに、会話やカラオケなどの機会が減り、長いマスク生活による口呼吸等の影響によってオーラルフレイル(お口の衰え)が引き起こされている可能性があります。フレイルには、可逆性があり、適切な対応を行えば健康な状態に戻ることができる状態なので、滑舌低下、食べこぼし、わずかなむせ、かめない食品が増える、口の乾燥等、心当たりがあれば、かかりつけ歯科医に相談しましょう。