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身体に良くない歯ぎしり
強い歯ぎしりは、歯の亀裂を生じます。歯の頭の部分に亀裂が生じると、歯がかける原因や亀裂に細菌が入り込みむし歯の原因にもなります(図2)。歯の根に亀裂が生じると歯を抜かなければならなくなります。歯が割れなくても歯の周りの骨が膨らんでくることもあります(図3、4)。また顎の関節にダメージを与えることもありますし、人によっては先ほど説明した咬筋の肥大が起こります。歯ぎしりと呼べないような弱い力であっても上下の歯を持続的に接触させたり、長時間行ったりすると、歯の周りの組織にストレスが加わり、歯周病になりやすくなります。あるいは筋肉が疲労して、あごの付近の疼痛や疲労感、さらには頭痛の7〜8割を占める緊張型頭痛も起こります。
取り外しの入れ歯を入れている方においては、入れ歯の下の粘膜の血流が悪くなり、疼痛などの障害を起こし、また入れ歯の下の骨の吸収も早まります。その結果として入れ歯が合わなくなったり、かみ合わせが悪くなったりします。
入れ歯が落ちてくる場合に、それをかみしめることによって防ごうとして、かみしめる癖が付いてしまう場合もあります。このような場合には、歯科医院に出向いて調整をしてもらってください。
身体に良くない歯ぎしりを防止するにはどうしたらよいのか
夜間就寝時に行う歯ぎしりは、自分では止められないので、歯やその周りの組織を守るためにナイトガードやスプリントと呼ばれる装置(図5)を口腔内に装着します。強く歯ぎしりができないように、上の前歯だけにはめる装置もあります。起きているときに行うかみしめは、自分自身で制御できるので、時間を決めて上下の歯の接触がないかどうかを前述した方法でチェックして、気が付いたらそれを止めるように心がけます。悪い癖をなくすように努力するわけです。また腹式呼吸を行うことでリラックスができて、かみしめもなくなることが当講座の研究で分かっています。
おわりに
「歯ぎしり」を強い力で行ったり、癖となって頻繁に行ったりする場合は、人体に様々な悪影響を及ぼします。その結果の一つとして「かみ合わせの異常」が起こります。自分に「歯ぎしり」の可能性があるようであれば、気軽に歯医者さんで相談してください。
<参考文献>
1. 谷口詩穂、三木昌美、吉田達彦、手塚威宏、宮内泰雄、櫻井 薫:模型観察による咬耗と骨隆起の調査、歯科学報、100、203-209、2000.
2. 櫻井 薫:臨床のヒント歯科補綴@、リラックスさせる、日歯広報、1260、4、2002.
3. 安藤友彦:非就眠時ブラキシズムの特性について、歯科学報、103、156-162、2003.
4. NHK科学・環境番組部:ためしてガッテン9、顎関節症、日本放送出版協会、東京、28-33、2005.
5. 田原靖章、櫻井 薫、安藤友彦:チューイングおよびクレンチングがストレスの指標である唾液中コルチゾール濃度に及ぼす影響、歯科学報、107、709-714、2007.
東京歯科大学 有床義歯補綴学講座 教授 櫻井薫
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