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歯科における漢方

科学的な研究も進み、漢方薬を使う歯科医師が増えています

さらに漢方薬は、西洋医学では対処しにくい半健康状態から慢性疾患に至るまで、広い症状に対処できることが多くの歯科医師に認められるようになりました。 このように、広く使われ、科学的な研究も進むようになってきて、漢方薬が今の医療にとって大切な薬であることが西洋医学からも認められてきています。

現在、多くの医師が日常の診療で医療用漢方製剤の漢方薬を使っており、歯学部の大学病院や総合病院の口腔外科でも漢方薬を用いる歯科医師が増え始めました。

漢方薬は、口腔疾患に適した薬です

漢方薬は、数千年にわたる効き目や安全性に関する長い経験に基づいて、特有の理論体系を築き上げ、その理論と患者さんの症状に応じて、いくつもの生薬を組み合わせて使うようになっています。そのため、一つの漢方薬で様々な症状を治し、複合的な効果を期待することができます。現在、口腔内の疾患に対して具体的には、口内炎、口腔乾燥症、味覚障害、口臭、舌痛症、顎関節症、抜歯後処置、歯周疾患、口腔がん、口腔不定愁訴など症状に適した医療用漢方製剤があります。

このように、最近になり歯科医療界では口腔を一つの臓器として捉え、検査や薬物で対応していく口腔内科的治療が重要になってきました。

以下、歯科で用いられている代表的な7種類の漢方薬をご紹介します(表1)

表1:歯科で投薬される代表的な漢方薬
@立効散(りっこうさん):歯痛,抜歯後の疼痛
A半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう):口内炎
B黄連湯(おうれんとう):口内炎
C茵陳蒿湯(いんちんこうとう):口内炎
D五苓散(ごれいさん):口渇(口腔乾燥症)
E白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう):口渇(口腔乾燥症)
F排膿散乃湯(はいのうさんきゅうとう):歯周炎

@立効散は、抜歯後及び顎顔面領域の疼痛に効果があるとされています。いくつかの報告からは普通抜歯で抜歯後疼痛が軽度と予想される場合には鎮痛効果が期待できるが、難しい抜歯では十分な効果は期待できないと思われます。中国では口腔内に含み使用することから、粘膜表面作用を期待していると思われます。この方法を応用して、象牙質知覚過敏症にフッ化ジアミン銀の塗布の立効散の内服を併用して、治療効果が向上した報告もあります。証をあまり考えないで処方できる漢方薬と言えます。

A半夏瀉心湯、B黄連湯、C茵陳蒿湯は、アフタ性口内炎、特に再発性に適応があると考えられ、舌炎、口唇ヘルペスにも効果を示す可能性があります。それぞれの使用目標は、半夏瀉心湯は、いつも胃がもたれたり、悪心があり、お腹がぐるぐる鳴って下痢しやすい人で口内炎などのある場合に用いられます。最近ではがんへの化学療法による口内炎に対する有効性の報告があります。舌は厚い白黄苔を見ることが多い傾向があります。黄連湯は、半夏瀉心湯の中の黄を桂皮に変えたような構成の方剤で内容がよく似ています。平均的な体力であるが、冷え性、腹痛を起こしやすく胃腸障害がやや弱い場合に適用します。舌苔(舌につく汚れ)は膩(じ:べたべたしている状態)で黄白水滑、舌根部でやや厚い傾向があります茵陳蒿湯は、便秘傾向があってイライラがあり、比較的しっかりした胃腸障害の持ち主で、口が粘ったり苦味を覚えたりするようならばさらによい、逆に冷え性には用いない方が良いです。舌が紅、乾燥、黄膩苔(きいろくベタベタ、舌苔が沢山ついている状態)が多い傾向があります。

D五苓散やE白虎加人参湯は、口腔乾燥症に代表的な漢方薬です。五苓散は尿量の減少、めまい、体が重いなどの訴えを使用目標とし、利水作用があることが知られています。利水は体内の水分の代謝異常を調整し、正常に戻す働きのことであります。すなわち、水分の停滞からくる口渇、浮腫、嘔吐などの症状に対応する方剤です。舌は多く湿潤で白膩苔であります。一方、白虎加人参湯は、糖尿病、シェーグレン症候群、向精神薬、抗不整脈薬、放射線治療後の口腔乾燥症の有効性が注目されています。使用目標は、体のほてりや、疲れやすい、多汗、脱水症状や軽い寒気、舌は乾燥、白苔か黄苔が多いです。

F排膿散乃湯は、患部が疼痛を伴う化膿性の皮膚及び口腔、咽喉の腫物に対し、方名の通り排膿の目的で用いられています。歯肉が紫色、腫脹、痛みなどがあり、膿汁を出している場合が適応であると考えられます。舌は淡紅、白色から微黄苔が多い傾向があります。歯周炎の急発時に、抗菌薬との併用方法が有効であると報告されています。また、智歯周囲炎、消炎切開後の疼痛、硬結に有効である報告もあります。 

近年、歯科医療に漢方薬物療法が大変注目されています。漢方薬は経験的な医療と言われていますが、現在では漢方薬の複雑多彩な作用気序が解明され、西洋薬と併用される機会も多くなっています。

このように、最近になり歯科医療界では口腔を一つの臓器として捉え、検査や薬物で対応していく口腔内科的治療が重要になってきました。

参考文献

王 宝禮,王 龍三:今日からあなたも口腔漢方医 - チェアサイドの漢方診療ハンドブック - ,医歯薬出版, 2006

王 宝禮,王 龍三:続今日からあなたも口腔漢方医- 口腔疾患別漢方診療ハンドブック-,医歯薬出版, 2012

大阪歯科大学歯科医学教育開発室 教授 王宝禮

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