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歯の世界を歩く
太古の昔、人類が"共食"を選んだ理由

動物の中でも、家族で一緒に食事をする「共食」の習慣があるのは人間だけ。

サルからヒトに進化した時から「共食」は始まり現代に増えている「孤食」や「個食」は歴史的にみても異例なことだそうです。

各分野からの新しい成果に立って、人類の食文化から食育の原点を提唱する国士舘大学教授の原田信男先生に「共食」の起源や意味をお聞きしました。

◆一人では生きられない。人間は集団で生きる動物

最近、急増している食習慣が、一人きりで食事をする「孤食」や、家族が一緒でもそれぞれ別のものを食べる「個食」。健康な身体や歯をつくるため、何にも増して大切なのが毎日の食生活です。特に子どもの孤食、個食は栄養価の問題以外にも、さまざまな影響があるとされています。

食育の普及で「何を食べるか?」に関心を持つ人は増えてきましたが、同じく重視したいのが「誰とどのように食べるか?」。充実した食事の環境づくりは、人間が人間らしく生きるための重要な要素で、これも食育が抱える大きなテーマ。そこで人類の歴史をたどりながら、理想的な食事の場のあり方を考えてみましょう。

「太古の昔より、人間は家族と一緒に食事をする"共食"が基本の動物だった」という興味深い事実を指摘するのが原田信男先生です。創成期から人間の食を探っていくと、そのルーツは哺乳類の誕生にまで遡ります。

卵を大量に産むのではなく、「胎生」という形で少ない子供を胎内で確実に育てる哺乳類。妊娠中、子育て中のメスの行動は制限されるため、食料を得るためにオスが狩りを行う役割分担が生まれました。中でも、サルから進化した人間は二足歩行になり、手や道具、言葉を使うことを習得。以降、人間の脳は飛躍的に発達していくのですが、これには人類の存続を可能にした大きな選択が関わっています。

「つまり、人間は一人では生きていけない、ということです。そもそも人間は身体能力が弱く、自分達より体力的に勝る動物を獲物として捕らえることなど、一人の力では到底無理。でも集団で力を合わせて大きな動物を捕らえ、それを家族に分配するルールをつくり上げた。人間が生き延びられたのは、集団生活のおかげなんですよ」。

◆肉食とその咀嚼力で人間の脳は大きく発達

人間以外の霊長類(サルの仲間)も集団生活をし、他にも子どもに食料を運ぶ哺乳類や鳥類はいます。でもそれはあくまで一時的なことで、明確な家族の概念もありません。捕獲した場所から食料を家族の元に持ち帰り、分配して一緒に食べる習性は、人間だけが持つ特徴だそうです。

注目すべき点は、人間は相手から強制されなくても、当然のように自ら食料を分け与えること。そこで食料を分配すべき最小の単位として、一対の男と女を中心にした「家族」と、食料を得るために男を中心にした狩猟集団ができました。この時代から「家庭」や「職場」という集団があったのは驚きですが、これこそ人類繁栄の鍵。家族の食料を絶やさないため、より効率的に大きな獲物を捕らえたいと、男たちは知恵を絞って戦略的な狩りを編み出していきます。

「力では勝負にならないので、落とし穴や罠を仕掛けたり、人間の狩りは頭脳戦です。言語による組織力、道具を使った技術力により食料を安定的に確保できたことで、人間の脳はめざましく発達したんですね。」

食べることと、脳の発達にはどのような関係があるのでしょうか。栄養価もさることながら、食事の際の咀嚼運動も重要であると言われています。

人間の脳の重さは体重のわずか2%ながら、その消費エネルギーは身体全体の約20%に達します。膨大なエネルギーを使う脳を維持するには持続的にタンパク質を摂る必要があり、栄養価の高い肉食を獲得したことで人類の脳の発達は一気に加速したのです。そして、肉を噛む咀嚼運動はより豊かな刺激を脳に伝え、特に前頭葉を発達させました。

前頭葉とは感情や理性、思考力、判断力などあらゆる精神活動を制御する司令塔。つまり人間らしい脳とは、「噛むこと」によって育まれたと言っても過言ではありません。

高度化した人間の脳は五感を鍛え、男は食料をどう分配するか判断するために味覚が発達。分配した食料を家族と一緒に食べる習慣から、共通の味覚を味わいつつ、感情や情報を伝えあうことを楽しむ食文化が生まれました。共に食べることは集団の結束を強める行為。それが「共食」の起源で、人間らしい食事の出発点です。

◆共に食べることで共に生きることを学ぶ

「同じ釜の飯を食う」という表現が示すように、「同じときに同じものを食べる」ことには、人間同士の心をつなぎ、絆を強める働きがあります。これは長い歴史の中で人類が培ってきた世界共通の認識。日本の結婚式の三々九度や世界中の祭事での会食も、共に食べる充足感を踏まえたものです。

