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はじめに

歯を失った際の治療は、今までですと入れ歯(義歯)、ブリッジでしたが、第3の治療法として現在、インプラントが注目されています。そこで、インプラントがどんな治療なのか、基本的なことについて説明します。

1.インプラントとは何ですか

インプラントとは、人工の材料や部品を体に入れることの総称です。歯科では、歯を失ったあごの骨(顎骨)に体になじみやすい材料(生体材料)で作られた歯根の一部あるいは全部を埋め込み、それを土台にセラミックなどで作った人工歯を取り付けたもので、一般には人工歯根(正式には口腔インプラントあるいは歯科インプラント)、単にインプラントといいます。

基本的には三つのパーツからできています(図1)。顎骨の中に埋め込まれる部分すなわち歯根部(インプラント体)、インプラント体の上に取り付けられる支台部(アバットメント)、歯の部分に相当する人工歯(上部構造)から構成されています。

インプラント体の材質はチタンまたはチタン合金で、大きさは直径が3〜5mm、長さは6〜18mmです。アバットメントの材質はチタン、チタン合金、ジルコニアなど、上部構造の材質はレジン(プラスチック)、セラミック(陶器)、セラミックとレジンを混ぜたハイブリッドセラミック、金合金などがあります。

2.インプラント治療はいつ頃から始まったのですか

インプラント治療の歴史は古く、記録では紀元前まで遡ることができます。現在に通じるインプラントは1900年代初めに登場しましたが、貴金属を材料としたためうまくいきませんでした。それ以降、コバルトクロム合金などを材料としたものが使用されましたが、これらの金属は生体適合性に劣っていたため、やはりうまくいきませんでした。

1950年代にスウェーデンのブローネマルクらがチタンと骨が結合すること(この状態を「オッセオインテグレーション」と言います)を見出し、1965年にチタン製スクリュータイプのインプラントを用いた症例を報告しました。その後、優れた長期の臨床成績が発表され、世界中で承認、使用されるようになると同時に「オッセオインテグレーション」するインプラント(オッセオインテグレーテッドインプラント)はたくさんのメーカーから次々に発売されるようになりました。我が国では1983年に治療が開始されています。

3.インプラント治療のメリットは何ですか

インプラント治療は、手術が必要である、顎骨の骨量や骨質(硬い、軟らかい)の影響を受ける、治療期間が長い、自費診療のため治療費が高額となる、などのデメリットがあります。しかし、残っている歯への負担がなく、自分の歯(天然歯)に近い機能や審美性の回復が可能である、などのメリットがあり、生活レベルの向上に伴い、利便性や快適性さらには審美性を求める風潮が広まる中で、それらの要望に応えられる治療と言えます(図2)

4.インプラントの種類はどのくらいありますか

現在、我が国では20数種類のインプラントが販売されています。インプラントにはインプラント体とアバットメントが一体化したワンピースタイプとインプラント体にアバットメントを連結するツーピースタイプがあります(図3)。また、インプラント体の形状はスクリュー(ネジ状)タイプとシリンダー(円筒形)タイプがあります(図4)。スクリュータイプの方がオッセオインテグレーションを獲得する際に重要となる初期固定(インプラント体を埋入した時に骨により固定されること)を得られやすいことと、かむ力を周囲の骨に分散することができる点から多くのインプラントで採用されています。現在、骨との結合をより速く、確実に得る目的でインプラント体に様々な表面処理が行われています。

5.インプラントと自分の歯(天然歯)の違いは?

インプラント体と周りの骨とは隙間がなく、くっ付いた状態です。一方、天然歯の歯根の周りにはクッションの役割を担う歯根膜という組織があります(図5)。そのため、かむと歯はわずかに沈み込みます。またこの中には、かんだ時にかかる圧力を鋭敏に感知して、かむ力をコントロールするためのセンサー(受容器)もあります。インプラントにはこのようなクッションもセンサーもありません。骨の弾力によるほんの僅かな沈み込みしか生じません。かむ力はあごの骨の周りの骨膜、かむための筋肉、あごの関節などにあるセンサーによってコントロールされますが、歯根膜にあるセンサーに比べ「感度」が劣るため、かみ合わせには十分に注意する必要があります。 また、インプラントの周りの粘膜(歯の場合は歯肉)は天然歯と異なっています。天然歯では、歯肉はエナメル質と付着上皮と呼ばれる部分で、その下の結合組織はセメント質と結合し、細菌などが容易に侵入できないようになっています。インプラントにはそのような構造はなく、細菌は容易にインプラントと粘膜の間に侵入します。そのため、歯ブラシによる清掃が重要となります。

6.インプラントの基本的な手術方法は?

