3.抗血栓療法を受けている方
(1)抗血栓療法とは
心房細動や脳梗塞などが疑われる患者さんは、血栓を予防する目的で血液をサラサラにする薬が処方されることがあります。血流の速い動脈での血栓予防を目的とした抗血小板薬と、血流の遅い静脈での血栓予防を目的とした抗凝固薬の2種類があります。
抗血栓療法 = 抗血小板薬の投与 or 抗凝固薬の投与
特に抗凝固薬ではワーファリンが主体でしたが、最近DOACと呼ばれる半減期の短い直接作用型経口抗凝固薬が多様な種類で処方されるようになってきています。
主なお薬を下の表に示します。
抗血栓療法の種類
抗血栓療法 | 代表疾患 | 抗血栓薬(商品名) |
抗血小板 | 心筋梗塞、脳梗塞、狭心症など | バイアスピリン、パナルジン、 プラビックス、プレタール、 エバデール、ペルサンチン、 アンプラーグ、ドルナー |
抗凝固 | 深部静脈血栓症、肺塞栓、 心房細動など |
ワーファリン、DOAC※ |
※DOAC とはプラザキサ、リクシアナ、イグザレルト、エリキュース
DOACの特徴
商品名 | プラザキサ | リクシアナ | イグザレルト | エリキュース |
---|---|---|---|---|
一般名 | ダビガトラン エテキシラート |
エドキサバン | リバーロキサバン | アビキサバン |
用法 | 1日2回 | 1日1回 | 1日1回 | 1日2回 |
最大効果 到達時間 |
2 | 1-2 | 2-4 | 3-4 |
半減期時間 | 12-17 | 6-11 | 5-13 | 8-15 |
腎排泄率 | 85% | 50% | 66% | 27% |
(2)歯科治療時の注意点
1)お薬手帳を提示
歯科を受診する際には必ず服用の旨を申し出るようにしてください。また決して自己判断で薬の服用を中断することのないようにお願いします。抗血栓薬を処方されている場合には、薬の種類、用量のほか薬の効き具合の指標となるPT-INR (Prothrombin Time - International Normalized Ratio:国際標準比)値などの情報提供をお願いしています。
2)抗血栓薬は止めない
抗血栓薬は止血機能が阻害され出血時間が延長する一方で、これらのお薬を中断することによって脳梗塞をはじめとした血栓塞栓症を誘発するリスクが高まることが分かっています。抗血栓薬の服用を継続したまま行う外科処置後の出血のリスクと、抗血栓薬を中断した際におこる血栓塞栓症の発症のリスクを比べた場合に、中断による重篤な血栓塞栓症リスクのほうが圧倒的に命にかかわるため、できるだけお薬の中断を避けなければなりません。
3)歯科処置
通常の歯科処置は可能ですが、抜歯や歯周外科の処置では局所止血の技術が必要となります。体内と違って口腔は外表の処置ですから止血は可能です。ただし、複数の抗血栓薬を服用されている方や、薬の効果が強く止血が困難と判断されるような場合では歯科治療を見合わせることもあります。
参考文献
- 抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン2020年版、学術社、東京、2020.
東京歯科大学名誉教授、千葉歯科医療センター客員教授 柴原孝彦 |