それに加えて子どもにとって、食卓は「学びの場」でした。狩猟で食料を得た時代は、まさに「食べること=生きること」で、食事は生きる喜びと同時に、生きるためのノウハウを親から子へ語り継ぐ場でもあったのです。

分業化が進んだ現代の孤食や個食は、人類の歴史上きわめて異例な現象です。便利さゆえに、「食事=生存」という事実を実感しにくいものの、食の大切さや家族単位で生きる人間の行動原理は昔と同じ。共食から得られる幸せや教えは山ほどあるのです。

一緒に食べる最大の目的は、家族の一体感を深め、確かな信頼関係を築くこと。食卓での話題は子どもにとって、生命や社会のしくみを学ぶ一番身近な窓口になるためです。そして、その蓄積が他者への思いやりや想像力を育て、集団で生きるための心の基礎をつくります。何より「人間は一人では生きられない」ことを、自然に学ぶ場が食卓なのです。

「共食は"人間が集団で生きる動物"だと再確認する行為で、一緒に食べることで社会性や協調性を育んできました。長年人間が共食をしてきたのは、種の本能としてその重要性が刷り込まれているからではないでしょうか」。

家族で食卓を囲むことが難しい時代だからこそ、私たちは「一緒に食べる意味」を根本から見直し、新たに組み立てていく必要があるでしょう。よく噛める健康な歯を育てる食の環境としても、また、おいしく食事を摂るためにも家族で食卓を囲む習慣はなくてはならないものなのです。

【原田 信男 (はらだ のぶお)】

1949年栃木県出身。国士舘大学21世紀アジア学部教授。1974年明治大学文学部卒業。1983年明治大学大学院文学研究科博士課程退学。博士(史学・明治大学)。専攻は日本生活文化史・日本文化論。主な著書に、『江戸の料理史』(中公新書 1989年サントリー学芸賞受賞)、『歴史の中の米と肉』(平凡社選書 1995年小泉八雲賞受賞)、『江戸の食生活』(岩波書店)、『食べるって何?食育の原点』(ちくまプリマー新書)など 。

ドクター岡崎の小児歯科日誌

3歳をすぎるまでは甘いものはガマンガマン!

お母さん方に質問です。砂糖の入った甘いおやつ、初めて食べたのはいつですか?実はこの甘いおやつ。お子さんには、3歳をすぎるまで与えないでほしいんです。なぜなら、三つ子の魂百までと言うように、子どもの記憶に「甘い」という美味しさが強烈に焼きつけられるからです。味覚体験の少ない子供は、その甘さの虜になり「もっともっと」と欲しがるようになります。甘いものを食べる機会が多ければ、比例してむし歯になる機会も増えますから、お母さんのケアは大変。単純に甘いものを食べる機会を減らせば、むし歯になるリスクを減らせますが、一旦「甘さ」の味を知った子どもにとって、ガマンは至難の技でしょう。

もちろん解決策はあります。「甘いおやつ」の存在を知らせないこと。知らなければ欲しがらないし、ガマンする必要もない。その方が、子どもにとっては幸せではないでしょうか。

人は、お母さんのおっぱいから始まり、少しずつ様々な味を覚えていきます。3歳をすぎ、ある程度の食体験を経て味覚が安定していれば、「甘味」に対しても、そこまで強烈な欲求には至りません。そのような食習慣をつけてあげること。それもひとつのむし歯予防であり、健康な歯を守ってあげる有効な方法でもあるのです。


【岡崎 好秀 (おかざき よしひで)】

1952年大阪府出身。1978年愛知学院大学歯学部卒業。同年、大阪大学歯学部小児歯科へ入局。1984年から岡山大学医学部・歯学部付属病院小児歯科学講師。歯にまつわる健康教育の著書、講演など幅広く活動している。

歯の歴史博物館

将軍と江戸っ子でこんなに違う歯みがきスタイル

江戸時代、将軍は毎朝7時頃に起床し、御手水(おちょうず)の間で畳の上に敷物を敷き、自分で顔と歯を洗っていました。その間ずっと、奥女中に後ろから着物の袖をもたせ着物が濡れないようにしていました。また小皿には奥口中医の調合した歯磨き粉と焼塩が用意されており、好きな方を選び房楊枝につけて歯を磨いていました。

一方、庶民の江戸っ子は朝風呂の際に歯を磨くことが多かったようです。江戸っ子は朝風呂を「いのち」と思っていて、歯の白さにもこだわっていました。式亭三馬の『浮世風呂』の中には「さらしの手拭いを肩にかけ、歯ブラシ代わりの楊枝で歯磨き袋を突き刺し、ちょんまげにはさんででかけた」「手拭いを肩にかけ、左の手の平に塩をのせて右の指で歯を磨きながら歩いていると、つばを吐く拍子に肩の手拭いを落とした」等、江戸っ子が歯磨き用具を携えて朝風呂に出かける光景が多く描写されています。

[監修]長谷川正康(歯学博士)

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