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b.就学前児童からのフッ化物洗口の意義

図3 フッ化物洗口開始年齢による永久歯むし歯歯数
図2 フッ化物洗口開始年齢による永久歯むし歯歯数
境 脩ら:口腔衛生会誌、1988 15)

 図3は、1970年に開始され17年間続けられた、新潟県弥彦村におけるフッ化物洗口の経過を示したものです。はじめ小学校から、次いで保育園から開始されたフッ化物洗口のむし歯の予防効果を学年別および全学年生徒の永久歯の平均むし歯歯数(DMFT指数)で示してあります。全学年平均のむし歯歯数で見ると、この数値は予防対策実施前の1970年の2.27から8年後に1.39、さらに17年後には0.48へと急激な減少を示しています。

 8年後の数値は小学校1年生から洗口をしたときのむし歯予防率であり、そのときの予防率は38.8%でしたが、17年後の数値78.9%は4歳児から洗口をしたときのむし歯予防率を示しています。4歳児からの実施と小学校1年生からの実施を比較するとその実施期間の差は2年間に過ぎないのですが、4歳児からの実施で格段の好成績が得られています。最もむし歯になりやすい第一大臼歯が就学前から萌出し、小学校入学時にはすでにむし歯になることが少なくないのですが、これを予防することが就学前児童からフッ化物洗口が必要である理由なのです。

c.成人に対するフッ化物洗口の効果

 成人に対するフッ化物洗口のむし歯予防効果に関する臨地試験報告があります。対象者は、18〜35歳、平均年齢21.5歳の陸上自衛隊員で、フッ化物洗口群(0.05%NaF、週5回法)91人と対照群84人の計175人で、対象者の2年間の協力のもとで行われたものです。表10は、一人平均のむし歯増加量を、調査期間2年間に新しくできた新生むし歯増加歯面数で示したものです。普通の検診では全歯面で38.2%、臼歯部平滑面(奥歯の平らな歯面)で47.5%、X線診断では臼歯隣接面(奥歯の隣の歯と接する歯面)で39.0%の、いずれも統計学的に有意なむし歯予防率が見られました。この結果は、今後の成人に対するむし歯対策にもフッ化物洗口は有用な方法であることを示唆するものでした。

 
表10 成人を対象にしたフッ化物洗口によるむし歯予防効果
(新生むし歯増加歯面数)

 

視診型診査

X線診査

 

New DMFS指数   臼歯平滑面

臼歯隣接面

対照群

3.17 (0.45)     1.98 (0.29)

1.21 (0.17)

洗口群

1.96 (0.32)     1.04 (0.19)

0.64 (0.10)

予防率

38.2%*       47.5%**

39.0%*

 * : p<0.05  ** : p<0.01 

郡司島、口腔衛生学会雑誌、1997
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d.わが国におけるフッ化物洗口法のむし歯予防効果

 わが国におけるフッ化物洗口法の臨床的予防効果を扱った研究は多数あります。基本的にはほとんどがいわゆるスクールベース(学校等で集団で行う洗口)での研究ということになるのですが、洗口終了後、数年を経た20歳における評価や、多数の地域群での比較、自衛隊隊員を対象とした成人での研究などと多彩です。しかし、齲蝕予防効果は30.5%〜79.0%と比較的高く、いずれも統計的に有意でした。なかでも、洗口開始年齢が4歳と低く、洗口期間が長いときに高い齲蝕予防効果効果が得られることは明らかでした。そのほとんどの結果は20歳での評価を含めて50%以上の予防率を示し、洗口終了後、数年を経た20歳における評価においても期待以上の効果が得られたことは、この方法が、洗口を実施している学童にとってのみではなく、将来にわたる実施地域住民の歯科保健の向上に重要な役割を演じていることが示されているといえるでしょう。

 周知のようにわが国は現在に至っても水道水フロリデーションや食塩のフロリデーション(食塩のフッ化物調整)などポピュレーション・ストラテジー(地域住民を単位としたむし歯予防に関する歯科公衆衛生分野)では国際的に大きく遅れをとっています。一方、フッ化物洗口法はとくに小児期の永久歯むし歯予防方法として、その高い安全性と確実な予防効果、簡便で高い経済効果が保証され、わが国でもすでに地域保健の中で40年になんなんとする実績があるのです。とくに保育園、幼稚園、小中学校などの施設での集団応用に向いているという優れた公衆衛生特性をもつものとして、もっと活用されてよいでしょう。

e.市販のフッ化物洗口剤について

 現在、わが国では商品名ミラノールおよびオラブリスというフッ化物洗口剤が市販されています。粉末状の製剤を水に溶解して使用するものです。ミラノールでは、黄色包装(水溶液でのフッ化物濃度250ppm)とピンク色包装(同450ppm)のものがあり、幼小児に使用する時は濃度の低い黄色包装の製剤を毎日寝る前に1回使用するようにします。オラブリスでは、一包が1.5g(フッ化物は165mg)で300mlの水で溶かすと250ppm濃度、167mlに溶かすと450ppmの洗口剤ができるようになっています。

 水溶液となった洗口液は普通薬ですが、粉末状の製剤そのものはフッ化物濃度の関係から劇薬扱いとなっているので保管等については十分な注意が必要です。

 また、厳密にはフッ化物洗口剤の範疇ではないのですが、商品名レノビーゴというセルフケアー・タイプの噴霧型フッ化物製剤が発売され、かなり普及しているといいます。歯みがきをした後で直接歯面に噴霧するもので、フッ化物濃度は100ppmと低く、数回の噴霧で全使用液量は0.1ml、使用フッ化物量は0.01mg程度であり、そのまま全量を飲み込んでもフッ素の過剰摂取についての心配は全くいらないのです。歯磨きが十分できない幼小児やハンデキャップをもった人に使用するのに適したアイデア製品であり、一般家庭で使用するのに向いています。

f.学校等におけるフッ化物洗口の現状

 図4は、わが国の学校等における公衆衛生的なフッ化物洗口の普及状況を、調査開始の1983年から2006年までの推移をNPO法人日本むし歯予防フッ素推進会議(略称、NPO法人日F会議)の調査結果を表したものです。2006年3月末現在、38都道府県、5,131施設、49万1,300人余りに及び、前回の2004年の調査から施設数で30.1%、参加学童数で24.3の増加でした。近年、増加が著しいのは、ようやくにして、わが国においても、フッ化物によるむし歯予防効果の認識の広がりが見え、ことに、厚生労働省が2003年1月14日、厚生労働省医政局長および厚生労働省健康局長連名により全国各都道府県知事にあてて「フッ化物洗口ガイドライン」を通知したことが、ひとつの転機になったようです。この調査を担当した、NPO法人日本むし歯予防フッ素推進会議(NPO法人日F会議)は2010年までの目標を、「学校等における公衆衛生的フッ化物洗口の参加学童数100万人」を掲げています。

図3 集団フッ化物洗口実態調査
NPO法人 日本むし歯予防フッ素推進会議調べ(2006年3月末)

 

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