術式には大きく二つに分けられます。手術を1回だけ行う1回法と、手術を2回に分けて行う2回法があります(図6)

(1)1回法

インプラント体を埋める部位の粘膜を切開して骨を露出させ、ドリルで穴を開けワンピースインプラントを埋め込みます。ツーピースインプラントの場合にはインプラント体を埋め込み、同時にアバットメントを連結します。

(2)2回法

1回法と同じようにしてインプラント体を埋め込んだ後、上部の穴にカバーを付けます。切開した粘膜を糸で縫い合わせて1回目の手術は終了です。インプラント体と骨が結合するまで上顎(上あご)では5カ月前後、下顎(下あご)では3カ月前後待ちます(治癒期間)。2回目の手術はカバーの上の粘膜を切開して、カバーを除去後仮のアバットメント(ヒーリングアバットメント)を連結します。粘膜の治癒を2〜3週間待って、本物のアバットメントを連結します。骨の量が十分にあり硬い場合には1回法でも問題はありませんが、骨の量が少なく骨移植が必要だったり骨が軟らかい場合には2回法が行われます。

7.だれでもインプラント治療を受けられますか

(1)年齢制限はありますか

成長発育中の子供には基本的にはインプラント治療はしません。現在のインプラントは骨と結合するため顎骨の発育に伴って骨の中に埋没してしまうからです。一般に女性は18歳、男性は20歳くらいになると骨の成長が止まるのでそれ以降に治療を始めるのがよいと言えます。インプラント治療は歯がなくなる40歳後半から60歳代が中心となりますが、高齢者でも抜歯などの手術を受けられる健康状態であれば可能です。

(2)持病(全身疾患)を抱えている人は治療を受けられますか

手術が伴うため誰でも受けられるというわけにはいきません。心疾患などで症状が重い人や安定していない人は難しくなります。国民病として問題となっている糖尿病患者は、手術後の傷の治りが悪くなり、感染の危険性が増します。また、骨を作る細胞の機能や数が低下して骨結合ができなくなる恐れがあり、治療後にはインプラント周囲炎を起こしやすくなります。血糖値がコントロールされていない人ではコントロールされるまで治療は延期する必要があります。 50歳以降の女性に多い骨粗しょう症は、骨が軟らかいより硬い方が臨床成績がよいため、リスク因子となりますが、インプラント体の埋入方法や骨結合しやすいとされているインプラント体の使用などにより対処できます。しかし、患者が予防薬あるいは治療薬としてビスホスフォネート製剤を使用している場合は、手術後に顎骨の壊死に至ることがあるので注意が必要です。投薬の種類や期間などによっては治療可能ですので、主治医に相談することが重要です。

(3)金属アレルギーがあると治療は受けられませんか

インプラント治療には色々な金属が使われます。インプラント体はチタンが使われます。チタンは金属アレルギーを起こさないと言われた時期もありましたが、まれに人によってはアレルギーを起こすようです。特に他の金属に対してアレルギーのある人はチタンに対しても起こす可能性が高いためパッチテストや血液による検査を受けておいた方が良いと思われます。

(4)喫煙はインプラント治療にとってリスクになりますか

喫煙により粘膜の血液の流れが悪くなって、傷の治りや骨を作る細胞の増殖や分化に影響し骨の治癒が遅れたりします。内外の論文でも喫煙者と非喫煙者では失敗率が喫煙者の方が高いと報告されています。また、喫煙は手術の結果に影響を与えるだけではなく、治療終了後の経過にも影響を及ぼすので、禁煙をメインテナンス期間に入っても続ける必要があります。

8.インプラント治療に必要な検査は何ですか

治療に当たっては種々な検査が行われますが、特に重要と思われることについて挙げておきます。

(1)CT検査

インプラント治療はインプラント体を顎骨に埋め込むため、顎骨の状態を三次元的に正確に把握する必要があります。 CTは多方向からX線を照射してコンピューターで画像解析ができるため三次元的な診断ができます。手術後の神経麻痺などのトラブルを防ぐためにも必要な検査です(図7)

