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舌痛症の治療

舌痛症は、原因が解明されていないので、原因療法が存在しません。したがって、経験的に症状を軽快させる治療法が用いられます。これを対症療法と呼びます。舌痛症の治療では、特別な処置を行わなくても自然治癒するものも3%程度存在するとされていますが、多くの患者は長期にわたって痛みを訴えます。舌痛症のような慢性の痛みでは、痛みを0にするのではなく、日常生活の中で痛みをうまくコントロールすること、日常生活を障害している痛みを乗り越えて生活の質を上げることを治療の目標とします。

舌痛症の治療にはどのようなものがありますか?

現在までのところ、科学的な検討の結果として有用性が証明されている対症療法には、認知行動療法があります。その他、報告されているものには、クロナゼパム(抗けいれん薬)の局所および内服療法があります。内服する方法では、眠気を来たすので、まずは錠剤を呑みこまずに口の中に含んでおく方法が推奨されています。また、αリポ酸という抗酸化剤や抗うつ薬の大量投与を勧める研究者もいます。しかしながら、これらの薬剤は、いずれも報告者によってその効果がまちまちで、未だその有用性に関する科学的根拠は十分ではありません。このため、これらの薬については、日本では舌痛症の治療薬として承認されていませんので、通常の治療法(保険診療)として用いることはできません。あくまでもまだ研究段階とご理解ください。

認知行動療法とはどのようなものですか?

認知行動療法にはいくつかの方法があります。マインドフルネス法とは、痛みを観察し、それを乗り越えてゆく方法です。例えば、自分が行っている呼吸について観察し、客観的に呼吸を行っている自分を認知することによって、第三者的に自分の行動を認知できるように練習します。次第に痛みと向き合っている自分を観察、認知できるように持ってゆき、痛みをコントロールできるようにします。個別に指導することも可能ですし、集団指導することもできます。集団指導の場合には、患者さん同士がコミュニケーションを持つことで互助的な効果も期待できます。自律訓練法は、リラックスできる方法を学習するもので、自律神経の緊張を取り除き、不安を抑えることで痛みを軽減する効果があります。

歯科を受診したら精神科の受診を勧められました。舌の痛みで受診したのに、なぜ精神科なの?

これには、2つの理由があります。まず、第一に先にも述べましたように、舌痛症の患者さんは心理社会的なストレスを抱えていることが多く、不安やうつが痛みを増強していることが考えられるからです。歯科では、不安やうつに対する投薬は十分に行えませんので、それぞれの患者さんが必要とする治療を効率的に進めるために専門領域の受診をお勧めするのです。第二にうつ病のお薬が、うつ病だけでなく慢性痛一般に痛みを軽くする効果を有しているからです。このことは、身体が本来有している痛みを抑制する機序を抗うつ薬が増強することによると考えられています。がん性疼痛や神経障害性疼痛といった慢性痛には、すでに抗うつ薬を保険診療で用いることが拡大解釈的に認められていますが、舌痛症に対しても同様の効果が期待されています。これらの治療薬を専門的に扱っている専門診療科は精神科、心療内科ですので、患者さんに楽になっていただく一つの手段として紹介するのです。

日本大学歯学部口腔診断学講座(付属歯科病院ペインクリニック科)
教授 今村佳樹

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