(2)血液検査,心電図検査等の臨床検査

インプラント治療を受ける人は前述したように、40歳後半から60歳代が中心になります。この年代になると種々な病気の罹患率(有病率)が高くなります。病気の有無は通常、初診時に記載する健康調査票を基に確認しますが、それだけでは把握できない隠れた病気を持っている可能性があります。安全・安心に手術を行うには臨床検査は必要です。

(3)歯周病の検査

インプラントは自分の歯の歯茎(歯肉)で起きる歯周病と同じような症状を示す「インプラント周囲炎」にかかりやすいといわれています。いずれも歯周病菌が関与しているため、歯周病の治療をしないでインプラント治療を行うとインプラント周囲炎を起こしやすくなるため、治療前に歯周病の状態を診査する必要があります。

9.インプラントの費用はどの位になりますか

インプラントの治療費は自費が原則になります。初診からCT検査、臨床検査、手術費、上部構造の製作費など治療が全て終了するまでに必要な費用をしっかりと確認してから治療を受けることが大切です。
平成24年4月から症例によっては健康保険が使えるようになりましたが、がんなどで顎骨を切除後に骨移植を行った症例や外胚葉異形成症等の先天性疾患の症例などに限られます。保険診療を行える医療機関は入院のできる病院などの施設基準があり、どこの医療機関でも受けられるものではありません。

10.メインテナンスはどのように行われますか

上部構造を装着したらインプラント治療は終わりではありません。むしろインプラントを長く持たせるためには日常の手入れと観察が大切です。清掃は歯科衛生士の指導の下に専用の歯ブラシなどを使用して行います(図8)。また、かみ合わせやエックス線撮影をしてインプラント体周囲骨の吸収状態などを診査します。装着後1カ月、3カ月、6カ月、1年と1年以内は細かく、1年以降は特に問題がなければ年1回のメインテナンスを行います。

11.インプラントはどれ位持ちますか

インプラントの残存率(ある期間内で残っているインプラントの割合)をみてみますとインプラントの種類によって多少異なります。ブローネマルクシステムで表面処理していないインプラント体を使用した場合の10年間の残存率は、部分欠損の上顎は91%前後、下顎は96%前後、無歯顎の上顎は80%前後、下顎は97%前後になります。上顎の成績が悪いのは、上顎洞や鼻腔があるためインプラント体を埋入できる骨の量が少ない、骨が軟らかいことが多いためです。

12.顎骨に十分な骨がないとインプラント治療はできないのでしょうか



長年の義歯の装着により顎骨が痩せてしまったり、抜歯後放置していたため顎骨が吸収したり、腫瘍などのため顎骨の一部を失った患者さんでは、インプラント体を埋め込むのに必要な骨が不足していることがあります。そのような場合には足りない骨を補う「骨造成」が必要になります。それには、骨移植法、骨再生誘導法(GBR法)、上顎洞底挙上法(サイナスリフト)、などがあります。骨移植法は下あごの後方などから骨を採取し、インプラント体を埋め込む予定部位へ移植する方法です(図 9)。自家骨移植では移植骨を採取するための手術が必要となりますが、それを避けるには人工骨を用いる方法もあります。 GBR法は骨造成が必要な部位に特殊な薄い膜(遮断膜)を置いて周囲粘膜が侵入しない空間を確保して骨の再生を図る方法です(図 10)。サイナスリフトは、上顎の臼歯部において上顎洞という空洞までの骨が不足している場合に行われる方法で(図 11)、上顎洞の底の粘膜(上顎洞粘膜)を持ち上げてできた空洞に自家骨あるいは人工骨を移植する方法です。インプラント体1本分の上顎洞底の粘膜を持ち上げるソケットリフトもあります。骨造成法を用いた場合、移植骨が定着するまで4〜6カ月かかるためインプラント治療が終了するまでには時間がかかりますし、費用も20〜40万円ほど余分にかかります。

13.インプラント治療はどのように行われますか

日本歯科大学附属病院インプラント診療センターの場合、治療の流れは(図12)のようになります。

(1)初診

口の中の状態を診査し、顎骨の全体像を大まかに把握するためにエックス線撮影、歯やかみ合わせなどをみるための模型を作るために口の中の型をとります。

(2)インフォームドコンセント
(説明と同意)

カンファレンス結果を説明し、患者さんの同意が得られたら次のステップに移ります。

(3)検査・診断と術前処置

このステップで重要な検査はCT撮影になります。CTによりインプラント体を埋め込むのに必要な骨の量が不足していると診断された時には骨移植などを前もって行うことになります。また、例えば、歯周病のある人はより詳しい診察、治療する歯やかみ合わせの状態についても診察し、必要に応じて治療を行います。全身状態についても場合によっては検査や主治医に対診します。必要に応じて抜歯、歯周病や残っている歯などの検査・診断を行います。

(4)治療計画の立案

最終的なインプラント治療の計画をたてます。

(5)インフォームドコンセント(説明・同意)

全ての準備ができたら、一次手術を中心にインフォームドコンセントが行われます。この時のインフォームドコンセントが一番重要で、患者さんが疑問に思ったことを隠さず話してもらいます。内容は次のようになります。

  • 麻酔法、術式、術後の管理、術後の経過、合併症など手術に関すること。
  • 上部構造の種類、上部構造を装着した時の審美性、発音など上部構造に関すること。
  • 治療の総額、メインテナンス料、トラブルが発生した時の料金、など治療費に関すること。

説明が終わり納得したら、同意書に記入してもらいます。

(6)一次手術、次に二次手術を行います。

二次手術前にもインフォームドコンセントを行い、同意書に記入してもらいます。

(7)上部構造の製作・装着をします。

(8)上部構造を装着したら、メインテナンスの開始です。

14.インプラント手術と上部構造の製作・装着はどのように行われますか

基本的な術式である2回法を実際例で説明します。

(1)インプラント体埋入手術(一次手術,図13)

ステップ 1:麻酔をかける
一次手術では、埋め込むインプラント体の本数にもよりますが、2・3本の場合ですと手術時間が40〜50分程度かかります。その間、口を大きく開けてなければならないこととインプラントン体を埋める穴(埋入窩)をドリルでつくる際に音や振動が生じるため局所麻酔の他に腕の血管に点滴で薬を投与して、寝たような状態で行う静脈内鎮静法が一緒に用いられます。インプラント体を1本しか埋入しない時には笑気ガスを用いる吸入鎮静法で行うこともあります。

ステップ 2:粘膜骨膜を切開する
粘膜骨膜を切開して、インプラント体埋入部位の顎骨を露出させます。
ステップ 3:ドリルで骨に穴を開ける
インプラント体を埋める位置にドリルで必要な深さまで穴を開け、インプラント体の直径に調整します。
ステップ 4:インプラント体を埋める
専用の器具を使ってインプラント体を穴に埋め、インプラント体の上部の穴にカバーを付けます。
ステップ 5:切開したところを縫合する

(2)一次手術後の経過

インプラント体を2・3本埋入した場合には、抗菌剤と胃薬が5日分、痛み止めが5回分、うがい薬が1週間分、処方されます。腫れは手術後2日目から3日目がピークで、その後は徐々に収まってきます。痛みは通常抜歯後より軽く、1日半位です。粘膜や顎骨に炎症がない健康なところに手術をするため、化膿することはほとんどありません。糸は7〜10日で抜糸します。女性の場合、術後2・3日して手術部相当の皮膚に暗紫色の内出血班が生じることがありますが、1〜2週間で消えます。

(3)治癒期間

インプラント体が骨とオッセオインテグレーションするまでの期間(治癒期間)は骨の状態(硬さの程度)やインプラント体を埋入した時の初期固定の状態によって異なりますが、一般的には上顎で5カ月前後、下顎で3カ月前後になります。

(4)アバットメント連結手術(二次手術,図14)

ステップ 1:

二次手術は一次手術と異なり手術侵襲が小さいため、笑気吸入鎮静法を用いるか局所麻酔だけで行います。

ステップ 2:

粘膜骨膜を切開し、カバースクリュー上の粘膜を円筒状に切除します。

ステップ 3:

カバースクリューを除去します。

ステップ 4:

インプラント体上部の周囲骨を調整する。

ステップ 5:

仮のアバットメント(ヒーリングアバットメント)を連結後、切開したところを縫合します。

二次手術後は一次手術に比べ侵襲は少ないため、腫れや痛みも軽く、抗菌剤と胃薬は2日分、痛み止めは3回程度、うがい薬は1週間分、処方されます。

(5)最終のアバットメントに交換する

アバットメント周囲の粘膜の傷が治ったら(通常は3週間前後)、最終のアバットメントに交換します。

(6)上部構造の製作と装着をする

仮の上部構造をつくるための型取りを行います。仮の上部構造を装着してかみ合わせ、歯の形、審美性などを見て、問題があれば修正し、最終の上部構造を製作する際の参考にします。最終上部構造を装着し、かみ合わせを慎重に調整して治療は終了します。

1)上部構造の種類
歯が全くない(無歯顎)場合、上部構造にはブリッジタイプ(ボーンアンガードブリッジ)とインプラントを利用した義歯(オーバーデンチャー)があります(図15)。インプラント体が4本以上埋め込まれた場合にはブリッジ、それ以下の場合にはオーバーデンチャーになります。ただし、費用を抑える場合や高齢者などにおいて手術侵襲をできるだけ小さくする必要がある時には、オーバーデンチャーが選ばれます。部分的に歯がない場合の多くはブリッジタイプですが、最近オーバーデンチャータイプも装着されるようになりました。
2)上部構造の止め方(固定法)
固定法には二通りあります(図16)
  • @ねじで固定する方法
    (スクリュー固定)

    上部構造のかむ面(咬合面)に開けてある穴を通してねじでアバットメントに固定します。上部構造の一部が欠けた時やインプラントの状態に問題が生じた時などに取り外して修理や診査ができますが、上部構造にねじが通る穴が開くために見た目が悪いといった欠点があります。

  • Aセメントで固定する方法
    (セメント固定)

    ブリッジなどを装着する時などに用いるセメントで固定します。ねじを用いないため見た目はよいのですが、基本的には取り外しができないので修理やインプラントの診査などができない欠点があります。

15.新しい治療法があると聞きましたが、どんな方法があるのですか

最近では、手術侵襲を少なく、治療期間を短く、安価にというインプラント治療法が行われるようになってきました。それには次のような方法があります。

(1)フラップレス

インプラント体を埋め込む際には、粘膜を切開して骨を露出しますが、粘膜を切開する代わりに、埋め込む部位に歯肉パンチで穴を開けてインプラント体を埋め込む方法です(図17)。切開をしないため、手術時間が短くて済み、痛み、腫れがほとんどありません。従来の粘膜を切開して骨を露出させる方法では骨の状態を肉眼で確認できますが、それができないためCTなどによって骨の状態を十分に把握した上で行うことが重要になります。

(2)即時荷重と早期荷重

インプラント体埋入と同時(1週間以内)に上部構造を装着する即時荷重と、通常の治癒期間よりも早めに上部構造を装着する早期荷重があります。骨の量が十分にあって硬く、インプラント体の初期固定が十分に得られた時に行われる方法です。

(3)抜歯即時埋入と抜歯早期埋入

抜歯となる歯の歯肉や歯根周囲に感染や炎症がなく、歯根の周りの骨が十分に残っている場合に、抜歯と同時にインプラント体を埋め込む方法です。手術回数が減り、患者の負担が少なく、治療期間が短縮でき、抜歯した部分の骨や粘膜の退縮を避けられると言われています。抜歯後周囲の粘膜が治るのを待って(1〜2カ月位)、インプラント体を埋め込む場合を抜歯早期埋入といいます。

(4)オールオンフォー(All – on – 4)

全ての歯を失った状態(無歯顎)のインプラント治療で、小臼歯間にフラップレスで4本インプラント体を埋め込み(4本のうち2本は傾斜させます)、同時に上部構造を装着する方法です(図18)。手術時間は1時間程度で済み、痛みや腫れも少なく、その日から軽い食事ができ、費用も安く済む方法ですが、CT検査で利用できる骨の量や形態をコンピューターで分析し、インプラント体を最適な位置や角度に埋め込むと同時にCTデーターを基に仮の上部構造を予め製作して装着するため、難易度が高い方法です。

また、即時荷重となるため骨の量が十分にあり、硬くないとできません。

おわりに

インプラント治療は、トラブルの多い治療のような風潮がありますが、慎重に行えばブリッジなどの通常の治療よりも機能改善は優れており、残存率が高い治療であることは確かと言えます。担当医と十分に相談して、納得した上で治療を受けるようにして下さい。 

文献:
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7)高森 等:3 インプラント体埋入手術とその関連手術 1)インプラント体埋入手術.赤川安正,松浦正朗,矢谷博文,渡邉文彦 編;第2版 よくわかる口腔インプラント学,第2版,医歯薬出版,東京, 2011,138-143頁.

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日本歯科大学附属病院インプラント診療センター 教授 高森 等

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